プロのサッカー選手を育てることが目的ではない。センアーノ神戸の柱となる“クラブ理念”
2020年02月14日
育成/環境2月の特集は「街クラブのコーチに選手育成を聞く」と題し、センアーノ神戸を取材した。このクラブは兵庫でも安定してベスト4に位置し、12月に鹿児島で開催された「全日本U-12サッカー選手権大会」でもベスト4に進出。2016年にはバーモントカップと全日本の二冠を達成し、その育成手腕を証明している。そこでU-12の監督を務める大木宏之氏に話をうかがった。今週のインタビュー第一弾では「クラブの歴史と、指導の学び方」について、大木氏の考えを聞いた。
【2月特集】街クラブのコーチに選手育成を聞く 〜センアーノ神戸〜
取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之
「センアーノ」という名前の由来とクラブの歩み
――「センアーノ」というクラブ名の由来は何かあるんですか?
大木 「コープこうべ」という生活協同組合の青少年活動の一環で、そこの職員がボランティアでサッカーを指導するチームとして立ち上がったのが、クラブの始まりです。子どもが一つの学年で20〜30人がいるなか、受験の合間にサッカーをしたい子もいれば、真剣にサッカーをしたい子もいる状況が続いていたようです。
それで普及(スクール)と強化(クラブ)にわけて活動をスタートしました。いろんな活動時間を過ごすなか、少しずつ普及側のチームに選手が集まらなくなり、現在のクラブだけが残る形となりました。センアーノとは「100年」という意味です。10年前に「100年継続するクラブにしよう」という想いを込めてセンアーノという名称にしました。100という数字には100%(全力)や100点満点(パーフェクト)という言葉もあるので、子どもたちを育成する中でキーワードとして使うのにとても良かったのも理由の一つです。
――なるほど。現在は「NPO法人」としてクラブ運営をされているわけですね。
大木 実は、私もクラブに関わった当初はボランティアとして指導していました。「センアーノ神戸」としてクラブ化するとき、私が指導するジュニア選手のお父さんが「経営面もしっかり考えていかないといけないのではないか?」とアドバイスを送ってくれました。クラブ化にあたって手続きをする際に必要なことにとても詳しかったんです。例えば、「子どもの安心安全を守る」こと、「コーチも専任として食べられる」ことなど様々な助言をいただきました。
――それがホームページに書かれている理念?
大木 はい。私は妻に相談し、2009年1月に専業コーチとして活動を始めました。すでにクラブは法人化して活動していましたが、そのタイミングで様々な経緯があり、私が代表として経営面に関わりながらジュニア、ジュニアユース、ユースとそれぞれのチームを形作ってきました。やはり経営を安定させることも大事なことなのでいくつかのスクールを開き、ガムシャラに指導に向き合ってきました。それまでもボランティアでサッカーを教えていて、スクールでの指導は意味としては「普及面」です。今も、そこはしっかりと展開してクラブとして大切にしている柱です。
私たちは、別にプロのサッカー選手を育てることが最大の目的ではありません。クラブとしてはサッカーを通じて学び、いろんなことを感じて社会に入ったときにリーダーになるような人材を育てようという思いを持っています。そこを基本的な柱として子どもや保護者と三位一体になってクラブ運営をしていくのが、私たちの理念です。そういうことを必死にやっていくなかで、少しずつ保護者の理解が増えてきてクラブが変化していきました。選手が増えたのも徐々に、ですね。
一度受け入れ、あとはトライ&エラーの繰り返し
――スクール展開をしていくなかで、クラブに所属する選手が増えていった、と。専業コーチとして指導をするにあたり、どういう風にサッカーを学ばれたんですか?
