指導者・審判不足、体罰・パワハラ問題etc…フットボールの世界で起きている問題は、日本の社会にもつながっている

2019年12月18日

育成/環境

現在、4種の競技人口は少しずつ減っている。地方からどんどん少子化の波が押し寄せるなか、サッカークラブに限らず、この問題はすべてのスポーツクラブを運営・協力しているコーチや保護者が向き合わなければいけない。

私たち「今」を支えるクラブ指導者は一体何ができるのか?

12月の特集では「ジュニアクラブはどう地域と関わるべきか」を軸に、これからのジュニアサッカーの在り方について考えていきたいと思う。そこで昨年に引き続き、3名のサッカー指導者に現場の立場から率直な意見を語っていただいた。第三弾のテーマは「指導者、審判を含めた運営側の高齢化」などについて話してもらった。

【12月特集】ジュニアは地域とどう選手を育むべきか

【司会】編集長/高橋大地
【指導者】FC市川GUNNERS(ガナーズ)=南里雅也  大豆戸FC=末本亮太  FC大泉学園=小嶋快
【担当ライター】木之下潤


※第2回はコチラ
子どもが減ればコーチも減る。押し寄せる少子化の波。解決の手立てはあるのか


パワハラ 体罰

議題は指導者、審判の高齢化について

末本 地域クラブや地域チームの子どものチーム分けはどうやっているのでしょうか? よくあるのが 「均等分けでやれ」って言われてずっとやっているけど、結果勝てないから子どもたちが辞めていくんですよね。競技志向の子もエンジョイ志向の子も。木之下さんがコンサルしている地域クラブではどうなんですか?

木之下 そこはクラブ内の仕組みの話だと思うんですよ。私が関わる少年団レベルの地域クラブは3回試合をしたら2回は負けるようなところです。正確には2018年4月から関わっていますが、選手数の結果だけでいえば卒業生もいるので状況はあまり変わりません。最初に契約段階でクラブの代表に話をしたのは「全員を試合に出すこと」が条件の一つなので、コーチは「絶対に試合に出さないといけない状況」なんです。

 つまり、うまくやりくりしながら勝ったり負けたりを繰り返す状況にあるので、そこをクリアするために指導のレベルアップが必要になり、それが一つハードルとして存在します。

 地域のクラブなので1チーム、1学年で16人を超える状況にはありません。そうすると、必然的に「1試合あたり1人は必ず半分出る」という条件になります。そして、地域のワンデイマッチは一日に一試合では収まらず、2〜3試合は実施されることになります。すると、選手の組み合わせをトータルでどういうセットにしようかと考えなければなりません。うまい子だけが集まるセットもあるし、下手な子が集中してしまうセットもあるし、バランスを取れるセットもある。2試合あれば、4セットあるので「どの組み合わせで、どう子どもの学びにつなげるか」はコーチ次第です。

 私は、そこをコーチに対してアドバイスしたりフィードバックしたりして指導者育成をしています。サッカーのことを知る、選手の特徴を知る、それを試合でどう組み合わせる。地域では同じレベルの選手たちは集まらないし、同じレベルのチーム同士で試合ができるわけでもありません。それが「今」変えられることじゃないこともわかっているので、出場する選手によってどううまくチームを回すのか、積極的に勝ちを狙うのかを状況によってコーチと話をしています。

 ある選手にとっては、ちょっと勉強のためと我慢してもらわなきゃいけないこともあります。そういう場合は、必ず次の試合で希望のポジションで思い切り実力を発揮してもらう環境を作っています。その日その日の選手状況をすべて考慮し、全員のプラスに働くように仕掛けていくのがコーチの力量だと考えています。私がサポートしているクラブの選手たちはコーチ陣とのコミュニケーションを通じてそれを理解しています。その循環や仕組みに目を向け、自然に選手が学んでいくように全スタッフで見守っている感じです。

 じゃあ、1年半で何が変わったか?

