日本人は「プレーの関わり方を知らない」 現代サッカーで通用するための基本とは
2020年01月15日
育成/環境昨年末の「全日本U-12サッカー選手権大会」は、決勝戦で「柏レイソルU-12(千葉県代表)×バディーSC(神奈川県第二代表)」が対戦し、バディーSCの優勝で幕を閉じた。あくまで全国大会に出場する国内トップレベルの話だが、少しずつ指導格差も小さくなりつつあり、大量得点差も減ってきている。いよいよ、ジュニアサッカーは次の段階へと足を踏み入れている。
ちなみに今回もまた取材陣が減った。決勝以外の貴重な情報を独自に届ける媒体は、すでにジュニサカWEBだけとなった。そこで、今年一発目の特集はこの大会を取材して気づいたことを備忘録として残しておきたい。一テーマ特集では伝えられない大事なこともあるので、毎週コラム形式で多様なテーマを綴れたらと思う。特集の第二弾は「プレーの関わり方」について書いていきたい。
取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之
プレーに関わる=ボールに関わることではない
「アクションが少ない」
U-23日本代表の試合を見ていて、ずっと思っていた。ボランチの齊藤未月が孤軍奮闘してボールを奪い、隣の松本泰志やサイド、もしくはインサイドハーフに渡す。その瞬間にアクションを起こすのはほとんど、1トップに入った上田綺世だけだった。
このシーンを眺めていて、私は「全日本U-12サッカー選手権大会」を思い出していた。それは、全日本で起こっていた現象とまったく同じだったからだ。第一回のコラムで、拮抗した試合が多かった理由を「基本システムに立ち位置を取れる」ことに起因していると述べたが、この状況を打破するためには一人だけでなく、チーム全体がアクションを起こさなければ相手に「ネガティブな変化」を起こせない。
U-23日本代表はボランチからサイド、もしくはインサイドハーフにボールが渡ったとき、確かに周囲の選手はマークを外した立ち位置を取っていた。位置取りとしては間違っていなかった。しかし、状況はゼロ・コンマ何秒で刻々と変わる。ボール保持者が顔を上げた瞬間、敵もパスコースを確認して対応にあたる。すでにそのときには、自分が選択肢ではなくなっているのだ。
この国のトップからジュニアまで、プロからアマチュアまで様々な試合を観戦していて「一番の課題だな」と感じるのは「プレーの関わり方を知らない」ことだ。
「プレーに関わる=ボールに関わる」ことではない。実は、地域のジュニアサッカークラブの5年生に先日話をしたばかりなのだが、「ボールに関わることを、サッカーをプレーすること」だと勘違いしている人が多い。それは選手も、コーチも。だから、お父さんお母さんは「ボールに関わる=うまい」という価値観で子どもを評価してしまう。
例えば、上田綺世がディフェンダーの裏に動いたらどうなるか?
そこにスペースが空く。上田のアクションによって起こる変化は、それだけではない。上田が動き出したらディフェンダーの意識がそちらに向くから、空いたスペースに対するケアを数人の相手が忘れる。すると、その空いたスペースで簡単にボールがもらえる。もちろん「ボール保持者と動いた選手の意識がリンク」した上でのことだ。
では、そういうアクションをチーム全体で連なるように起こすことができればどうなるか? 相手チームに変化と混乱が次々と襲いかかる。結果は、ご想像の通りだ。そして、ここでこの状況を冷静に頭の中で思い浮かべると、何か気づくことはないだろうか?
これって「日本人が抱く理想のサッカーに近いのでは?」と思う。
私は、これから日本の選手が身につけるべきことは「プレーとの関わり方」であり、端的に説明すると「オフ・ザ・ボールの考え方と動き方」だと考えている。「全日本U-12サッカー選手権大会」で勝ち上がったチームは、この「プレーとの関わり方」が秀でていた。
もしU-23日本代表の選手が10年前にこういったプレーをコーチから指導されていたらどうだっただろうか。余談だが、各世代の代表チームの試合を分析するとき、こんな視点で見ている。これは「たられば」の話ではなく、ジュニアの選手が現代サッカーをプレーする上で「必要不可欠な基本を身につける」という観点での普遍的な考え方だと認識している。
目の前のカテゴリーだけを注視しても気づくことはできない。「18歳までにどんな選手に育ってほしいか」。そのビジョンが描けていなければ目の前の課題、そして、どう改善したらいいのかを考えることはできない。微力ながらジュニアを中心に様々なカテゴリーの試合を目にしている一人として、できることはこういう気づきを伝えて共有することだけだ。最近は、ぼんやりと「少しだけアクティブな情報を伝える橋渡し役になりたいな」と想像している。
変化を起こすアクションができる選手が違いを生む
サッカーにおいてチャンスとピンチ、ようするに「変化を起こす効果が最も高い」のはどういった状況だろうか?
