指導者と保護者の「問いかけ力」は子どもの考える力を培う【3月特集】

2019年03月20日

コラム

楽しいという内発的な動機は背景として必要!

——昨年、ドイツのミュンヘンで開催された教育イベントを取材されたそうですが、少しその内容を教えてください。

藤代「2年の間に3週間だけ行われる『ミニ・ミュンヘン』というイベントを見学しました。『ミニ・ミュンヘン』は7歳から15歳までの子どもだけが運営する『小さな都市』。毎日千人ほどが参加し、子どもしか入れません。その中では、子どもが自由に自分の好きなことを仕事として見つけ、働き、物を作って売り、それを買って流通させています。裁判員制度もあり、知的なことを考えるのもすべて子どもたちです。『ミミュ』という仮想通貨があって、実際に子どもが働いて稼ぎ、どうやって使うかも自分たちで決めています。当然、商品をいくらで販売するかも。子どもポリスがいて、その中を取り締まっています。この『小さな都市』で、子どもは時間を忘れて『遊び』『働き』『学び』を体験していきます。子どもは楽しいから毎日来ていますし、遊ぶことと働くことの違いは全くありません。子どもたちだけの仮想社会です。
 
 大人がその中に入る時はビザを取るのですが、滞在できる時間は30分だけです。私も中に入りましたが、子どもたちはすごく楽しそうで、目がキラキラと輝いていました。
 
 そのツアーでは、『ミニ・ミュンヘン』の創設者のゲルト・グリューナイズルさんに話を聞かせてもらいました。たくさんの参加者がいて様々な質問がなされた中で興味深かったのは、参加者の一人が『ここに来ると、どんな力が身につきますか?」と質問した時のことです。それを聞いたグリューナイズルさんは怒り出し、『そういう質問が一番嫌いです。なぜなら子どもはここに遊ぶために来ているのだから、そんな目的は必要ない。そうやって大人はこういう能力に変えられないかとか、何かのためにならないかとか、そういうことを言うからよくないんだ」と答えました。
 
 もともとグリューナイズルさんは学校の教師だったそうです。ただ、学校だとこういった自然に生まれる学びの場になるのが難しいから、純粋に遊ぶ場所を作りたくて『ミニ・ミュンヘン』を始めたそうです。それが彼の純粋な思いでした。もちろんスポーツに例えると競技レベルがあるので、こういうことすべてが当てはまるわけではありません。でも、子どもの成長のベースには遊びの要素が必要です。楽しいから子どもはサッカーなど自らが興味を抱いたことをしている。このイベントを見学して、あらためてこういうことが重要だと感じました。
 
 スポーツの語源は『遊び』ですし、何のためにその場に来ているかという理由は『楽しいから』という内発的な動機付けの場が日本の育成でも少なくなっているのではないかと思っています。もちろん『ない』とまでは言いませんが、少なくなっているような気がしています」
 
——確かに、内発的な動機が少しないがしろにされ、もっと生産性を生むようなことが子どもたちにも課せられているような雰囲気があります。
 
藤代「少し脱線するかもしれませんが、企業もGDPを上げるために生産性を上げようとしています。でも、その先には勤める社員が疲弊している現実があります。それは今の時代、生産性の向上と幸福度のバランスがうまく取れていないからだと思うんです。ひと昔前までは生産性を上げて、給料を上げて、物を買って幸せがあったと思いますが、物に興味のない若い世代が現れ始めてそういう価値観に『ん?』と感じる人たちも増えています。『今の幸せってなんなのか?』は、私たちが意識していかないと過去のことを引きずったままだと、子どもの教育にも影響していくのではないでしょうか。
 
 なんのためにサッカーをしているのか。詳しい理由なんてなくてもいいし、『好きなんだもん』でいいのではないかと、私自身も感じているところです」
 
——創設者のグリューナイズル氏が「そういう質問が一番嫌いだ」という発言が物語っています。
 
藤代「それは指導現場に行って感じていることです。親御さんからこんな相談を受けることがあります。サッカーが大好きな子がたくさんいても、残念ながら技術的に試合に出場できるレベルではないから試合に出られない子がいっぱいいます。そして、その親御さんの子どものチームも試合に出してくれるところではないそうです。
 
 そういう環境の場合、『サッカーを辞めさせたい』という親御さんもいるようです。理由は『才能がないんだから続けても意味がない』と。でも、これは本人の答えではないんです。それなのに親御さんからは『試合にも出られないから辞めさせたいんですが、どうしたらいいですか?』と相談されます。
 
 私が『本人は何と言っているんですか?』と聞くと、『続けたいと。それで辞めさせたいんですけど、どうしたらいいのかがわかりません。どうしたらいいですか?』と、また質問されます。答えは子ども本人が出しているのにも関わらず、です。そこには親御さんが『こうさせたい』があるだけです。子どもがサッカーをしたいと言っているわけなので『好き』という理由だけで十分なのではないかと思うんです」
 
——他の子と同じようにさせたいとの思いもあるのでしょうが、親御さんに大人側に子どもの思いをくんだ意思がないとコミュニケーションが取れなさそうです。
 
藤代「子どもに対する期待が強くなりすぎると、そうなるんでしょうね」
 
※第2回は3月22日(金)配信予定です。


【3月特集】「問いかけ力」は「考える力」を培う


<プロフィール>
藤代圭一(ふじしろ けいいち)
一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。「教える」ではなく「問いかける」ことでやる気を引き出し、考える力を育む「しつもんメンタルトレーニング」を考案。全国優勝チームや日本代表チームなど様々なジャンルのメンタルコーチを務める。全国各地のスポーツチームや学校教育の現場などでワークショップを開催し、スポーツ指導者、保護者、教育関係者から「子どもたちの目の前で変わった」と高い評価を得ている。2016年からはインストラクターを養成。著書に「スポーツメンタルコーチに学ぶ」「子どものやる気を引き出す7つのしつもん」(旬報社)がある。昨年12月に新刊「サッカー大好きな子どもが勉強も好きになる本」(株式会社G.B.)を執筆。

<しつもんメンタルトレーニング>http://shimt.jp/


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