「インテリジェンス」をどう育てるか? その答えは「環境」にある 倉本和昌×坪井健太郎 対談②【12月特集】
2018年12月19日
コラム
【スペイン上級ライセンスを日本人最年少で取得し、Jクラブの育成組織での指導経験を持つ倉本和昌氏】
自分の考えを外にさらすことでアップデートする環境が日本にはない
倉本「だから、リーグ戦がいいわけです。スペインだと『これは大事な試合だ』というと、育成部長も含めてスタッフ全員がリーグ戦を見ています。当然、試合が終わった後にはああだこうだと話をするし。もちろん日本でもありますが、あまりサッカーのことに触れられたくないという雰囲気を受けます。『どう思いましたか?』と聞かれたことに、本当のことを言ったらショックで口を聞いてくれなくなります。さすがに、今はないけど!うわべで『どうでした?』と聞いて、本当のことは触れてほしくない。「まぁ、良かったんじゃないですか」と言ってほしそうです。そこで『これとこれとこれが良くないです』と言ったらムンクの叫びみたいになる(笑)。でも、『それを聞きたかったのでは?』と思います。そういうディスカッションをしないし、できる人が少ないです」
坪井「攻撃していると思っちゃうの?」
――それもあります。私がコンサルしている町クラブではトレーニングのこともディスカッションしますが、そういう人がほとんどです。
倉本「そういうのに弱いかな」
坪井「そういう国民性もあるよね。言われ慣れていないから。コーディネートしている側が非常に気を使います。日本人との接し方は非常に難しいですよ」
――どうやって傷つけることなく話そうかと考えてしまいます。本来はそういうことを取っ払って話した方が早く解決するのに、私情を挟んでしまいます。でも、挟めば挟むほど議論から離れて行ってしまいます。
坪井「カズ(※坪井氏が呼ぶ倉本和昌氏の愛称)はそのあたりどうなの? スペインから帰ってきてしばらく経って、日本人は『こういうふうなメンタルのコントロールしながらやればいい』というのは見つけた?」
倉本「言葉で言ったら『信頼関係を作る』だけど、『安心安全』を感じさせないと何を言ってもダメ! だったら、安心安全をあっちが感じてくれるまでは何かアクションを起こしてもダメ!うまくその関係を作れると向こうから『教えてください』と言われるようになるから『わかりました。言いますよ』と伝えた場合は『ありがとう』になる。『こう直せばいいというところまでわかる』から。でも、そこまでの人は本当によくなりたいと思っている人。だから勉強にくるし、そうじゃない人が問題になってくる。そういう人は話が、サッカーの話ができない」
坪井「この間、日本の若い指導者がスペインに来て、理論の講義と指導実践をやってもらいました。知っていることとできることは違いますが、どれだけできるかをジャッジして、僕はアテンドしながらフィードバックを投げるコーディネーター役を務めさせてもらいました。その時は結構厳しく言いました。でも、若い子たちはよくなりたい思いが大きいし、海外にわざわざ来て研修を受けたいくらいの指導者だから最低の前提条件はクリアしています。日本の若い子たちは本当にハングリーです。
でも、それはなぜか?
そう考えると、日頃から日本の育成現場で権限を与えられていないからではないかと思いました。例えば、少年団であればアシスタントをやっているだけとか。僕が思うに、意外と発掘すれば伸びる若い指導者はいると感じています」
倉本「熱のある子はいるけど、メインの指導側に行けない環境ね」
坪井「スペインでは高校生の年代でも自分でプレーもしているし、監督もしている。指導できる環境があるから、ここも大きな差だと思います」
――自分の考えたプランやトレーニングを実践してのトライ&エラーをきちんと経験できているかどうかはかなり大きいです。
坪井「結局、それもインテリジェンスにつながっていきます。記憶が残って戦術メモリーが高まっていくから。指導者のレベルも上がれば選手のレベルも自然に引き上げられるので。インテリジェンスのある選手を育てようと思ったら、指導者がそう成らざるを得ないと思っています」
ただリーグ戦環境自体も今後どれだけの時間短縮して次に持っていくのか。10年、20年かかるんじゃないかと思って、どうやって指導者のレベルを引き上げたり、10年先のインテリジェンスのある選手を育てたりしたらいいか?どこから手をつけたらいいのか?そこを伝える側としてはもどかしいです」
倉本「最高の教材がいるじゃないですか?」
坪井「どういうこと?」
倉本「イニエスタのプレーを見ること。ボールを持っていない時の彼の動きを見るのが最高の教科書。言った方がいい!ボールを持っていない時の動き、周囲との関係性を観察しましょう、と」
――まさに最高の教科書です。イニエスタについては読者の皆さんも興味があるので、もう少し触れて欲しいです。
【12月特集】サッカー選手に必要な「インテリジェンス」とは 倉本和昌×坪井健太郎/対談
<プロフィール>
倉本 和昌(くらもと かずよし)
高校卒業後、プロサッカーコーチになるためにバルセロナに単身留学。5年間、幅広い育成年代のカテゴリーを指導した後、スペイン北部のビルバオへ移住。アスレティック・ビルバオの育成方法を研究しながら町クラブを指導し、2009年にスペイン上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後、大宮アルディージャと湘南ベルマーレのアカデミーコーチを計8年間務めた。現在はスペインと日本での経験を活かし「指導者の指導者」として優秀なコーチを育成するサポートをしている。
坪井 健太郎(つぼい けんたろう) CEエウロパユース(スペインユース1部)第二監督
1982年、静岡県生まれ。静岡学園卒業後、指導者の道へ進む。安芸FCや清水エスパルスの普及部で指導経験を積み、2008年にスペインへ渡る。バルセロナのCEエウロパやUEコルネジャで育成年代のカテゴリーでコーチを務め、2012年には『PreSoccerTeam』を創設し、マネージャーとしてグローバルなサッカー指導者の育成を目的にバルセロナへのサッカー指導者留学プログラムを展開。2018年10月には指導力アップのためのオンラインコミュニティ「サッカーの新しい研究所」を開設した。著書には『サッカー 新しい攻撃の教科書』、『サッカー 新しい守備の教科書』(小社刊)がある。
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