その練習試合、本当に必要ですか? 「育成」とは何か/指導者座談会4【9月特集】
2018年09月28日
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リーグ戦の本当の意味を考えていくと解決できる課題が多々ある
末本「私は5年前にバレンシアとバルセロナに行ったのですが、そもそものジュニアのゲームに対する考え方の違いを感じました。彼らは『サッカーはゲームに出場してなんぼ、ゲームに出場してこそサッカー選手だ』という感覚が身に染み付いています。サッカー先進国ですから当然、私たちより歴史を積んでいますし、過去の失敗から改善して今のやり方を採用しているのだと思います。
チビリンのピリオド制では、登録したベンチにいる選手も必ず試合に出るようなオーガナイズになっています。もちろん、スペインでもズルをする指導者もいるようですが、日本の現状だと試合に出られない選手が出てしまうのはある意味で仕方のないレギュレーションだと感じています。
まさに今、私たちはJFA管轄の後期リーグを戦っていますが、試合後に『こんなにも試合に出ていない選手がベンチにいたのか』と驚くと同時に、握手をする時、試合に出ていない子どもたちの悲しそうな顔をみると本当にやるせなくなります」
南里「日本だと、最近は小学生の大会なのに保護者から『勝てないんだったらクビにしろ』みたいな雰囲気が漂っていることがたまにありますよね。変な意味でプロリーグができて少し時間を積み重ねたのはいいですが、育成なのにそういうところだけを都合よく見てしまっている大人が増えたのかもしれません。だからこそクラブが哲学やコンセプトを持って指導をしていかないと、子どもたちを守ることができないと思います」
末本「ちなみに、横浜では大豆戸FCだけが2チームを登録し、公式戦を戦っています。条件は1チーム6年生だけで15名以上の選手登録で、2チームを登録する場合は下の学年は登録NGです。加えて、グラウンド提供をすること」
小嶋「指導者は同じ人がかぶってもいいんですか?」
末本「そこはOKです。うちは在籍する全ての選手に試合機会を提供することを大切にしています。なので、2チームを登録するための条件をクリアできるように努力しています。
毎週末試合があって、そこで試合に出て「勝った、負けた、うれしい、悔しい」を体験して、平日のトレーニングにつなげていく。その繰り返しの中で、いつも子どもの成長に驚かされますし、サッカー選手になっていくんですよね。
グラウンドの問題を抱えるなか、複数のチームがトレーニングしている制限もあります。でも一方で、リーグ戦の最中にかかわらず、県内では恐ろしい数のトレーニングマッチが組まれているわけですから、本当にグラウンドの数が足らないのかは少し疑問です」
南里「それはありますよね。でも、できると思いますよ。『グラウンドがない』と言っても、 毎週トレーニングマッチのお誘いを皆さんが出しています。あれを精査してリーグ戦化につなげたらどのチームも年間30試合を確保できますし、それを地域で運営していけば指導者も選手も保護者もみんな幸せになれると思うんです。
ワンデイマッチや複数のチームのトレーニングマッチを組んで1日4試合くらいやって、朝から晩まで選手も保護者もサッカー漬け。試合に関わるのは、2時間で十分です。送迎も含めたら時間もお金もかかってしまいます。サッカーに関わる子だけでなく、他の子どものこと、またサッカー以外の楽しみもあると思うんです。これって『ジュニアサッカーあるある』ですよね。もうフレームを変えていく時期に差し掛かっています」
末本「そこは今日のテーマ項目に記されている『強豪クラブと地域の街クラブとの問題の違い』にもつながっていくのかな、と。リーグ戦の環境が整えば、現状で力のある子は上部リーグでプレーすればいいし、少し力が足りない子はその下のリーグで戦えばいいと思います。
5点差以上、あるいは10点差以上差がついてしまうような試合をするより、同じレベルの選手同士で戦うようなリーグ戦ができる環境が整えばみんなが幸せになれますし、今起きているような問題も減っていくのはないのでしょうか。
現状は、主に地域の町クラブにレベルの差やモチベーションの差がある選手が混在しています。そうすると、保護者も『あの子に比べるとうちの子は…』と、どうしても言いたくなってしまいます。技術やモチベーションに差があって当然ですし、私は同じ力の選手同士が試合をできるリーグ戦化を整えたらいいだけだと思っています。うまくなれば上のレベルで挑戦する。うまくいかなければ一つ下のレベルのリーグで力をつける。もしくは、楽しみたいから少し下のリーグでプレーする。それだけのことだと思います。