大木 基本的に、何でも取り入れるタイプです。いいと思うことは「とりあえず一回はやってみよう」と試しています。それこそFacebookもサッカー界の人はやっている人が多いからつながりが持てると始めたのが理由の一つです。それとSNSで投稿される記事は木之下さんのものを含めて勉強になることが多いので、それも大きな理由の一つです。あとは雑誌や書籍などサッカーに関するあらゆる情報はできる限り仕入れています。コーチライセンスはC級に止まってしまっていますが、きちんと取得しています。ただ、それ以上のランクはクラブ運営が忙しくてなかなか時間が取れないので、取得できていないのが現状です。
――きっと時間的な制約があるので難しい面もあります。
大木 とにかく自分がいいと思うものは率先して時間を使っています。今は海外に行ってみたい気持ちがあって、選手の経験も兼ねてチーム遠征という形でいくつかの国の招待大会に参加しています。これから学んでいるという特定のものはないですね。
――外から見ていると「なんでも試されるな」という感じです。
大木 本当におっしゃる通りです。12月に鹿児島で行われた「全日本U-12サッカー選手権大会」のバディーSCの戦いを見て、どこがメリットで、どこがデメリットなのかも分析しました。それをもとに、うちの4年生にやらせてみたりしています。
――大木さんの好奇心というか探究心というか、そういうものがセンアーノ神戸の子どもたちにも伝播していますよね。
大木 3年前に日本一にはなりましたけど、それを今でも同じようにやっていたら退化でしかありません。サッカーはどんどん進化していますから、育成年代の指導も進化しないとスピードについていけませんよね。子どもたちに失礼ですから。そのためにも自分で一回受け入れてみて、やってみて、あとは自分のアドリブです。
――全国大会に出場する街クラブの特徴の一つは「アドリブ力」かなと思っています。各クラブのコーチの感覚でその場の状況を柔軟に受け入れて選手に落とし込んでいるので、だからこそ選手も引き出しが増えて対応力が備わっていっている。そのような気がしています。
大木 私は、基本的に小さい頃から分析することが好きな子どもでした。他人の戦術、戦い方、指示、コーチングなどを見聞きして自分なりに理論化し、指導に落とし込んで、試してみて…。そういう流れはずっと取り組んでいます。そして、結果を検証して、さらに味を加えるみたいなことは繰り返しています。
「全日本U-12サッカー選手権大会」で行ったセットプレーもそうですね。11人制サッカーのセットプレーの本を読んだのですが、8人制だと人数が違います。でも理論は同じなので、選手にやらせてみて、そこから発展させたのが今年度の6年生がやっていたセットプレーです。
――それがあのセットプレーだったんですね。全日本、いや私が取材した全国大会でサインプレーを取り入れていたのは、唯一「センアーノ神戸」さんだけです(笑)。
大木 そうかもしれないです。
――卒業生の中には、スペインでサッカーコーチの勉強をしている子もいますよね?
大木 カタルーニャの「UEコルネジャ」というクラブのコーチをしている高田純という子がいます。帰国した際は、クラブで指導してくれます。
――コーチの面でも、クラブ内で良い循環が出てきています。
大木 全日本に帯同したコーチは3名だったのですが、1人は完全に教え子で大学2年生です。今回、鹿児島には行っていないですが、もう1人いて数人はクラブ出身者のコーチですね。
――高田さんが帰国したときはスペインというか、カタルーニャのサッカー指導の情報を仕入れられるわけですね。
大木 もうめちゃくちゃしますね。ここはああなの?こうなの?ずっと二人でその話ですね。
――楽しそうです。
大木 教え子ですけど、「パクったろ」と思って学んでいます。日本人とスペイン人は違いますけど、勉強になることばかりです。
――スペインの方が細かいですから。でも、若い頃に細かい部分まで学ぶのはうらやましい限りです。
>>2月特集の第三弾は「2月19日(水)」に配信予定
【プロフィール】
木之下潤(文筆家/編集者)
1976年生まれ。福岡県出身。様々な媒体で企画からライティングまで幅広く制作を行い、「年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「グアルディオラ総論」(ソルメディア)などを編集・執筆。2013年より本格的にジュニアを中心に「スポーツ×教育×心身の成長」について取材研究し、1月からnoteにてジュニアサッカーマガジン「僕の仮説を公開します」をスタート。2019年より女子U-18のクラブカップ戦「XF CUP」(日本クラブユース女子サッカー大会U-18)のメディアディレクター ▼twitter/note
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