【熱中症予防・応急処置】救命救急医に聞く「子どもが弱音を吐ける環境作りを」

2020年08月19日

フィジカル/メディカル
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炎天下の中で練習や試合を行えば、当然、熱中症のリスクは高まります。もちろん熱中症にならないことがベストですが、万が一、症状が出た場合の対処・処置について、熱中症に関する著書を持つ三宅康史先生(帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長)に話を伺いました。

※この記事は2018年8月9日に掲載した記事を加筆・再編集したものです。

取材・文●三谷悠 写真●ジュニサカ編集部、松田杏子、佐藤博之


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熱中症は対策さえすれば重症化を抑えられる

 今夏の酷暑の影響で、多くの熱中症患者の方が出ています(※編集部注:総務省消防庁発表の資料によると、東京都では7月23~29日の間に1,146人が熱中症のために救急搬送された)。

 一見、対策が甘いように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。対策が取られているからこそ、“これだけの数で済んでいる”というのが正しい認識です。

 毎年、平均気温が上がり、真夏日・猛暑日が増えてきているにもかかわらず、熱中症で亡くなる方は増えていません。2010年の1,731人をピークに徐々に減ってきています。日本救急医学会が作成した『熱中症診療ガイドライン2015』などを参考に対策が取られ、広く注意喚起がなされていることが大きな要因だと思われます。

 また、早急に救急車を呼ぶケースが増えていることも、死亡者減少の呼び水となっています。熱中症への認識が進み、その結果、重症化が抑えられているとも言えるでしょう。実際、平均気温が上がり、真夏日や猛暑日が増えれば、熱中症の患者数が増えるのは当然で、その一方で死亡率が徐々にではあれど下がっているということは、対策として一定の成果が出ていると考えるべきだと思います。

 しかし、だからと言って安心できるわけではありません。10代に限って言えば、“屋外でスポーツをしている男の子”が多いというデータが出ています。これは、男の子が暑さ・熱中症に弱いわけではなく、単純に夏場に屋外でスポーツをする男子児童・学生が多いということであり、当然、サッカーをしている小学生年代の子どもたちも、この枠組みに当てはまります。

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スポーツの現場で“行動を制限させる”と熱中症のリスクは高まる

 親御さんにまず安心していただきたいのは、自分で水を飲めるような年齢の子どもに関しては、ある程度自由にさせておけば、基本的には熱中症になることはありません。たとえば、公園で遊んでいる幼稚園児や小学生が暑さを感じた場合、自分で服を脱いで噴水に飛び込むことがあると思います。そのとき、決して衛生的とは言えませんが水を口に含んだり、疲れたら、親御さんのところに戻って休んだり……。このように、基本的には自由にさせておけば、子どもは自然と熱中症対策を行うのです。

 ただし、サッカーをはじめスポーツの現場では、こうはいきません。練習にせよ、試合にせよ、“自由に振る舞えない”“行動が制限されている”子どもは、やはり熱中症のリスクが高まります。

 また、指導者は、次の3点に注意しなければいけません。それは①体調、②環境、③行動です。これらは子どもによって大きく異なり、その違いによって熱中症のかかりやすさが大きく変わってくるからです。

 ①の体調で言えば、塾で帰りが遅くなって寝不足、風邪気味で体力が落ちているなどが挙げられます。②の環境は、その子どもが立っている場所の気温や湿度、風通しなどのコンディション。日陰に長くいる子どもと、日なたに長くいる子どもでは当然、熱中症へのリスクが変わってきます。③の行動を簡単に言えば、ポジションごとの運動量や、かかる負荷の違いです。GKと、フィールドプレーヤーでは当然、消費する体力に差があります。また、経験年数や学年も影響してきます。

 仮に8人制の試合が行われたとして、全員が熱中症になるわけではなく、これらの悪条件が重なった結果、まず1人が発症するケースがほとんどです。そして、1人が熱中症になったということは、2人目の患者が出る可能性を考えないといけません。
 
 ただし、熱中症を過剰に意識して、スポーツそのものをやめることに私はあまり賛同できません。こうした環境の中で、いかにリスクヘッジをしながら、子どもたちをサッカーに向かわせるか。ここが指導者の腕の見せどころだと思います。たとえば、練習時間を朝の6~9時に設定して休憩時間を多めに取る、休憩も空調設備の効いた屋内で過ごさせることも効果的でしょう。

 また、冷えたスポーツドリンクも熱中症のリスクを下げます。スポーツドリンクは糖分が多いために水やお茶より体への吸収が速く、同時に塩分も含まれているため、大量に発汗した子どもたちにとってベストの飲み物です。

 さらに、“冷たくすることも”大切です。たとえ常温であっても、摂取できる塩分や糖分に差はありませんが、冷たいドリンクは飲むだけで体を冷やすため、有効な対策のひとつ。氷水を張った大きな容器に、常にスポーツドリンクを入れておくなどの準備はしておく必要があると思います。そして、どんどん飲ませてあげてください。

■熱中症対策のポイント

・指導者は子ども①体調、②環境、③行動をしっかりと把握する。
・比較的に気温の低い時間帯に練習をする、休憩を多めに取り、屋内の空調設備の効いた屋内で過ごさせるなど暑さに対する環境を整る。(これができない環境での練習は控える)
・“冷えたスポーツドリンク”をたくさん飲んで身体を冷やす。また塩分と糖分を同時に摂取する。

熱中症の図

熱中症で必須の応急処置“FIRE”

