練習の目的を意識した称賛と鼓舞。日本ではその関係性がブレている【4月特集】

2019年04月24日

育成/環境

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議論を深めるには指導者の好奇心や探究心が必要

――例えば、荒岡さんが関わるクラブの指導者と話をしていて、サッカーの議論がなされるなと感じることはありますか? つまり、私と荒岡さんの間でも叱責をテーマに話が深まっていきました。私の想像ですが、ドイツでは当たり前に議論が深まるような印象です。

荒岡「ドイツでも日頃から考えているであろう人とは深まります。あとは経験年数であったり、指導したチームの数であったり、指導したカテゴリーの数であったりが関わってくるのではないでしょうか。でも、普段あまり考えていないような指導者だと話としては深まっていかないのかなと感じます。ドイツでも個人差はありますし、そこに日本との違いはないのかなと思います。私は指導経験は少ないですが、たまたまいろんな人たちと話をする機会があったので、運がいいのかなと」

――いろんな指導者と話す、カテゴリーの違う指導者と話す、審判と話す、ジャンルの違う人と話す……。多様な関わりを自ら持ち続けている指導者は、ドイツでも日本でも指導に生かせているような気がします。

荒岡「それは間違いなくあると思います。自分が関わっているのが4種だとしても、その先には3種、2種というつながりがあります。
  
 仮に18歳で一人の選手が形成されるとして、そういう全体構造を見ながらの逆算も必要ですし、各年代で今何をする必要があるのかを考えることも必要です。成長期の身体的・精神的な変化も関連してくるので、目の前の現場だけに目を向けていても自分が考えるより良い練習やより良い関わり方はできるとは思いますが、まわりとの兼ね合いから見て段階的に良い指導かどうかはわからないと思います。目の前の現場の指導が、18歳までの育成という物差しで見たときにきちんと収まっているかはわかりません」

――日本もドイツも関係なく、指導者も自分を俯瞰して見ることは非常に大切なことです。選手育成という一本の幅広い大きなレールの中で、今自分がどういうことをやらなければいけないのかを考えることができるのは世界共通でいい指導者ということになるのではないでしょうか。

 そういう意味では、各指導者を客観視するようなコーディネーター的な役割を持った指導者は、例えばRBライプツィヒにはいるんですか? また、ドイツでは指導者が振り返りをする機会はあるんですか?

  
荒岡「私はRBライプツィヒでは末端の人間なので、そこまでは把握できていません。でも、ドイツのクラブだと、基本的にコーチの上に育成ダイレクターがいると思います。私が知っているクラブには育成ダイレクターとかその立場に近い指導者がいて、各年代の監督やコーチにフィードバックをしています」

――インタビューも50分を過ぎて時間も迫ってきたので、少し話題を変えます。荒岡さんはドイツの指導ライセンスは取りに行っているんですか?

荒岡「行っていません。なぜなら私が通う学科のカリキュラムでは、大学の単位を取ればライセンスが取れるような仕組みになっているからです。日本で言えばC級ライセンス程度に当たり、UEFAに置き換えるとB級になります」

――ドイツでは大学との連携が存在するわけですね。

荒岡「そうですね。だから、ドイツサッカー連盟からの基準が設けられています。理論は何時間以上、実戦は何時間以上、さらに試験に受かった場合にライセンスが取得できるとか。理論だけ満たしていれば、実践だけ補習という形になったり。ドイツではスポーツ科学部をまとめている組織があるのですが、その組織とサッカー連盟との取り決めによるライセンス制度の仕組み化が図られています」

――若いうちから指導者をきちんと育成しようという意志があるわけですね。

荒岡「生活地域がライプツィヒだというのもありますが、ライセンス講習会のコースが年間で2つしかないので、大学の授業とライセンス講習との同時進行が難しいというのもあります」

――荒岡さんが通う学部はそういう仕組みがあるのなら、他の学生さんたちはライセンスを取得するのですか?

荒岡「ほとんどの人が取ると思います。逆に『取らなくてどうするの?』という雰囲気です。というのも、ドイツは専攻しているものと就職がある程度リンクしていなければいけないものなんです。企業や組織の採用でも、自分たちの専門分野においてしっかり知識があるのか学んできたのかということが評価基準として大きいようですから。日本のように一斉就活みたいな習慣もありません。

 そうすると、学生インターンも自分たちが興味を持ったところを探して行きます。興味のある分野で大学に入った学生がそのままインターン先を探して学ぶので、異業種への就職みたいな感覚はあまりないような気がします。そういう背景があるので、スポーツ科学部で勉強している教職を選んでいない人たちはスポーツ関係で働くことが前提です。そうなると『ライセンスがなくてどうするの』という話になってきます」

――ちなみに荒岡さんの専攻は何なのですか?

荒岡「スポーツ科学部にはスポーツ科学科、スポーツマネジメント科、教職課程があって、私が在籍しているスポーツ科学科には競技スポーツ専攻とリハビリテーションスポーツ専攻の二つがあります。そして、競技スポーツ専攻では競技によって履修する授業が分かれていきます。だから、職種によって分かれていくわけではありません。私の場合はサッカー、ハンドボール、陸上について深く学んでいくことになります」

――ちょうど1時間が経って終わりの時間が来てしまいました。もう一人の小谷野拓夢さんとは違った方向からの話を聞くことができて、非常に濃密な時間でした。二人に共通していることもたくさんありました。理不尽な指導だとか、育成という全体像から指導を見つめる目だとか。
  
 そこには指導者が自分を客観視できるかどうかが関わっていて、そのためには自らが世界のサッカー指導に目を向けるような視野の広さと自分を掘り下げる探究心が必要だと思います。今回は取材にご協力いただき、本当にありがとうございました。また、機会があればよろしくお願いします。


【4月特集】大学生指導者から見る4種の問題


<プロフィール>
荒岡修帆(あらおか しゅうほ)
ライプツィヒ大学・スポーツ科学科に在籍。高校卒業後は理学療法学科に進学したが、欧州を旅する中で多様性に惹かれて渡独を決める。RBライプツィヒにインターン生として入り、主にU9チームを担当しながら指導を学んでいる※HPtwitter


 
 

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