なぜ育成年代から「頭の中」を鍛える必要があるのか? その意義を考える【6・7月特集】
2018年07月17日
未分類前回の特集企画(なぜ今「認知」なのか。サッカーの戦術的な理解を広く深めることの意義)では、月刊footballista編集長の浅野賀一氏に「認知」に関するインタビューを行い、メディアの立場からそれをどう考えているのかについて話をうかがった。その中で「プレーモデル」と「認知」の関係が話題に上がったが、日本の町クラブの中にもそこに気づき、そういう視点で独自に指導を行っているクラブも少ないが存在する。その一つが神奈川県で活動する「大豆戸FC」だ。前回(認知とは「状況に応じて的確に早い判断ができること」。大豆戸FCが実践する“頭の中へアプローチ”)に引き続き、代表を務める末本亮太氏に考えを聞いた。
取材・文●木之下潤 写真●ジュニサカ編集部、佐藤博之、Getty Images
オフ・ザ・ボールに対する知識がないと情報として目で認識されない
――たまに個サルに行くのですが、頭の中でプレーイメージを持っている人たちが多いとスムーズにチームとしてプレーできます。でも、そうでない人が多い場合はプレーの速度を落としてアイコンタクトで確認し合いながらのプレーになります。
末本「プレースピードは、オフ・ザ・ボールの準備の質で決まってきます。互いのプレーの共通認識のもと状況を解決していきますので、共通認識がないとなるとスピードが遅くせざるを得ません」
――私も現役で、今季から所属チームが変わったのですが、試合の時だけ集まってプレーするので周囲の選手がどんなプレーをするのかいまだに把握していません。
末本「私が考える『認知』の解釈はプレーモデルやプレー理解を前提条件としています。私もクラブのOBとOVER40のチームで現役を続けていますが、エリア、局面、プレーの原則がない中でプレーするとプレースピードは下がります。基準がない中でプレーすることは、同じものを見てもそれぞれに選択が異なってくるわけですから当然難しくなります。また、小さい頃からオフ・ザ・ボールの部分で『見る』ということをしっかり習慣化できていないと、成人になっても遅いです」
――その成人になって始めることが遅いことは同感です。それが理由で3月からチームコーディネーターという肩書きで町クラブに関わる活動を始めました。知識を増やすこと、その知識の使い方を、まず指導者たちが知っておかないと子どもたちへのトレーニングが良くなっていきません。
末本氏「オフ・ザ・ボールのプレーに対する選手の評価は難しい。例えば、守備から攻撃に切り替わった瞬間にボールから離れるポジションを取ることでプレースペースを作っていることにつながっているわけですが、ボール保持者がそこを上手に活用しなければ、試合を見ている側にはそれがわかりません。そうすると、評価する側がそういった基準を持ってその状況を正しく解釈していなければ、オフ・ザ・ボールの動きでボールから離れた選手たちに正しい評価を下せません。
育成の現場を見ているとオン・ザ・ボールばかりを重要視している指導者が多く、そういった指導を受けているチームが大部分を占めるので、ゲームの多くが1対1の極地戦・肉弾戦の試合が増えていきます。年代が上がっても、そういったことが続いていくと、どんなに練習でそれを身につけたとしてもオフ・ザ・ボールの部分が関係のない状況が増え、選手たちも周囲を見ることをやらなくなっていきます。
私たちは中学、高校にバトンを渡す立場です。例えば、高校年代の試合でたまたま小さい頃からオフ・ザ・ボールに優れた選手の試合を観戦する機会があって見ていると、オフ・ザ・ボールの良さが消えてしまっている子はたくさんいます。ジュニア時代にコツコツと身につけさせたものが中学生、高校生になってオン・ザ・ボールのところばかりを求められる、オフの動きがあってもオンの選手が見つけられない、指導者が評価しない、となるとオフ・ザ・ボールの質が下がる一方です」
――オフ・ザ・ボールのプレーはやり続けなければ感覚も薄れ、サビるのも早いと思います。
末本氏「オフ・ザ・ボールに対する知識がないと情報として目で認識されないので、私たちもそれがもどかしいところです。もちろん、オン・ザ・ボールを軽視しているわけではありません。しかし、オフ・ザ・ボールの場面で味方が『ボールを引き出す』『味方のプレーをサポートする』からボールを持っている選手は目の前の状況を解決できるわけです。だから、オフ・ザ・ボールには『認知』が必要不可欠だということです」
――例えば、ドイツで活躍している長谷部誠選手が評価を受けているのは、オフ・ザ・ボールのプレーです。
末本「テクニックアクションで長けた日本人選手が海外で評価が低いとされるのはオフ・ザ・ボールの部分での課題なのでしょうが、海外でその課題を解決して、再び活躍している選手が増えていることからも私たちには得るものがあります。
3月に平塚で開催された「U15キリンレモンカップ」にレアル・マドリードが参加していたので、中井卓大選手(ピピ)のプレーを見る機会がありました。同世代の日本の選手に比べるとオフ・ザ・ボールの質が高くて、持ち前のテクニックアクションを非常に効果的に使えていましたし、『サッカー選手になったな』という印象を受けました」
【レアル・マドリードの下部組織に所属する中井卓大選手。3月下旬には平塚で開催された「U15キリンレモンカップ」に参加し、優勝に貢献した。】
――私も取材しましたが、オフ・ザ・ボールの部分は確実に日本チームの選手たちよりも上手でした。でも冷静にチーム内の選手たちと比べると監督が「戦術的な成長が必要」という通り、もっとオフ・ザ・ボールの部分を磨かなければ昇格もいけないのかなと。やはりサッカーはチームスポーツなので「選手間のつながり」を指導者がどれだけ個々に持たせながらプレーさせるかは重要です。つながり合っているという認識を持てるだけで認知力も随分と高まるはずです。
末本氏「8人制サッカーになって思うのは、サッカーの質が変わらない現状があることです。小学校低学年、小学校中学年が11人制サッカーをプレーするには刺激が多すぎて、認知することが難しい。だから、8人制にすることでより判断を容易にして、プレー解釈の部分も向上させていきたい。そういうことが目的だったはずです。でも、現実は8人制でも11人制でも変わらないサッカーをやっています。目の前で繰り広げられるのは、ボールに近い場所で行われる肉弾戦。その極地戦が続くので指導者も『体を張れ』『走り負けるな』のような短絡的な指示を送るばかりです。
オフ・ザ・ボールの部分が欠けてしまうと、指導者同士で『認知』に関する議論にも発展しないし、チームとしてのプレーモデルや判断基準などという話題にもならないわけです。そもそも認知しないでプレーするのは、信号を見ないで横断歩道を渡るようなものです。赤で渡っちゃいけないと教えていますか?黄色では何を基準にして渡るのか渡らないのかを決めていますか?と、そういう話です」
【1/22トークイベント】中野吉之伴氏×末本亮太氏『ドイツサッカーの育成文化をどう日本に落とし込むか』
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