誰がため、何のためのサッカーか。ジュニアサッカー取材備忘録
2019年09月04日
育成/環境サッカーの成長は社会に通じるものになるべき
そして、前述した二つの評価基準に大きく関わり、私自身が最も大切にしているものは「心の部分」だ。
たとえ、サッカーの基本的なプレーメカニズムをうまく表現できていたとしても、その選手が、例えば好奇心を抱いて試合に参加していなければ「うまい」とは評価しない。なぜならサッカー選手として心の部分を内包していなければ、主体性を持ちながら周囲との関係を築いて成長できないからだ。
私は、サッカーでの成長は「社会とのつながり」が深く関係していかなければ意味がないと思っている。でも、日本の育成指導者の中には「自分が上を目指しているから、子どもも上を目指そう」と、結果的に強要する形になっている人たちがたくさんいる。それは子どもをサポートしたい保護者にも同様なことが言える。みんな「プレヤーズ・ファースト」と口にしながら自分目線に子どもを合わせようと必死だ。
「こうやったほうがうまくなる」
「こうやったほうが勝てる」
「考える力を身につけろ」…etc
子どもが成長するために投げかけている言葉そのものはアドバイスなのだろう。しかし、どの言葉にも共通することは「子ども目線に立っていない」こと。もし自分が子どもだったら、これらの言葉を投げかけられて「心が揺さぶられる」だろうか? 私は「心が人間を機能させる」と考えている。だから、子どもたちの中の「うまくなりたい」、「勝ちたい」と思うスイッチが入らなければ、人形に言葉を発しているのと変わらない。
たとえ、「こうやったほうがうまくなる」、「こうやったほうが勝てる」と指導者や保護者がわかっていたとしても、プレヤーズ・ファーストをうたうのならば、そこに至る過程のすべてを選択し決定するのは子どもに全権があることを理解していなければならない。そうすれば、言葉の投げかけ方は自然に子ども目線になる。
長年、ジュニア年代を中心に取材活動をしていて「特権だな」と思うことがたった一つだけある。それは、FCバルセロナ、FCバイエルン・ミュンヘン、パルメイラス、スポルティングCP、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリードなど、世界の名門クラブの育成指導者たちと直接話ができることだ。これがトップチームの監督やコーチならほぼ不可能に近い。そして、その名門クラブの育成指導者たちが口をそろえて言う共通の言葉がある。
「子どものアイディアを大切にしている」
「プレーを選択するのはすべて子どもたちだ」
つまり、子どもたちが答えに至る過程に一切口出ししない。「なぜ日本の子どもたちのプレーには多様性がないのか」と考えたことがあるだろうか? それは答えに至る過程にまで指導者や保護者が口出ししているからだ。それは社会にも起因している。例えば、算数の教科書には四則計算の例題として次のように記載してある。ただし小学生向けの算数本を作ったこともあるので、「少しずつ変わってきている」のをわかっていることは誤解されないように補足しておく。
21+3=□
欧米では、下記のように過程が空欄になっている。学年が上がると「+」「−」「×」「÷」すら考えさせるとも聞いたことがある。
△+○=24
単純に、どちらが子どもの心を揺さぶるだろうか? サッカーにおいて大切なのは、答えを知ることではない。答えにたどり着く過程で、自分がどう考え、行動し、失敗や成功を繰り返したか。それが大事で、それが社会に通じていくものになるのではないだろうか。うまい下手、勝った負けたで得られるすべてを否定するつもりはないが、ジュニア年代においてはそういうことが選手の成長の弊害になることがあることも知っておかなければならない。そして、それがジュニアユースに上がると消える原因の一つになっている。
みんな「プロを目指せ」というが、プロになった選手も引退後は社会の中でサッカー外の人たちと仕事をしながら生活していく。だから、私は「サッカーの成長は社会の中でも通用するものにならなければ意味がない」と思っている。イングランドでは、サッカー選手を構成する4つの要素の一つに「社会性」という項目がある。
ぜひ一度、子どもが「何のためにサッカーをするのか」ということを見つめてほしい。
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