 よく聞かれますが、練習の質は間違いなく変わりました。コーチは当然全員を試合に出さなきゃいけない状況ですし、その中で勝ちを目指すのは並大抵のことではありません。そして、これが一番変化したことですが、笑顔が増えました。全員が出るからみんなが楽しくプレーします。さらに保護者にも笑顔が増えました。そういうことがあり、クラブの代表は、練習場としてグラウンドを借りている学校から体育指導の授業を依頼されたり、地域との関係づくりが少し進んできました。勝敗でいえば負けていることが多いクラブですが、少しずつ新しい会員や練習参加希望者も増えてきていますし、いいクラブとして根づいていると思っています。

 私は第三者としてコーチに知識を与えたりフィードバックしたりして、その結果子どもの笑顔が増えて、保護者の不満が少なくなって、と1年半かけてコツコツと取り組んできました。いまは保護者教育として「クラブ便り」を作って月末に配布してもらっています。

末本 すばらしい取り組みだと思います。ジュニアサッカーの世界は、すごく閉鎖的ですよね。どこも地域に根ざしているはずなのに…。第三者が入る隙がないというか、例えばB級ライセンスを取得するときに「地域のために何ができるか」を課題としてレポート提出させられるのですが、実際にチームで「どのような改善があったか」を報告するなどをしたほうが現実的です。指導実践もしかり、実際にそこの子どもたちを指導して「どれくらい改善、変化があったか」、そういうほうがお互いにとっても得るものがあるはずです。

小嶋 指導者の数は増えていますけど、中身の問題だと思います。最近では、SNSなどの動画を見て勉強した気になっている指導者、1つの意見に影響され過ぎてしまう指導者もいますが、実際に現場に行って他のコーチの指導する姿を見て熱を感じたりすることが大事だと思います。その気持ちの部分はベースとして持っていないと、若いコーチは冷めていたりしていてなかなか続かない現状があります。「えっ、もう辞めたの?」というコーチは多いです。

高橋 大学生などの若い方から「指導をやってみたい」と相談されることはありますか?

小嶋 OBからはありますが、特に大学生からはありません。

南里 うちのクラブのトレーナーは専門学校の講師をしているので、その学校の実践講習としては2〜3人訪れたりはします。たまにその中からアルバイトとしてやってみたいというコーチもいます。インターンのような形ですね。

末本 以前、私たちも近くの大学とそういう話がありましたが、結局なくなりました。未来の指導者希望の若い人は増えているはずなんですが。私たちの地元の協会大会では審判を出すのにどこのチームも四苦八苦しています。地域の大学サッカー部などと連携して、審判をお願いしてもらうなどすればいいキッカケになると思うのですが。登録していないスタッフが審判をするのはダメだと回答を受けてしまい、そういった話はなくなりました。地域クラブと周辺の学校などがもっとオープンにして繋がりを構築できれば、お互いにとってメリットしかないと思うんですが難しいのが現状です。

高橋 審判が高齢化している現状もありますよね?

末本 いろんなリーグ戦が乱立していて、そこが精査されずに増えすぎてしまって、審判は足りない状況です。若い審判も足りていません。資格を取ったり、維持したりするのにお金もかかりますからね。3種の試合では年配の方が担当となり、選手のプレースピードについていけないこともよく目にしますが、文句は言っていられないのが現実です。

小嶋 今年の夏に途中から4審が入ったことがあったのですが、主審の方が高齢の方だったので大変そうでした。

末本 低学年の3審制、4審もしかりですね。「本当に必要ですか?」と。ルールも年々更新されるし、大変です。

小嶋 審判も指導者もお金をちゃんともらえたらいいですよね。特に公式戦で笛を吹いているユースの審判に聞くと、「一回2千円くらい」というので交通費でなくなってしまいます。それは普通のバイトをしたほうが稼げます。

木之下 私は選手として三鷹市の社会人リーグに所属しているのですが、チームでは審判費として一人500円集めて、審判をしてくれた人間に渡すようにしています。そういうやり方もあると思うんです。審判の派遣を仕組みとして地域ごとに作っていくのはありなのかなと。

南里 ジュニアやジュニアユースも、チームによっては徐々に派遣審判に依頼して報酬を出すような環境になっています。ようするに、クラブのコーチはほぼやらない、と。試合後にすぐ着替えて審判みたいなのは大変なので専門の審判員に依頼する形になります。土日のダブルワークとして、一試合いくらと報酬を設定すれば審判の育成としても成り立っていくと思います。ニーズはあるので、その仕組みを作ればいいと思います。クラブによっては、どうしてもジュニアとジュニアユースで公式戦がかぶる場合がありますから、うちは派遣審判をお願いすることがあります。

小嶋 東京のTリーグの試合はレベルが高いので審判をしたい人もいるはずです。審判レベル向上のためにも派遣審判員に吹いてもらうのも1つ方法としてありだと感じています。

南里 ジュニアユース以上の試合を見ていると、コーチ陣が審判に対して敵対視している人もいます。そういうのを目にすると、審判は「やりたくない」となると思うんです。少しミスしただけなのに、「審判のせい」みたいな。ジュニアユースに上がると、なぜか審判への罵声がすごい。そういうところから変わっていかないといけないと考えさせられます。

