ドイツサッカーの「環境から考える選手成長に対する在り方」とは?

2018年11月25日

コラム

ドイツのアマチュアクラブが考えるサッカー環境とは何か?

 プロクラブだけではない。

 アマチュアクラブでも自分たちの在り方は明確に言葉にされている。トップチームが9部リーグ所属だが、創立は1920年だ。ドイツのどこにでもあるような町・村クラブであるSVホッホドルフのユースダイレクター、ニルス・ヘンケル氏はこう語った。

「誰だって試合には勝ちたい。でも、我々にとって一番大事なのは勝利を求めることじゃない。地域の子どもたちが集う場所であることなんだ。友達とサッカーを楽しむことができる場所だよ。小さい頃から不必要に大きな競争に身を置くのは間違っている。10〜11歳までは伸び伸びとサッカーをできることが何より大切なんだ。小さい頃に少し足が速くて、少し技術があるとすぐに『天才』のような扱いをしてしまう大人がいる。すぐにでもプロクラブのスカウトに知らせようとする大人がいる。でも、そうした騒動が子どもの成長を妨げていることに気がつかなければならない。子どもがしっかりと自分で責任をもって、覚悟をもってチャレンジすることができるまで、大人は待ってあげないといけないんだ。サッカーは楽しいもので、楽しむものだ。そのベースを忘れてはならないよね」

 元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCのユースダイレクターであるマリオ・ビット氏は自分たちが築き上げている戦略を教えてくれた。

「我々はオフェンシブで魅力的なサッカーに挑戦し続けたい。トップチームは現在6部。目標はまず5部昇格で、ゆくゆくは4部昇格も視野に入れたいと思っている。でも、それ以上に大切なのが『自分たちが目指すサッカーを具現化し、育成にも落とし込んでいくこと』だ。将来的な理想の状況はトップチームの選手全員を自前の育成で育て上げることだ。そのために大切なのがサッカーを楽しめる環境を練習から作ることだよ。人は一日に約3万回思考すると言われる。そして、そのうちポジティブな思考をする割合が多ければ多いほど、物事の習得スピードは上がっていくとされているんだ。我々のクラブでは練習中の笑いを奨励している。何をやっていいわけではないし、他の子どもの邪魔をしていいというのではないよ。規律というものはちゃんと求めている。しかし、新しいことにチャレンジしたり、すごくいいプレーが出たりしたときに笑顔が出るのは最高じゃないか。他と同じことをするのではなく、我々はもっと柔軟にもっと創造的に、子どもたちのアイディアを受け入れられるようなクラブでありたいんだ」

 ポリシーとは、人の話を受けいれないことではない。アイデンティティとは、小難しいものではない。
規律とは、上下関係のことではない。

 サッカーの楽しさを掘り下げ、子どもたちの喜びを受け止める。それを、それぞれの立場とそれぞれのレベルに応じて考えていく。そうやって生まれてくるのが自分たちのサッカー哲学というものだろう。プロクラブになることが、リーグで優勝することが、チームやクラブが持つべき答えでなければ、正解でもない。そこを踏み外したらダメなのだ。

「プロになりたい」
「もっとうまくなりたい」

 この子どもたちの思いを逆利用しようというやり方や組織の在り方はただただ姑息なのだと思う。今一度、自分たちのチーム・クラブはどんなビジョンとコンセプトで取り組んでいるのかを考え直してみてはどうだろうか。子どもたちの全力を、あますことなく受け止められているだろうか?

<関連リンク>
中野吉之伴 子どもと育つ


<プロフィール>
中野 吉之伴(指導者/ジャーナリスト) twitter@kichinosuken

1977年、秋田生まれ。 武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成年代指導のノウハウを学ぶためにドイツへ渡る。現地でSCフライブルクU-15チームでの研修など様々な現場でサッカーを学び、2009年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)。2015年から日本帰国時に全国でサッカー講習会を開催し、よりグラスルーツに寄り添った活動を行う。 2017年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」を配信スタート

▼主な指導歴
「フライブルガーFC(元ブンデスリーガクラブ)U-16監督/U-16・18総監督」/「FCアウゲン(U-19・3部リーグ)U-19ヘッドコーチ/U-15監督」/「SVホッホドルフ/U-8コーチ」

▼著書・監修本
「サッカードイツ流タテの突破力」(池田書店 ※監修/2016年)/「サッカー年代別トレーニングの教科書」(カンゼン ※著者/2016年)/「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社 ※著者/2017年)


 

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