 ここからは、万が一、熱中症になってしまった場合の対策について話を進めていきましょう。

①まずは熱中症を疑う

 暑熱環境、つまり体が暑さを感じる環境にいた場合の体調不良は、まず、熱中症を疑ってください。もちろん原因が他にある可能性も否定できませんが、暑熱環境下での体調不良は、まず熱中症を疑うことから、その対策が始まります。ちなみに、よく見られる症状は、以下の通りです。

初期症状(軽症):めまい・失神・筋肉痛・筋肉の硬直・大量の発汗
中等症:頭痛・不快感・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感
重症:意識障害・けいれん・手足の運動障害・高体温など

※環境省 熱中症環境保健マニュアル2018より

②呼びかけに応えるか否か

 続いて、「○○君、○○ちゃん」と呼び掛けます。もし、目が虚ろになっている、舌が回らず返事が曖昧など“いつもと違う”様子であれば、すぐに救急車を手配しましょう。

 幸いにも返事がきちんとできて、意識がハッキリしていたら、熱中症処置の行動指針となるFIREを施します。これは、Fluid=適切な水分補給、Icing=身体を冷やす、Rest=安静、Emergency=救急搬送という4つの単語の頭文字を取ったもので、熱中症の応急処置として高い効果を発揮します。

 まずは涼しい場所へと移動させてください。日陰でもかまいませんが、風通しが悪いと意味がありません。できれば空調設備の整ったクラブハウスや車内がよいでしょう。

③体を冷やす

 次に体を冷やします。スパイクとソックスを脱がせ、首筋、脇の下、鼠蹊部を冷やしてあげましょう。この3箇所はいずれも皮膚の近くに太い静脈が走り、体の中に向かってゆっくりと血液が流れているため、冷えた血液が全身に回りやすいというメリットがあります。脇の下と鼠蹊部には、チームで用意している氷のうをシッカリ当ててください。氷のうは皮膚への接触面積が大きいため、体がよく冷えます。ただし、首筋は苦しくなることがあるため、氷水につけて絞ったタオルなどがベストです。

④水分を摂らせる

 続いて、「Fluid=適切な水分補給」です。前述したように、サッカーによって失われた塩分や糖分を補うために、また、熱くなった体を冷やすために、冷たいスポーツドリンクを飲ませてあげてください。特に蒸し暑い環境で汗がなかなか乾かない状態であれば、こうして体を冷やすしか対策はありません。

 ここで重要なのは、自力で水分を摂取できるかどうかです。仮に、うまく口に運べない、飲んでも過剰にむせるなどの症状は、意識が正常に働いていないことを表しています。このような症状が見られたときは、すぐに救急車を手配しましょう。

⑤症状が良くなったか確認

 最後に、症状がよくなったかどうかを確認します。常に誰かが付き添い、様子を見てあげることが大切です。もし、Fluid=適切な水分補給、Icing=身体を冷やす、Rest=安静の3つの処置によって症状が緩和されたら、練習や試合に戻ってもかまいません。もちろん、迎えを呼んで帰宅させるという措置でも大丈夫です。少しの休憩で回復する場合は、熱中症の重症度で言うところのⅠ度(軽度)にあたりますし、サッカーをしている子どもはそもそも元気ですから、極端に神経質になる必要はないと言えるでしょう。

 状態に応じて5~20分程度を目安に安静にさせて見守ってあげてください。

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子どもが「弱音を吐ける」環境作りを

 小学生の場合は、普段から「調子が悪ければ大人に素直に言える環境作り」が大事です。監督やコーチに対して、“弱音を吐きやすい環境”がなければ、子どもは我慢し続け、最終的には取り返しのつかない状況になることも十分に考えられます。

 “言い出しにくい”“かっこ悪い”“迷惑をかけたくない”。子どもがこんな気持ちにならないように、日常的に何でも話せるようなコミュニケーションを指導者の皆さんは図っていきましょう。明らかに体調が悪いにもかかわらず、練習や試合に参加しようとする子ども対しては、「熱中症は大変なことになる場合もあるんだよ。また、元気になったときにサッカーしよう」と伝えてあげてください。

 WBGTが31度を超えてしまっても運動が完全にできなくなるわけではありません。暑い中でも運動するというのは体を鍛えるという意味では一定の効果はあるかもしれません。

 ただ確実に言えるのは勝ち負けがかかった公式戦や記録がかかった大会をやるのに適した環境ではないということでしょう。団体競技にしても個人競技にしても“暑さに勝つことが強い者の証”という考え方がそのスポーツの本質ではないわけですから。 この酷暑の中で子どもたちを追い込むのはあまりにも過酷ではないでしょうか。

 また、保護者の皆さんは、食中毒にも気をつけてください。対処としては、飲食料(経口補水液なども)やできる限り、市販のものを子どもたちに持たせましょう。節約のために、お弁当や飲み物を手作りして、子どもたちに渡すご家庭もあるかと思いますが、その場合、市販品と比較して食中毒のリスクは高まってしまいます。

 大抵の場合は大丈夫ですし、大きな問題は起こりにくいですが、費用が多少かさんだとしても、未開封の市販品のほうが“食中毒のリスク回避”という意味では、効果が高いと言えます。


<プロフィール>
三宅康史(みやけ やすふみ)

帝京大学医学部救急医学教授。帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長。厚生労働省発行の熱中症診療ガイドラインの作成に携わるなど、熱中症対策・医療のエキスパート。著書に『神経外傷 診療ガイドブック(メジカルビュー社)』『熱中症Review―Q&Aでわかる熱中症のすべて(中外医学社)』などがある。


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