共通理解「いのちの危機」が新たな試み“久我山クリニック”を生んだ
2019年07月31日
育成/環境
学校側と協力した取り組みが結果を支える
――夏前とか、本当に暑くなる前くらいにそういう座学的なアプローチも行うんですか?
清水「少なからずやっています。ただ座学として長い時間を取るわけではないので、例えば合宿に行ったときにきちんと話をしたり、テスト期間が終わったあとに『これはヤバい時期がきた』というときに、チームごとにトレーナーが話をしたりしてコンディションに影響が出ないようには取り組んでいます。例えば、『試合のときには何時間前に500mlの水分を、これくらいの時間をかけて飲みなさい』ということは、1年生のころからずっと伝え続けています。とにかく季節の変わり目など要所ごとにトレーナーからはコンディショニングの観点からアドバイスをされています」
――栄養の話も、ですか?
清水「私からはそんなに話はしません。補食が必要なところもあるので、練習が終わってプロテインを飲んでいる選手もいますし、補食のことはアドバイスするようにはしています。でも、やるかやらないかまでは強制はできません。それは『私たちが学校の教員ではない』という部分もあります。サッカー部の中で起きていることを、学校の人間ではない者が強制して何かをやらせるということは、やはりできないんです。
例えば、『この病院に行きなさい』と言うのも強制はできません。
本心は勧めたい。なぜならケガやリハビリの情報を共有できるから。もしケガをした子がいたとしたら、『ほら、こういうことになっただろ』ということも伝えやすいので。もちろん、うちはトレーナーを通じて、彼と提携しているクリニックに自然に通っています。だから、選手のケガに関して診察してくれるドクターの見解を知っているトレーナーがいて、彼らがリハビリを作ってくれていて、『もしこうなったら次はこうなる』というのがわかるようになっています。
でも、違う病院に行くとドクターの見解を直接聞けるわけではありません。当然、違う病院の違うトレーナーが作ったリハビリメニューを、うちのフィジカルトレーナーが変えてしまっても、それがいいか悪いかは判断できません。通っている病院のドクターが『やるな』と言えばやれないわけです。私たちからすると『ほしい情報、必要な情報がない』と手の打ちようがないんです。『やるなと言われているからやるな』で終わってしまいます。
でも、三栖コーチと提携しているクリニックに通えば『こういう状況だから、これくらいのことはやっていいよ』と言えるし、『今はこれくらい進んでいて、回復までにこれくらいかかる』というのもわかります。最近も、ちょうど1年生がケガをしました。実は、インターハイ予選の前に使いたかったんです。でも、練習でケガをした瞬間に、逆算して『いつまでに戻れる?』と平野に相談したら『2週間後にはいけると思う』という話になったので、『じゃあ、今週はやらせないから』と復帰までのプランを立てました。ほかにも、ケガをした主力の選手なんかはこんなやりとりをしました。
平野『監督、ぶっつけ本番になったらどうしますか?』
清水『ぶっつけ本番でも使う』
平野『わかりました。じゃあ、紅白戦にも出せないけどいいですか?』
清水『いい』
そうすると、きちんと本番に合わせて戻ってきます。例えば、試合を見ていて『心肺機能がまだですね、最後に重さが出ちゃいますね』と言われたら、『なら、スパッと替えちゃおう』とか、そのあたりは完全な連携ができています」
――そういう体の変化を専門家と相談しながら見られることは、通常の部活より管理が行き届いています。
清水「ケガに対しては、彼らトレーナー陣も『命を預かっている』という自覚がしっかりしています。当たり前の話ではあるんですが。だから、彼らの会社には、私のクラブでも安全講習をしてもらうんです。もちろん、トレーナーがいるから安心ではなく、私たちも理解をしていかないといけない。だからこそ信頼して任せています。彼らが『ノー』と言えば、私はその選手は絶対に使いません」
――当然、学校も理解はされていると思うんですけど、そういうトレーナーの方々との連携、流れができていることは、学校側もOKを出しているんですか?
清水「もちろんです。逆に、サッカー部をキッカケに彼らが学校側から信頼を得ています。2年前から、学校がトレーナーブースを設置しました。週に2~3回は、サッカー部以外の運動部の選手たちがそこに相談に行けるようなシステムができあがっています」
――素晴らしい。
清水「三栖も『日本ではなかなかできない』と言っていました。学校側も『これはいいことだ』と理解をしてくれたのは、とても素晴らしいことだと思います」
――学校側も柔軟ですね。
清水「本当にそのとおりですね。学校側もそういう命に関することが一番だと理解しているからだと思います。むしろ危機感がないほうがおかしいですよね。そういう意味では、久我山は新しい試みをしているんじゃないかなと思います」
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