それは「切り替え」が起こる状況だ。セットされた攻撃、セットされた守備で相手に変化を起こすことは、相当なアクションの質と量が求められる。攻撃側にとっては待ち構えられる状況、守備側にとってはすでに整っている状況だと精神的な余裕も、さらに認知できる内容も随分と違う。切り替えの瞬間に選手がまず行うのは、状況を把握することだ。だから、この一瞬にアクションする人数が多く、意図の伴った質の高い動きをできれば、相手に与える変化と混乱はかなり大きい。
例えば、横浜F・マリノスプライマリー(以下、横浜)が全日本で見せた攻撃。
ここまで語った「切り替え」の概念とは少し異なるが、彼らは自らゲームを組み立てていく流れの中に「切り替え」という概念を「攻撃のスイッチ」に変換し、1トップにボールが収まった瞬間、なるべく多くの選手がアクションすることを心がけていた。あくまで傾向だが、昨年までは「ボールがU字型に動く」ことが多かったので得意のサイド攻撃も、相手にとっては待ち構えて対応できる状況だったので「怖さ」(混乱)がいま一つ足らなかった。
しかし、年末の横浜の攻撃は相手が後手に回るシーンが目立った。このチームも長く見てきて、初めて感じた攻撃の迫力だった。攻撃のスイッチまでは次のような流れだ。
1.最終ラインから攻撃を組み立てる
2.相手も陣形を整えて待ち構える
3.サイドからトップに斜めのパスが入る
or
3.最終ラインからトップにボールが入る
4.その状況を見て複数がアクションする
そのアクションは相手のディフェンスラインの裏を突く選手、トップの後方でフォローに入る選手、その斜め前の位置でボールをもらおうとする選手、そして、サイドのスペースで最終的に1対1を仕掛けようと待ち受ける選手と、大まかに4つだ。
相手はトップにボールが入った瞬間を最も危険な状況だと見なす。すると、守備全体がより密集する。その守備対応の瞬間的な変化は、切り替え時に起こる状況とまさに同じ。だから、アクション効果は非常に高いものになる。これこそが「THE・連動性」。事実、横浜の攻撃は今大会屈指の怖さと美しさがあった。
ボール保持者のスキルを上げるのは大事なことだ。
しかし、同時に周囲の選手がどれだけ意図を持ってボール保持者に関わるのかも大事なことだ。それが直接パスをもらう場合だってあるし、誰かを経由してボールを受ける場合だってある。そういうボール保持者との見えない赤い糸を個々が感じられるかどうかが、チーム力を大きく左右する。
当然、守備も同じだ。
ボールを奪われた瞬間に、近くの選手がどうプレッシャーをかけるのかで守備組織を整える時間、また守備の対応が大きく異なる。そのプレッシャーのかけ方が本気でボールを奪うプレスであれば後方の選手は下がらずに前でパスが入りそうな選手のマークにつくし、時間をかけるプレスのかけ方であれば後方の選手は組織を整えることを優先する。いずれにしろボールに直接関わる選手以外の人間がどうプレーに関わるのかは、サッカーにおいて重要なポイントである。それはボール扱いが上手下手に関係ない。
各世代の代表やJリーグの試合後、選手の採点表と共にコメントが載っている。その内容を読んで、いつも「直接的なボールとの関わり方で評価されているんだな」と思う。毎回、「この評価基準の考え方が進化すると、日本各地で行われるサッカーの質が上がるのかな」と感じる。直接的にボールに関わっている選手だけが、試合の行方を左右しているわけではない。むしろ、チーム力に大きく作用するのは「オフ・ザ・ボールでどうプレーに関わるか」を考えられる選手がどれだけいるか。
ジュニアの指導現場では、トレーニングから「選手同士が赤い糸でつながるような指導をしてほしい」と切に願っている。
>>1月特集の第三弾は「1月22日(水)」に配信予定
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