とある公立高校に起きた変化。自立を妨げないサッカー部の取り組みとは?「選手権という目標はその下にある」

2023年08月29日

育成/環境

7月26日から3日間、佐賀県佐賀市で4校が参加する「SPLYZA CUP」が行われた。佐賀県立鳥栖工業サッカー部は普通の公立高校の部活だが、サッカーという競技を通じて社会的な人間としての成長を目指している。同大会の開催期間中に、その目的とアプローチを三浦一輝先生と徳重栄司郎主将に訊いた。

●協力・写真:株式会社SPLYZA、取材・文:加藤健一(ジュニサカ編集部)


「自分たちの試合を見る時間が増えた」

 連日36度を超える酷暑の中、4校が一同に会して3日間の大会が行われた。2学期に行われる高校サッカー選手権県大会に向けて日々トレーニングに励む選手たちにとって、課題を認識して改善に取り組む貴重な機会となっただろう。

 各校から2チームずつが参加し、2グループに分かれて総当たり戦を行った。Aリーグでは早鞆高校(山口)が1位、岡山龍谷高校が2位、鳥栖工業が3位、有明高校(熊本)が4位だったが、結果はこの大会においてはそこまで大きな意味を持たない。

 選手たちは試合後、自分たちの試合映像を見ながら振り返りを行っている。この大会に参加した鳥栖工業サッカー部の三浦一輝先生は、「選手権予選という最終目標に向けて、共有事項の落とし込み」をこの大会の目的に挙げる。映像を使った振り返りを行うことで、選手間、そして選手と指導者で共通認識を作ることができたようだ。

 今大会で4校が使用したのは「SPLYZA Teams」というツール。プレー映像に自由にタグでラベリングをして、自分たちだけのハイライトを作り出せるだけでなく、矢印などを使うことで視覚的に状況を分析できる。また、スマートフォンを使って選手間で情報の共有をしたり、メモ代わりに記録することもできる。

 「選手たちが自分たちのゲーム(試合)を見る時間が増えたなと思う」と三浦先生は変化を実感する。主将の徳重栄司郎くんも「みんなのコメントをスマホで見ることができるので、気軽に使えていい」とメリットを話してくれた。

 大事なことはその先にある。

「だから選手権という目標はその(目的の)下にある」

 全国的な強豪校ではない鳥栖工業サッカー部は、部員の1/4が中学までにサッカーを本格的にプレーしたことのない生徒だという。三浦先生は競技的な目標よりも、教育的な目標の重要性を感じている。

 「今は大人が入りすぎていると感じています。今の子どもたちはいい意味で守られているし、悪い意味で言えば自立を妨げられている。でも、サッカーだと失敗できるじゃないですか。それをさせたいんです。失敗するのを選手は恐がりますが、予測不可能な社会に対して、積極的な挑戦ができる人材になってもらいたい。だから選手権という目標はその下にあるんです」

 サッカーは決断が連続するスポーツ。選手自身が決断するという経験は、実生活ではあまり多く経験できないかもしれない。その貴重な経験をしたうえで、映像を使って振り返る。これは社会に出たときに活きてくるはずだ。

 「SPLYZA CUP」では参加した8チーム(4校)が一堂に会し、それぞれの分析を全体に向けて発表する時間が設けられた。実際に発表した徳重主将は他のチームの発表を聞き、「自分たちと似ている反省もあれば、反対のチームもあった。真似していこうという部分もあるし、続けていっていいんだなと思うこともある」と刺激を受けている様子だった。

 「SPLYZA Teams」を使うことで、選手たちのアウトプットの機会も増えた。徳重主将は「みんなが意見を言ったり、1人1人が発言するようになりました」と成長を実感している。選手から三浦先生に「このシーンなんですけど、自分はこう思うけど、どうしたらいいですか?」という質問が寄せられるという。三浦先生は選手たちに問い返し、選手たちの中から出た意見から、選手たち自身で正解を導き出させる。

 自ら決断し、反省点をあぶりだし、改善していく。それをチームで協同して進めていく。鳥栖工業はサッカーを通じて、社会に出たときに必要となるであろう大事なことを学んでいる。


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