湘南ベルマーレの「止める蹴る」指導法。意識すべき“3つのタイミング”【短期連載】

2018年03月14日

育成/環境

昨年、サッカーサービス社が『U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2017』の分析講習会を行った。その中では、日本の指導に対する課題がいくつも挙げられた。実際に大会を振り返っても、FCバルセロナを相手に、日本のチームは何もやれなかった印象しかない。子どもたちがFCバルセロナと戦い、普段どおりにプレーしていたかと問われたら「Yes」とは言えない。だが、自分たちのスタイルをそのままぶつけて真っ向勝負を挑み、「日本のチームもこれだけやれるんだ」という力を見せることができた唯一のチームがあった。それは「湘南ベルマーレスクール選抜」だ。そこで、湘南ベルマーレのアカデミーダイレクターを務める浮嶋敏氏に、同クラブの育成について話を伺った。第2回目のテーマは「バルセロナとの戦いで、自分たちの課題をどう見たのか」。全4回の短期連載としてお届けするので、Jクラブの育成に関する取り組みをぜひご一読ください。

■第1回
「どうサッカーを捉え、指導に落とし込むか」。湘南ベルマーレが体現する“ボールを奪う意識”

取材・文●木之下潤 写真●ジュニサカ編集部、佐藤博之、工藤明日香


FCバルセロナはゲームモデルが明確で育成組織まで同じ!

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――『ジュニアサッカーワールドチャレンジ』が11人制サッカーを採用している点も加味しなければなりません。

浮嶋「そこは日本も中学生になれば、すぐに11人制になります。だから、移行することも意識しつつ練習していかなければならないと感じています。バルサの選手たちも、あの大会が初めての11人制サッカーなわけですよね?」

――はい。そこはバルサも同じ条件です。彼らもこの大会から11人制に取り組みました。大会の試合の中で様々なことを飲み込んでいき、毎年あのレベルにまで達します。

浮嶋「おそらく、バルセロナはゲームモデルが明確にあるというのもあるのでしょうね。それは何かといえば、4つの局面(第1回参照)の中で『原則は何か』、そして『その原則の中で何をやるのか』という土台の部分がしっかりしていると思います。

それを前提に普段のトレーニングをやっているので9人制だろうが、11人制だろうがプレーの判断基準がはっきりしています。スペースと人数が変わったので順応するのに少し時間がかかるでしょうが、彼らは大会中でもどんどん良い方向へと進んでいきます」

――移行に関して言えば、大会前の練習も毎年取材していますが、トレーニングは「幅」をどう生み出して活用するのかという点に主眼が置かれています。

浮嶋「幅を取れてもボールを遠くに蹴ることができなければ、それは弱点にしかなりません。そこも合わせて、バルサはトレーニングできているのではないでしょうか。一発で逆サイドまで蹴ることができるキックを身につけていますし、止める蹴るの質は非常に高いレベルです」

湘南は「止める蹴る」をどのように捉えて練習をしているのか

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――では、湘南では「止める蹴る」というスキルを習得するにあたり、どういう手立てを打っているのでしょうか?

浮嶋「止めるやコントロールだけの観点で見ると、3つタイミングがあります。

1.ボールが来る前
2.ボールの移動中
3.ボールを止めた後(ルックアップ)

 この「3つのタイミングで何を見ているか?」がプレーにおいて大事になります。ボールを止めた後に顔を上げることやボールが来る前に周囲を見ることは日本人の指導者でも伝えています。でも、実際は「ボールが来る前」も意識できていません。

――具体的には?

浮嶋「たとえば、『見る』ことに負荷をかけたルールを設けてトレーニングをします。味方、相手がどこにいるのかをボールが来る前、ボールの移動中に観ないとできないルールでプレーすることで自然と状況把握する習慣を身につけていきます。

 一般的には、パスが出てからコントロールするまでに2秒はかかりますよね。2秒あれば、小学生でも5mぐらいは動きます。中学生だと10mは動けるので、その2秒の間に状況を見られる選手になれるか否かは、サッカーをプレーする上でかなり重要です。

 日本人の子どもたちも、実際にはプレッシャーがなければできるんです。だからこそ『ボールを奪うこと』がトレーニングの中になければ意味がないと考えています。

 ブロックを作って守ることもサッカーの局面では必要なことですが、育成年代ではボールを奪う部分はしっかり練習しておかないと他のスキルにも大きく影響します。

『ボールは止められるけど、周りが見られない』とよく耳にします。3つのタイミングを考えたとき、『受ける前に何を見るのか?』というと、具体的にはまず『前を向けるかどうか』です。もし前を向けなければ、『他にコントロールできるスペースがあるかどうか』であり、同時に味方・相手の中で『自分の一番近くにいる選手は誰なのか』です。選択肢にも優先順位があります。

