「やる気を出せ!」から見える指導の問題点。育成指導者に必要なものとは?
2019年01月17日
メンタル/教育プレーイメージの共有が状況解決の糸口に
――日本もドイツも子どもたちのサッカーを支えているのはボランティアコーチです。中野さん(現フライブルガーFC U-16監督・SVホッホドルフU-8アシスタントコーチ)が指導するFCアウゲンにもそういうコーチがいるのではないでしょうか。
中野「僕もほとんどボランティアコーチです。昨年指導したチームは主力のほとんどが前のシーズンにU-15の地域リーグの6部に属していました。そして、アシスタントコーチのアンディは担当する選手たちを幼稚園の頃から指導しているボランティアコーチです。彼はコーチライセンスを持っていませんが、選手から好かれ、ユニホームの準備や選手の送迎などチームのために気配りができるすばらしい人間です。おそらく微々たる報酬しかもらっていないと思いますが、いつも子どもたちと一緒にグラウンドで楽しそうにしています」
――では、一昨年まではアンディがチームを指導していたわけですね。彼はどのようなトレーニングをしていたのですか?
中野「昔ながらのトレーニングが多かったようです。『子どもたちにこんなサッカーをしてほしい』というイメージは頭に描けているようですが、正直トレーニングとしてそれを落とし込む腕を持ち合わせていません。しかし、プレーごとにいいプレーと悪いプレーの線引きをしてそれを選手に伝えることができるし、その時々の状況において何がいいプレーなのかという答えは選手にいうことができます。残念ながら『どうすれば?』の部分がコーチとしての知識不足もあって欠けています。
でも、選手たちは答えがわかっているから自分たちで『どうすれば?』を考えることができます。ここが日本のボランティアコーチとの大きな違いだと思います。ドイツだけでなく、ヨーロッパのサッカーコーチはトップレベルの試合をスタジアムやテレビでたくさん見ています。だから、コーチとしての知識はなくともプレーの良し悪しの線引き、状況における正解のプレーを理解しています。極端な話、そこさえコーチと選手との間で意見を交換できたら指導は下手でもチームの目指すサッカーに進むことはできます」
――確かに、ヨーロッパのコーチたちは日常生活の中で高いレベルのサッカーを見て学べる環境があります。トレーニングに関する本やネットの情報から勉強するよりも生のサッカーを見て状況ごとの良いプレー悪いプレーを考えた方が学びは大きい。
中野「状況ごとに正解となるプレーイメージを持っていれば具体的な解決策がなくとも解決への方向性は共有できます。ドイツでは早くて小学生から、中学生や高校生になれば自分で解決への努力を模索します」
――選手がプレーイメージを持つことは大切です。それがあれば、正解となるプレーに向かって練習する気が起きます。
中野「正解というか、ヨーロッパのコーチは良いプレーのイメージをたくさん持てるのが強みだと思います。たとえば、ある状況で受け手がトラップしてパスを出せなかった。その理由が『敵が来ていたからだ』とすれば、その前段階で『フリーの選手にダイレクトパスを出せなかったのか』『逆サイドのフリーの選手は見えていたけど、出すスキルがなかったのか』など、コーチと選手の間でそういう会話がなされたら子どもたちは解決の糸口が見えるでしょうし、ヒントが得られます。
アンディは『どうすれば?』の部分を子どもたちに与えるほどの腕はありません。ただ 選手たちが文句を言ってきたとしてもドッシリと構えて『まぁいいからトレーニングをやろう』と絶妙な距離感を取ってコントロールをするのがとてもうまい。子どもたちとの信頼関係を築いているからですが、怒鳴るのでもなく、茶化すのでもなく、その間の絶妙なところをついて言葉をかけています。焦ることはないし、人間として懐が深いです」
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