指導者の仕事は「選手一人ひとりの成長に最も適した環境を確保してあげること」

2019年08月28日

育成/環境

物差しがないと適正な練習環境を作れない

——当然、指導者にきちんとした物差しが必要だとは思うんですけど、でもアイデアとしてはそういう発想はあってもいいのかな、と。

悠紀「すごくいいと思います。あとは、交代でコントロールするとか。私たちが日独フットボールアカデミーで行っているのは、点差が開いてきたら『わざとちょっと競るように不慣れなポジションに配置してみる』など工夫しています。でも、それで負けてしまって怒られてしまうこともありますけど(笑)。ハーフタイムにポジションをいろいろ変更してみたり。『何をやっているんだ』と保護者からクレームが来ていることもあるようですが、意図としてはやはり厳しい環境を作ってあげたいんです。ちょっとでもぬるま湯につけると、人間はどんどん怠けますから。ただ、育つ環境をうまく作ってあげることは一番大事なことです。選手は環境さえ良ければ、勝手に育つものなんですよ」

——そこですよね。

悠紀「何も言わなくても育つというか。だから、ブラジルはうまい選手が多いし、逆に間違ったことを教えるよりは、何も教えないでゲームをさせてあげたほうが選手にとってはいい環境です。たまに訳のわからない複雑なルールで練習が組まれていたりしますが、様子を見ていると『ここに出したらこの選手にしかパスが出せない』というような強制的なトレーニングが行われていることもあります。他にも、『2タッチの後は3タッチで、その後は1タッチで、このフィールドに進んだら今度は…』とか、もう訳がわかりません(笑)。そういうことをするくらいだったら『ただゲームをすれば』と思ったりもします。当然明確な意図のもとその様な制限が設けられているのなら、それはまた別の話ですが」

——そういう複雑な練習をさせている指導者を見ていると、『そこでそういうプレーしてほしいんだろうな』と思いますし、そうなるようなルール設定や条件設定をしがちです。子どもたちが本当に窮屈そうにプレーしているなという印象です。

悠紀「『サッカーのゲームが変わらない』ということを大切にしたほうがいいと思います。サッカーの本質が失われないように。私は基本的に『ゲームと違うもの』を習慣化させたくないので複雑にしすぎてサッカーの状況では起こらないことは絶対にやらせない様に注意しています。

 サッカーのゲームと違うルールを導入する時は、本当に注意が必要だと感じています。特に日本では技術の反復回数が半端なく多いですから。技術トレーニング一つをとってしても、間違った技術をした場合に、それを何時間も公園で自主練したりする選手もいて、そうするともう体に染みついてしまって取れなくなります。そこは気をつけるようにしています。

 常に何度も自分に問いかけるのは『ゲームと同じ現象かな?』と。ゲームにつながっているのか、そうじゃないのか。だから、ゴールを置いたトレーニングをやるわけです」

——話は第二弾に少し戻りますが、日本でも選手を早生まれとそうじゃない選手にわけたらということがよく言われています。やはり年齢特性はジュニア年代の育成において切り離せないところです。

悠紀「デンマークのクラブでよく見られるのは、スカウティングの時点ですでに枠を決めているところです。例えば、一学年で12人の選手を獲得するのであれば、誕生月を一年で四ヶ月に分けてそれぞれ3人ずつで取ってしまうんです。いい選手がいても、4番手ならその選手は選びません。そういうやり方でエラーを最小限にしよう、と。もちろん、それが良いか悪いかはわかりませんが、意図はあります。こういう問題があるんだなと認識し、『だったら、こうやってみようか』とルールを決めて、みんながそのルールに則って行動をします。私は日本でもそういうのがあってもいい頃だと思います。日本も環境面はいろいろ整備されてきています。次のステージは『育成』にもっと目を向け、もっと改善していくようなところだと感じてはいます」


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