街クラブのコーチは子どもたちの「心」にアプローチできる。街クラブだからこそ身に付く指導力

2020年02月26日

育成/環境

2月の特集は「街クラブのコーチに選手育成を聞く」と題し、センアーノ神戸を取材した。このクラブは兵庫でも安定してベスト4に位置し、12月に鹿児島で開催された「全日本U-12サッカー選手権大会」でもベスト4に進出。2016年にはバーモントカップと全日本の二冠を達成し、その育成手腕を証明している。そこでU-12の監督を務める大木宏之氏に話をうかがった。今週のインタビュー最終回では「一人審判、年代別試合環境、ジュニアのプレー課題など」について、大木氏の考えを聞いた。

【2月特集】街クラブのコーチに選手育成を聞く 〜センアーノ神戸〜

取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之


センアーノ神戸

一人審判、年代別試合環境は向き合う課題

――選手と同様、コーチも公式戦の本番でしか飛躍的な学びは得られません。

大木 本当にその通りです。子どもも親も思いを持ってクラブに通っているわけですから、コーチはそれを受け止め、結果で応えていく力をつけないと意味がありません。うまくいくこと、失敗することの繰り返しですから若いコーチも経験しないと才能が伸びるはずもない。トップチームを預かるプレッシャーの中でしか、うちが提供できる新陳代謝は思いつかないです。

――きっと十分です。ちなみに一人審判はどうお考えですか?

大木 どちらかといえば、賛成です。確かにメリットとデメリットはあります。私も県リーグで審判しますし、レベルの高いチーム同士の試合などは展開が早いから一人だと大変なことは多いです。正確なジャッジで言えば、デメリットです。でも、メリットもあります。あくまで個人的な意見ですが、海外のチームと試合をすると思います。「ファウルだ、ファウルじゃない」の部分、つまり駆け引きです。ちょっとしたテクニカルの部分ですが、一人審判は駆け引きの部分が学べると思うんです。

 特に日本のジュニアは三審制だとなんでもファウルになる傾向が強いので、選手が安パイを選び、ギリギリの駆け引きをする選手が育たない土壌があると感じています。そういう意味では、一人審判のほうが駆け引き上手な選手が育つはずです。裏への飛び出し、アグレッシブなチャレンジというか、オフ・ザ・ボールの動きにつながっていく気がしています。

 もう一つは経営的なことです。

 街クラブはスタッフの人数が限られるので、一人のほうが助かります。「全日本U-12サッカー選手権大会」の神戸市予選は三審制だから、チーム内でしっかり割り当てを作って対応する必要があります。クラブとしては選手のお父さんに簡単にお願いすることもできません。でも、どうしても足りない場合はたまにお願いして謝礼を出します。審判が一人だと、その分BチームやCチームにスタッフを回せるからその子たちもそのときに試合ができるんです。スタッフがいれば、試合が組めます。うちのクラブはAもBもCも試合数が同じという大原則がありますから、そういう部分では一人審判は賛成です。

――少し話題を変えて。人数制のレギュレーションですが、兵庫でいうとジュニアユースになったら11人制になりますか?

大木 そうですね。完全に切り替わります。

――関東だと、11人制を経験させる取り組みを一部のJクラブなどが行っています。

大木 兵庫はまったくないですね。独立リーグみたいなことも聞いたことがないです。正直、やらせてあげたいです。4年生は難しいですが、6年生のこの時期は11人制に切り替えたいくらいの気持ちです。でも、グラウンドがないんですよね。

――兵庫もグラウンド問題はあるんですか?

大木 ありますよ。あまり多くはありません。Jグリーンが大阪にできたのはとても大きかったです。それでも、東京に比べたらマシかもしれません。

――小学校のグラウンドのような場所で練習することが多いんですか?

大木 うちは基本的に小学校のグラウンドをお借りしているので、ピッチ一面しか取れません。一面取れない小学校もありますし、うちは二つの小学校からお借りしていて、うち一つは工事中だから使えない状態です。

――なるほど。ちょっと話が前後するのですが、11人制とは逆に5人制などカテゴリーに合わせて減らすことはありますか?

大木 8人制以下の大会は聞いたことがありません。ただ、クラブ単位で1DAYマッチでの取り組みはあります。うちは3年生以下では、6人制や7人制の練習試合を行っていたりします。ジュニアサッカーの暗黙の了解として会場を提供したクラブがレギュレーションを決めることが多いので、うちはU-12サイズのピッチを二つに分けて6人制、もしくは7人制を採用しています。そのほうがボールにたくさん触れますし、判断も磨かれます。ほとんどのチームは受け入れてもらえます。

――日本には、人数やピッチサイズの調整を行う柔軟性を持ったコーチがまだ少ない気がします。兵庫県内を見回してどういう印象ですか?

大木 あまりいないかもしれませんね。今年から5人制サッカーをやってみようと思っています。

――個人的には、サイズを小さく、人数を少なく設定してバンバン交代させて試合を回したほうが楽しいのではないかと思います。

大木 明日からドイツ遠征に行くのですが、室内5人制サッカーなんです。フットサルではなく、サッカールール。そのルールで練習させると、サポートの角度とか、動いたスペースの活用とかたくさん出てきます。まさに木之下さんが1月に書いていた記事「日本人はプレーの関わり方を知らない。現代サッカーで通用するための基本とは?」のような現象が浮かび上がってきます」

――ドイツは試合を多様にオーガナイズするのが上手です。11、9、7、5人制が基本ですが、最近は「フニーニョ」という3人制にまで進んでいるのですごいです。

大木 人数を減らすこと、あとコートを狭くすることでボールを触れたり判断したりする回数が多くできるので、絶対にオーガナイズ次第でうまくなる子は増えるはずなんです。動く人数も必要なので、サッカーそのものを学びますよね。

センアーノ神戸

プレー課題は能動的に変化を起こせないこと!