ジュニアユースより上のカテゴリーはすでにそうなっています。多くの指導者は『ヒエラルキーがあると、クラブに選手が集まらない』と心配していますが、ジュニアユースを見ても、下部リーグのクラブに選手が集まっていないわけではありません。むしろ住み分けができているからこそ、入ってくる選手とクラブでミスマッチが起きないのではないでしょうか」
木之下「私はジュニアユースの取材にも行くのですが、彼らぐらいの年齢になると自分自身の立ち位置をちゃんと認識しています。
例えば、出場できるような私立の学校やクラブを選んでいます。自分の力を認識することに中学生も小学生もないですし、4年生くらいになれば子どもはちゃんと『自分の実力はこのチームではこのくらい』とわかっています。スペインでは、ジュニアユースの段階から実力主義に切り替わっていくようです。ならば、日本は『どこでアプローチをするのか』という問題です。
全日本少年サッカー大会(以下、全少)が冬大会に切り替わり、ある意味『小学生最後の全国大会だから出場人数も出場時間も偏っても仕方ない』という言い訳がまかり通るようになってしまったんです。それはデータにも現れています。
では、そういう考え方に基づくのであれば、その前段階で『どういうふうにスケジュールを精査して、どういうリーグ戦を行って…』というのはもっと議論されるべきだと思います。みなさんも発言されていますが、本番を通してしか実力は伸びていきません。だったら、いかに公式戦を戦える試合環境を作っていくのかはみんなで考えるべきことか、と」
末本「その考え方の根幹にあるのは、1年にある公式戦は一発勝負のトーナメントがほとんどで、『9割は練習試合で育ってきた』という私たち世代の指導者のパラダイムがあるからだと思います。リーグ戦が入ると交流試合が組めなくなる、既存の大会ができなくなる、と。
今でも、リーグ戦の合間を縫って、あるいはリーグ戦をとにかく早く終わらせて、毎週末、既存の大会や交流試合が朝から晩まで行われています。ジュニア、特にU-12は子どもも保護者も指導者も24時間365日サッカー漬けです。昨今問題となっている日本社会の働き方の縮図がここに見えます」
南里「海外でいうと国を超えた交流ですよね。日本でいうと、県をまたいだクラブの交流というか。確かに、自分の県では味わえない戦いができるし、指導者同士も志が同じだったりもするから楽しいです。今はリーグ戦が全少に紐づけられているからおかしな方向に進んでいます。
千葉も前期リーグと後期リーグがありますが、上部リーグは昇格と降格がない状況だから単なる育成リーグになっています。リーグの本来の意味がなされてないように思います。一方で、東京はT1、T2、地域での昇降格があるのでリアリティのあるリーグ戦が行われています」
末本「東京のリーグ戦は、全少の枠組みと関係ないんですか?」
小嶋「関係はあります。でも、さらに昇降格が絡んでいます」
南里「東京はブロックリーグもすでに1部、2部ができているエリアもあります。東京はすごく早くて全国に先駆けて整備されてきています」
高橋「編集部でもちょっと調べたのですが、全国でヒエラルキーをもってリーグ戦を行っている都道府県は5つくらいです」
南里「来年から千葉はU-12もトップリーグができます。そうすると、リーグ戦に集中できる環境になります。ただ昇降格がないから、まだ単なる育成リーグのままです。だから、なかなかリアリティが埋めない現実はあります」
末本「それは横浜市と似ていますね。10チームのスーパーリーグがありますが、全少のシード枠の位置を決めるだけなので例え10位でも降格するようなことはあません。しかし、その下部リーグは上位3チームに入らないと、全少の神奈川県予選に出場できないので真剣勝負です。スーパーリーグでぬくぬくとやっていると、その後に行われるトーナメントで1部リーグを勝ち上がったチームの方が強かったりします。そういう過去の反省も踏まえ、今年は私たちは違うアプローチで臨んでいます」
南里「ジュニアユースだって、上は関東リーグがありますから、ジュニアもトップリーグの上は関東かな、と。リーグ戦も拮抗した試合を生む環境づくりが目的の一つ。そして、それは自分に合ったリーグ戦を選ぶということです。東京はT1とかT2とかU-11プレミアリーグに早く所属したいという流れが少しずつ出てきています。でも、その一方で「僕は週末サッカーを楽しみたいからここでいい」という子も自然に出てきます。だからこそレベルが拮抗する環境に向かうことはみんなが幸せになっていくと思うんです」

※第5回は10月3日(水)掲載予定です。
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