 これができるようになると、『移動中に見ること』にステップアップします。移動中に見ることが大切な理由は、ボールが来るまでの2〜3秒間に状況が変化するからです。だから、移動中に『ここが塞がれた場合、どう変えるのか』を見られなければボールを失ってしまいます。

 相手のプレッシャーがあり前が向けない時でも、ワンタッチで戻すのか、左右どちらかにコントロールするスペースがあるのかが移動中に確認できればボールを失わずに次の展開につなげられます。そして、3つ目のステップとして、『プレッシャーのある中で前線に出せるところがあるのか』が最終的には見られなければいけません。

 日本だと、『ボールが来る前』『ボールの移動中』までの判断がしっかりできている選手はなかなかいません。でも、バルサの選手たちはできています。だから相手にどんなにいいアプローチをされても、自分たちがいい状況を作れるところにボールを置けるんです。そこが彼らとの差ですし、すごく大きいところです。

 こういう部分は、ゴールデンエイジである小学生年代のうちに身につけなければなりません。そうすると、『ボールを奪う』状況が必要になるんです。トレーニングの方法はいろいろですが、ベースとして『ボールを奪う』状況を作らないと攻撃の部分は変えられません。

 相手にアプローチされた方向と逆、もしくは違う方向にコントロールができれば次への展開が楽にできます。その部分を練習に取り入れつつゲームを行うことが絶対条件です。相手がボールを取りに来なければ身につけているスキルの意味をなさないし、攻撃に関係するミスにもミスの本質に気づかないと思います」

Jクラブ同士の試合では明確にできない課題がわかった

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――先ほど話された内容はJクラブ同士で試合をしてもフワッとしか見えず、課題として認識されずに終わるケースも多いのではないでしょうか。日本の育成年代の現状でいうと、「ボールを止めた後」に顔を上げてみることが最優先です。「ボールが来る前」に見られる選手はちょっとできるレベルの選手だと思います。

浮嶋「この点についてはもちろん『体のアングル』が大事です。首を振らなくても前を把握できるような体の向きを作り、しっかりとボールを受けられるようになることが基本です。そして、どのタイミングで周囲を見るのかを身につけます。私たちの週2回の練習でレベルが拮抗した選手同士がバチバチとやりあった結果、夏に参加したようなチームになりました。

 それでも、バルサの子たちはボールを奪われた瞬間に奪い返す速さがすごかった。あれは確実にトレーニングの中で当たり前にやっているんです。指導者が外から言っているだけではやれません。

 彼らが攻撃の質を上げられるのは、激しいプレッシャーにあっても攻撃へつなげられる練習環境が当たり前だからです。私たちは、そこがジュニア年代には一番大事だと思っているので、その点はかなり重視しています。

 あとは個人の特長です。個々に適したポジションがあるので、いろんなポジションを経験させながらトレーニングの中で選手が出すプレーを見て適切なポジションとそこに必要なものを指導しているつもりです。

 足が速いだけでは特長になりません。私たちはサッカーをプレーしているのですから。足が速くて裏をとるのがうまいとか、サッカーに必要なものに昇華してその個性を伸ばしてあげるのが大切です。そうすると、『どういうタイミングでオーバーラップを仕掛けるのか』などポジションや状況において個性を生かすための課題が出てきます。サッカーに関連付けることでイメージをしっかりと持たせるように指導していくのが必要不可欠なことです」

――FCバルセロナはそういうイメージを共有している人数が多く、それがプレースピードの早さにもつながっています。

浮嶋「そうですね。私たちはバルサ戦で2失点しました。確か、左サイドでセンターバックの選手がボールを奪ってから中に切り返し、中央でパスミスをして失点しました。相手からすればボールは奪われたけど、すぐに切り替えてボールを奪い返してゴールを決めました。攻撃をしていても切り替えの早さ、守備への意識の高さが身についています。

 そのときのボールを奪った瞬間の左サイドの選手の動き出しはものすごく早かったです。うちの右サイドバックの選手よりも動き出しが早かったので、その部分の差で失点してしまいました。

 2失点目もシュートのこぼれ球を押し込まれた形でしたが、あれは偶然ではなく、最初のシュートに対して反応をしていたんです。スキルだけでなく、そういうサッカーをプレーすることに必要な当たり前の意識としての差も大きいと感じています」


■第1回
「どうサッカーを捉え、指導に落とし込むか」。湘南ベルマーレが体現する“ボールを奪う意識”

<関連リンク>
U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2017

>>第3回のテーマ「才能をどう発掘し、どんな仕組みで育てているのか」来週更新予定!!


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