――ジュニアの課題の一つ「プレーが途切れること」が、私は人数やコートの調整で解消できると考えています。特に「全日本U-12サッカー選手権大会」はその点がすごく気になりました。「切り替えの瞬間に守備の戻りが早い→だから、緩やかにビルドアップを行う→どちらのチームもその連続を繰り返す」。セットした状況で攻撃する、セットした状況で守備をする。端から見る分にはキレイに整ったサッカーです。しかし、私の目にはバスケットボールやハンドボールに近いスポーツに映るんですよね。攻撃と守備がはっきりしたスポーツというか。サッカーはそのはっきりした状態を壊すこと、カオスを生む積極的な仕掛けが試合の勝敗を大きく左右します。

大木 Jクラブは展開が緩やかですよね。

――ここから先は、私個人の見解です。Jのジュニアのコーチはプロ上がりで経験がない人が担当することも多々あります。そうすると、自分たちの価値観の範疇でサッカー指導を行うので、これまで経験したイメージ=形に落とし込むコーチが多く見られます。全国レベルの相手だとそれでは崩しきれないし、彼らも自分たちの型そのものも崩しきれないから試合の中で能動的な仕掛けができないんじゃないかと感じています。

 例えば、Jクラブがビルドアップ時にセンターバックをサイドに二人張らせますが、対戦相手によってはそれも必要ないです。彼らみたいなテクニックがあれば、GKにどんどんボールを運ばせて数的な質的な有利を作ればいいと。ようは、自分たちから停滞した状況を壊しにいけるアクションを起こさないと世界では通用しない。ジュニアに限っては、Jクラブの選手はそこがあまりうまくありません。だから、街クラブにはいい意味で空気を読めない子が育つんです。

大木 それは共感します。

――全日本の決勝は、その典型だと思っています。柏のサッカーって何年もずっとあの状態なんです。現時点で、私は『彼らが変化を起こすアクションができない』と評価しています。あくまで推測ですが、自分たちが決めている『サッカーはこういうもの』、もしくは『ジュニア年代のサッカーはここまででいい』という概念から逸脱できていない気がします。リスクを負いますが、自分たちから能動的なアクションを起こさないと子どもが成長できないと感じています。

大木 そう言われると当てはまることもありますよね。

――一方、街クラブはコーチの経験とアドリブ力が高いので、ゲームが停滞してきたときに変化を起こせるんです。サッカーの知識量ではJクラブのコーチが上かもしれません。でも、身につけている実践の指導力では街クラブのコーチが2枚も3枚も上です。

大木 Jクラブのコーチはすぐに交代することが多いです。もちろん、クラブによっては違いますが。だから、逆に難しいでしょうし、大変だろうなと思います。私たちは長年やっているので、過去にたずさわった選手たちが大人になるまでの経過がデータとしてあります。「こういう選手にこのようなアプローチをしたら、大人になったときにこういう選手になった」というデータです。

 また、サッカーだけではなく、街クラブのコーチは子どもたちの「心」にアプローチできるコーチが多いように感じています。そのアプローチが結局、子どものやる気を引き出し、サッカーの成長にもつながっていく。その部分では、私たちのような街クラブのコーチのほうが経験豊富だと思います。

 そして、それを常にアップデートできれば、さらにコーチとしても成長できると考えています。逆に、Jクラブのコーチは1年契約の方が多いので、なかなか思い切って指導しにくいんじゃないかなと感じたりもします。

――コーチの価値観が「ビルドアップから」と凝り固まっています。そろそろお時間が来てしまいました。来週からのドイツ遠征、楽しみですね。

大木 いやー、ボコボコにやられるんじゃないかと思っています。

――きっとセンアーノの選手は大丈夫ですよ。ジュニア年代は日本の子たちのほうがコーディネーション能力が高いので、ドイツの子たちは戸惑うはずです。

大木 うちの4年生は小さいので、随分と体格差があるはずです。

――サッカーの価値観の違いみたいなものが感じられるはずです。声かけのタイミング、子どもの接し方…日本とは違うことがたくさんあります。

大木 いろいろ学んできます。

――今日はお時間をいただき、ありがとうございました。

>>3月特集「タイの育成事情」は「3月4日(水)」に配信予定


【プロフィール】
木之下潤(文筆家/編集者)
1976年生まれ。福岡県出身。様々な媒体で企画からライティングまで幅広く制作を行い、「年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「グアルディオラ総論」(ソルメディア)などを編集・執筆。2013年より本格的にジュニアを中心に「スポーツ×教育×心身の成長」について取材研究し、1月からnoteにてジュニアサッカーマガジン「僕の仮説を公開します」をスタート。2019年より女子U-18のクラブカップ戦「XF CUP」(日本クラブユース女子サッカー大会U-18)のメディアディレクター ▼twitternote


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