本当のクリエイティビティは「型」から生まれる。状況と戦術はセットでなければ意味がない
2019年03月04日
コラム長い目で見た勝利を見失ってはいけない
――たしかに。仕事でもそう感じることは多々あります。少し話を戻しますね。先ほど「計画的に教えることが大事」とおっしゃっていたじゃないですか。それは今回の連載の色々な所につながってくると感じていて、ドイツや欧州では通年行われるリーグ戦が定着していて、毎週末に1試合行い、そこで出た課題を抽出し、練習で改善や修正をして、また試合に臨むというサイクルができている。そこにトレーニングが絡んできますよね。ただ、日本ではトーナメントが主体になっていて、FAのリーグ戦も最終的に全国大会につながっていく。このあたりを考慮すると計画的に教えることは非常にむずかしいのかなと思うのですが…。実際に日本でジュニア年代を教えている指導者としてむずかしさは感じますか?
「これは非常にむずかしい問題だと思います。だからこそ、いかに指導者は鈍感力を発揮して、運営側や保護者からの声やバッシングに動かされずに、子どもたちにとって一番いい決断ができるか、にかかっていると僕は思っています。それは口で言うのは簡単で実際にはむずかしいことなのは分かっています。
一つの大きな問題はトーナメントで勝ち進まないと良い相手とできない、いい環境でできない、そういった環境面が抱えている課題はたくさんあるのですが、環境がこうだから『勝ちにいかないと』と言っていたら始まらない。
目先の勝ちじゃなくて長い目での勝利を見失ってはいけない。それを育成指導者は毎日思い出して子どもたちと接しないといけません。
僕らもそういうことありますよ。大会に出たら優勝したい、子どもに優勝させてあげたいし。この選手を替えて、この選手を入れたら優勝できる確率が50パーセントあがるんだろうなという状況もたくさんありますけど、毎回、自分は思い出すようにしています。
だって、それをやったらキリがなくなるんですよ。今回は決勝戦だからしょうがない。だったら準決勝はどうなの、って。いずれ線引きができなくなるから最初から育成、プレイヤーズファーストで線を引かないといけません。
これは理想論かもしれないけど、これが続けられれば、将来たくさん優勝できるようになるし、たくさん勝てるようになる。そういうチームはいつかかならずそうなると願っているし、そういうチームからスーパースターが生まれたときに『あそこでやったらからスーパースターになれた』と言ってくれる選手も出てくる。
そしてそのスーパースターが投資してくれる。優勝トロフィーを育成年代で取ってなくても、全国大会に出場できていなくても、いつかは勝ち組になれると、それを信じつづける。それが育成だと思っています。JFAや地域FAは環境をいち早く、よりよいものに。皆さんの尽力で環境は確実によくなってきていると思うので、このスピードを緩めずにどんどんいいものにしていってもらいたいな、と」
――第1回のテーマにもうまくつながったかな(笑)。今回は本当に貴重なお話ありがとうございました。
「最後に一つだけ。例えば試合で負けるじゃないですか。この間、レコスユナイテッドというレコスリーグの選抜チームで大会に出て、Jリーグのアカデミーがいる中で勝ち進んだんですが、決勝戦で負けたんですよ。多分、勝てたと思うんですよね。もう少しうまくやれば。
だから凄く後悔が残りました。勝てたら全国大会に行けて、全国でも勝ったら海外にも行けたりだとか、育成の場が増えるから後悔は残るんですけど、大会が終わるじゃないですか。負けた直後は大泣きしていても2時間ぐらいたつと子どもたちは忘れてますから。子どもは忘れるんですよ! それは子どもの良い所でもあります。だから惜しいとか、悔しいとか、大人の勝負にしてはいけない。そこで毎回子どもが忘れているのを見て、自分は正しい決断をしたと、言い聞かせるしかない。最後に勝つために成長さえすれば、それが勝ちなんだと」
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<プロフィール>
シュタルフ悠紀リヒャルト(しゅたるふ ゆうき りひゃると)
1984年8月4日生まれ、ドイツ・ボーフム出身。14歳で地元のサッカースクールでコーチのアルバイトを始めたことをきっかけに、プレーの傍ら、主に育成年代で20年間指導。現役引退後は、自身が代表を務める会社が運営するレコスリーグの選抜チームであるレコスユナイテッドや、ドイツのSVヴェルダー・ブレーメンと育成提携している日独フットボール・アカデミーで指導。2016年には世界各国の育成専門家が集うベルギーの育成コンサルティング企業「ダブルパス」と業務提携を結び、3年がかりで日本チームのリーダーとしてJリーグ全54クラブの監査とコンサルティング業務を担当。ドイツ・サッカー協会公認A級(UEFA A級)ライセンス、日本サッカー協会公認S級ライセンスを取得。2019年にはY.S.C.C.横浜(J3)トップチーム監督に就任し、日独フットボール・アカデミーでは育成ダイレクターを務める。
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