ボランチに求められるのは「プレス抵抗力」。ペップ・グアルディオラが考える理想の“4番”像

2020年08月07日

戦術/スキル

2017-18シーズンにプレミアリーグの最多勝ち点記録を樹立して優勝を果たし、2018-19シーズンには2連覇を達成したマンチェスター・シティ。稀代の名将、ペップ・グアルディオラが率いるドリームチームはなぜ強かったのか。その秘密の一端を現在発売中の『ポジショナルフットボール教典 ペップ・グアルディオラが実践する支配的ゲームモデル』から一部覗き見てみよう。

※この記事は2020年04月21日に掲載した記事を加筆・再編集したものです。

『ポジショナルフットボール教典 ペップ・グアルディオラが実践する支配的ゲームモデル』より一部転載

著●リー・スコット 監修●龍岡歩 翻訳●高野鉄平 写真●Getty Images


【前回】相手のボールタッチミスがプレッシングスイッチとなる。ペップが狙う相手陣内での効果的な守備戦術とは


ポジショナルプレー グアルディオラ

一人のMFが中盤の底からコントロールする価値への信念

 グアルディオラのチームにおいて、中盤3人の底に位置する「4番」としてプレーする選手は、ある種のプレッシャーを感じずにはいられない。何よりこのポジションは、グアルディオラ自身が選手としてのキャリアを通してプレーし、その位置の選手に求められる役割を再定義してみせたポジションである。伝統的にはこのポジションでプレーする選手は、純粋に守備的な選手だと見なされていた。相手チームの攻撃を食い止めるとともに、より前の選手にボールを回す役割が課されていた。だが、サッカー界に存在する他の多くの事象と同じく、これを変えてしまったのはヨハン・クライフだった。

 「4番」が守備だけでなく攻撃時にもカギを握る存在となることに、クライフはとにかくこだわっていた。グアルディオラは選手時代、ある時、「シングルボランチとダブルボランチのどちらでプレーしたいか?」と尋ねられた。中盤の底を一人で担当するか、もう一人別のMFと並んでプレーするかのどちらかだ。彼の答えは、迷わず「シングルボランチ」だった。自分のいる位置と同じラインに2人目の選手がいれば、ボールを持った時のスペースが狭められてしまい、大事なパスコースが消されてしまうとグアルディオラは強く確信していた。一人のMFが中盤の底からコントロールすることに価値があるというこの信念を、グアルディオラは現役時代から監督時代に至るまで持ち続けてきた。

 バルセロナのBチームで指導者としての修行を積んでいた頃、セルヒオ・ブスケツという若く才能ある「4番」がチームにいたことはグアルディオラにとって幸運だったという見方もある。だが、これを幸運だと考えるのは結果論でしかないかもしれない。ブスケツがそのキャリアを通してワールドクラスのMFに成長していったことに疑問の余地はないとしても、一方で彼の選手としての成長にグアルディオラが監督として及ぼした影響も無視するわけにはいかないからだ。

 バルセロナBでも、その後のバルセロナでも、グアルディオラの手元には天性の「4番」がいた。だが、バイエルンの監督就任当初は、この不可欠な役割に最適な選手を見極めるのに苦労することになった。最初は同じスペイン出身のハヴィ・マルティネスが試されたが、グアルディオラはCBこそが彼にとって最適なポジションであることをすぐさま見抜いた。最終的にグアルディオラはある種のコンビネーション方式に落ち着き、シャヴィ・アロンソやラームといった選手がローテーションの形で「4番」を務めることになった。

 ブスケツもアロンソもラームも、同世代の中でトップレベル中のトップレベルの選手だ。グアルディオラほどの戦術的見識を持った指揮官が、これほど能力の高い重要な選手を選んでこの役割を託した ということ自体が、彼の戦術システムの中で「4番」が持つ重要度の高さを示している。事実上、このポジションの選手は、ピッチ上でグアルディオラのゲームモデルを体現する存在となる。彼のチームにおいて「4番」はプレーのリズムを規定し、マイボール時の攻撃パターンを決定する選手となる 場合が多い。より前のエリアに位置する創造的な選手の方が、決定的な仕事をして注目を浴びることが多いとしても、グアルディオラのチームで「4番」が果たす役割は軽視するわけにはいかない。

 シティにおいては、4 3 3のシステムの中でこのポジションを任せる選手に迷う必要はほとん どなかった。ブラジル代表のフェルナンジーニョが不動の存在として君臨している。シャフタール・ドネツクからやってきたこの選手がもたらしたインパクトは絶大であり、おそらくシティにとっては 最も失ってはならない選手になったといえる。

 2018シーズンには、負傷や出場停止でフェルナンジーニョを起用できない時期があったことで、その重要性がとりわけ明確に示された。シティに彼の不在をカバーするだけの選手層がないというわけではない。例えばイルカイ・ギュンドアンもクラブレベルと代表レベルの両方で非常に経験豊富な選手だ。だが、このドイツ代表MFが中盤の底のポジションに入ると、やはりフェルナンジーニョと比較すれば、プレーの効率が低下する部分が明らかに見て取れる。