木之下 そういう人が地域との関係を築いていけるのかは疑問です。コーチ自身がオープンに物事を考えたりできるかどうかによります。私は外部としてクラブに関わっているので、他のクラブのスタッフとも話をしますが、コンサルするクラブの他のスタッフは意外とそうではありません。やはり人間としてのパーソナリティの部分に行き着いていくのかなとも思ったりはします。現場を見ているとクラブ間のコーチ同士の交流ってあまりないですよね。例えば、トップチーム同士は大会後に食事したりしていますが、地域に目を向けるとどうしても健全には見えず、選手同士の奪い合いとしてのライバルみたいな雰囲気が感じられます。

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【FC大泉学園の小嶋快さん】

コーチの体罰、パワハラの問題について

高橋 ジュニア年代で体罰パワハラはどうでしょうか?

南里 最近はSNSなどで拡散されるので、随分減っているとは思います。どうしても僕自身もそういう環境で育てられてきたことがあるので、意識しないと言葉はよくならないのではないかなと。そこが変わった瞬間に、子どもたちの反応も明らかに変わりますから。過去の指導ではコーチングの言葉使いはひどかったけど、いまはプロコーチとして少しずつ変わっています。わざと厳しくいうときもありますが、言葉を選べるようになっています。今後は自分のチーム以外の他のチームでも行き過ぎたコーチングを見かけたら、指導者仲間として指摘してあげないといけない。どうしても日本人はそこを遠慮してしまう面がありますから。星稜高校も、湘南ベルマーレのパワハラ問題もパワハラはパワハラです。勝負に関わるプレッシャーもあるので気持ちはわかりますが、そういうことを減らしてもやっていけると思います。いま日本は転換期に来ています。年上も年下も、ダメなものはダメ!プレーヤーズ・ファーストを考えるなら私たち指導者が勇気を持ってやってかないといけないと感じます。

木之下 自チームじゃないから、他チームだからという壁の作り方はなくす必要があります。コーチがパーソナリティをどこまで上げていくかにかかっています。

南里 千葉の4種のリーグは会場結果報告書の中に「暴言とかはなかったか?」などの記入欄があります。そうやって地域の協会レベルで把握していく必要はあります。特に千葉のトップリーグは見られている環境にあるので、暴言や暴力はありません。

小嶋 都大会は本部にマッチングコミッショナー的な方がいて、試合後「このコーチングは良かったが、このコーチングは…」みたいな話をされます。パッと悪い言葉を使ってしまうと、すぐに本部から「いまの言い方はちょっと」と指摘を受けます。

末本 その問題は夏場の試合や点差がつくレベルのかけ離れた試合が一つの要因にもなり得ると考えています。暑いなか、点差が大きく離れたら選手に過度な要求をしてしまう背景もあると思います。あとは、指導者が相手チームであっても見て見ぬふりをしないということですね。いまだにそういったことをやっている指導者も実際あるわけです。それを許しているのは対戦相手だったり、地域のチームです。最近、地元の大会で汚い言葉を放つ年配の方に指摘したら言い合いになりました(苦笑)。ダメなものはダメと伝えるのは周りの大人の役割だと思います。

木之下 社会人リーグの話で申し訳ないでのすが、三鷹市リーグは終わった後にマナーチェックにサインが必要です。お互いのモラルみたいなものを抑制する機能を果たしています。ジュニアでもそういうことがあれば、互いの監督もマナーチェックによって暴言も言い難い環境になると思いますし、相手の監督の選手に対する対応も指摘しやすいのでは?それは自チーム、相手チームに対するものです。

小嶋 結局、体罰やパワハラは指導者がストレスを必要以上に感じるからやってしまうと思うんです。南里さんは埼玉、東京、そして現在の千葉(ガナーズ)と環境が変わるとともにコーチングを変えられて対応されています。

 私もチームに関わり始めた当初は、「少年サッカー界が厳しくやる」のが流行っていました。でも、そこから選手に合わせた過保護になり過ぎた指導が流行りました。いまは細かく教える指導が流行っているように思えます。そういう流れにもうまく自分の指導スタンスを変えられるといいと思います。もちろん、自分の指導の芯はブラさないようにして、です。若い指導者との交流も最近は増えてきて、いろいろと質問や意見を聞くようになりました。それぞれ指導者としてのやり方はあると思いますが、「自分のやりたいことはあるけど、子どもや時代にちょっと合わせること、保護者の気持ちを考えることも必要だという話はします。

>>12月の特集第四弾は「12月25日(水)」に配信予定


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