グアルディオラ フェルナンジーニョ

シティの「4番」に要求される攻撃と守備フェーズでの2アクション

 その背後にある理由を理解するためには、まずグアルディオラの戦術システム内において「4番」に要求されるものとは何であるかを正確に把握しなければならない。この点を十分に分析するにあたって、彼のサッカーにおけるアクションを2つに分割する必要が生じてくる。守備フェーズと攻撃フェーズの2つである。守備フェーズとは試合の中で相手チームがボールを保持している時間帯のことだ。すでに述べたように、グアルディオラのチームにおいて「4番」は純粋に守備的な機能を持つ選手ではないとしても、やはり守備面が重要な役割の一つであることに変わりはない。

 中盤の底に位置する選手は、DFラインと、両WGが下がってきて2人のCMとともに形成する4人のライン間のスペースを埋める役割を担う場合が多い。一人でコントロール役を務める「4番」は、ペナルティーエリアの横幅内でポジションを移動し、相手の攻撃プレーヤーが入り込めるような空きスペースを作られてしまうのを阻もうとする。「4番」は、シティが攻撃から守備へと転じる場面で、相手が素早いカウンターを繰り出すことを防ぐ際にも重要となる。

 この点で、特に2018シーズンには、フェルナンジーニョはサッカーの〝黒い技巧〞のエキスパートとして悪名高い存在となった。相手が守備から攻撃に移る場面でボールを素早く前へ動かそうとしたところで、小さなファウルを犯してストップする場面が何度も見られた。「プロフェッショナルファウル」とも呼ばれるこのような小さなファウルがシティの戦術体系の一部に組み込まれていることは間違いない。だが、フェルナンジーニョが先発メンバーにいなければ、それを効果的に実践することができていなかった。

 攻撃フェーズにおいては、「4番」は攻撃構造の起点となる役割を果たす。SBが伝統的でワイドなポジション取りをする場合でも、前線へ移動して攻撃に加わる場合でも、この起点の位置でプレーするのは最も深いポジションの「4番」一人だけとなる。「4番」は前のポジションにいる選手を常にサポートできる位置へと移動する。

 このポジショニングにより、ファイナルサードの攻撃構造に自ら加わっていく適切なタイミングを選択することも可能となる。これは低いラインで受け身の守備ブロックを作ろうとするチームと戦う場合に特によく見られる動きだ。「4番」が深い位置から動き出し、後方から攻撃に加わることで、中央のエリアにオーバーロードを作り出し、シティは堅固な守備ブロックを打開することができる。

グアルディオラ

「4番」はきわめて高い「プレス抵抗力」が求められる

 ボールを守備エリアから進めていく際に「4番」が持つ重要性は前述の通りだ。「4番」が下がってくることで数的優位を作り出し、ボールを綺麗に進めることが可能となる。だが、チームの中でこの役割を果たすためには、「4番」の位置でプレーする選手にはきわめて高い「プレス抵抗力」が必要となる。「プレス抵抗力」という言葉は単純に、相手選手がプレッシャーをかけてこようとする狭いエリアの中でもボールを失わず扱うことができる能力を指している。

 現在のシティにおいてプレス抵抗力は大きなカギを握る能力となっている。ボールを前へ進めていこうとする時、狭いエリア内でボールを受けてプレーしようとする意志と能力は非常に重要となる。 図15では、フェルナンジーニョがボールを受けた時、3人の相手選手がすぐ近くにいてボールにプレスをかけてこようとする場面を示している。だが、フェルナンジーニョにはこのプレッシャーを受けながらも、サイドのスペースに出すパスコースを見つけてボールを通すことができるだけの能力と冷静さがある。

 グアルディオラのチームにおける「4番」の役割は、当然ながらプレーの中心となる軸として機能することだ。そのため、このポジションを任される選手には、ボールを受けたあと自分の前にあるパスコースの選択肢を見つけられる視野の広さと技術力がなければならず、もちろんそのパスを実際に通す技術も必要となる。図15をもう一度見てみると、フェルナンジーニョはボールを自分で無理に運ぼうとしたり、右サイドへより安全なパスを出そうとしたりはせず、左のワイドなポジションにいるサネにボールを出すことができるということだ。このように、よりリスクの高い前方へのパスが用いられることからも、グアルディオラとコーチングスタッフが選手の選択の正しさを信頼していることがよくわかる。

ポジショナルプレー 解説


つづきは『ポジショナルフットボール教典 ペップ・グアルディオラが実践する支配的ゲームモデル』からご覧ください。


ポジショナルフットボール

【商品名】ポジショナルフットボール教典 ペップ・グアルディオラが実践する支配的ゲームモデル
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2020/4/22

【書籍紹介】
なぜバックラインからビルドアップするのか?
なぜサイドバックは中央へ斜めに走るのか?
なぜ「4番」には「プレス抵抗力」が求められるのか?
なぜ一人はボールと反対側のワイドな位置にいるのか?
なぜウイングが曲線的に中央へプレスをかけるのか?
なぜ守備ブロックはサイドを空けているのか?
なぜ「8番」はハーフスペースを占めるのか?
すべての答えはこの教典の中にある。


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