育成年代の指導者ができる「子どもたちが“失敗できる環境”づくり」とは
2021年04月23日
育成/環境前回『「目先の勝利より、選手を“認める”指導の実践を」 何のためにスポーツをするのか』では、2004年のアテネオリンピックに出場した大山加奈さんとサッカー界における育成のスペシャリスト池上正氏の対談から日本の育成年代における様々な問題について議論しました。今回は、育成年代が抱える様々な問題を解決するために指導者ができることについて議論が行われました。
『バレーボール指導の極意』巻末特別対談より一部記事を抜粋
著●岩本勝暁
褒めるのは難しいので「認めてあげる」
大山 小学生の大会を見に行くと、9割以上の指導者が子どもを叱っています。褒める指導者はほとんど見られません。「褒めると選手が甘えてしまう」「選手に舐められる」という指導者が多いようです。中には、「褒め方がわからない」という人もいますね。
池上 私は最近、褒めるのは難しいので「認めてあげる」という言い方を使っています。
大山 なるほど。
池上 例えば、子どもが何かいいプレーをしたときに、「おっ!」と言うだけで認めていることになります。少しでもリアクションをしてあげたら、選手は認められていると思うでしょう。性格の大人しい子がいいプレーをしたら、声を出さずにその子の顔を見て、親指を立てて笑ってあげるだけでいい。そうすると、その子どももニッコリと微笑んでくれますよ。
大山 それくらいのリアクションなら誰にでもできそうですね。
池上 元気な子がいいプレーをしたら「ナイスプレー」ではなく「素晴らしい」と言うようにしています。もちろん、ナイスプレーでもいいのですが、今の子どもは難しいサッカー用語をたくさん知っています。知ってはいるけど、その用語の中身は知らない。「ナイスプレー」くらいはわかるでしょうけど、「日本語にすると『素晴らしい』ということだよ」ということを知ってほしいんです。できるだけ子どもたちが理解しやすいように、英語ではなく、日本語を使うようにしています。―試合でミスをすると、他の人のせいにする子も多いように感じます。
大山 誰でも怒られたくないですからね。だから、他の人のせいにして自分を守ってしまうのでしょう。
池上 日本の教育の問題でもありますよね。答えがあって、その答えを導き出さないといけないという教育。例えば、小学1年生に何か質問をすると、全員が手を挙げてくれます。違う答えも返ってくるのですが、でも、何か答えたくて仕方がない。それが、小学6年生になると、質問されても誰も手を挙げなくなります。
大山 確かにそうですね。どうしてでしょう。
池上 先生は授業を進めないといけないから、時間がないときは答えがわかっている子しか当てないんですね。そして、「ちゃんと勉強しているね」と言って授業が進んでいく。そうすると、答えがわからない子や、スポーツでいうとできない子が置いてきぼりにされてしまいます。さらに言うと、コミュニケーションがうまく取れない子どもが増えています。何か発言をすると、それで目立ってしまって、いじめの標的になることもある。「真面目ぶりやがって」ということを今の子は平気で言いますから。
大山 そうなると、答えがわかっていても誰も手を挙げなくなりますね。
池上 私はそれをスポーツで変えたいと思っています。スポーツをしている子は失敗してもへっちゃら。いっぱい失敗するから、いろんなことがわかるんだよって。
つづきは『バレーボール指導の極意』からご覧ください。
大山加奈(おおやま・かな) 1984年6月19日生まれ、東京都出身。元全日本女子バレーボール選手。成徳学園高校(現・下北沢成徳高校)で、主将としてインターハイ・国体・春高バレーの3冠を達成、小中高全ての年代で日本一を経験。東レアローズ女子バレーボール部に入部後アテネオリンピックに出場するなど、力強いスパイクを武器に日本を代表するプレーヤーとして活躍。2010年に現役を引退。キッズコーディネーショントレーナーの資格を取得し、全国での講演活動やバレーボール教室に精力的に取り組み幅広く活動している。
池上 正(いけがみ・ただし) 1956年生まれ、大阪府出身。「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼年代や小学生を指導。02年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。2010年1月にジェフを退団。同年春より「NPO法人I.K.O市原アカデミー」を設立。2011年より京都サンガF.C.で普及部部長などを歴任した。現在は大学講師も務める。08年1月に上梓した初めての著書『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(08年・小学館)はベストセラー。ジュニア指導歴39年で、のべ50万人の子どもたちを指導した実績を持つ。
【商品名】バレーボール指導の極意
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2021/04/19
【書籍紹介】
いまどき選手の力を引き出す監督がここまで明かす!
バレーボール指導の極意
脱根性、脱スパルタ、脱勝利至上主義
『人を育て、結果を残す』
今、指導者へ求められるマル秘上達メソッド
練習メニューの一部はQRコードで確認
巻末特別対談
大山加奈(元日本代表)×池上正(「NPO法人I・K・O市原アカデミー」代表)
<収録チーム>
【高校】
「選手の邪魔をしない」
人から指示されるのではなく、
選手が自分たちで勝つことを求める
(星城・竹内裕幸総監督)
「自主性、自立、自律」
徹底した放任主義で、選手の考える力を養う
(慶應義塾・渡辺大地監督)
「負けの流れを作るミスを減らす」
シンプルな技術を伝え、
全ての不安を解消して選手を試合に送り出す
(益田清風・熊崎雅文監督)
【中学校】
「選手を完成させない指導」
みんなと一緒のことを頑張るのがベース。
「誰からも応援されるチーム」を
(ジェイテクトSTINGSジュニア・宗宮直人監督)
【小学校】
「小さくても戦える」
徹底した反復練習が正確なサーブと
粘り強いレシーブを生み出す
(上黒瀬JVC・小林直輝監督)
「〝勝ち〟から〝価値〟を見出す」
積極的に声を出して
コミュニケーション能力の高い子どもを育てる
(東風JVC・楢崎和也監督)
岩本勝暁 いわもと・かつあき
2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動を開始。バレーボールやサッカー、競泳などのオリンピック競技からセパタクローまで幅広く取材。『月刊バレーボール』(日本文化出版)を中心に、主に雑誌やウェブに寄稿する。夏季五輪は2004年アテネ大会から2016年リオデジャネイロ大会まで4大会を現地で取材。また、『ママさんバレー 基本と戦術』(実業之日本社)、『ビーチバレーボール教本』(日本バレーボール協会)、『ソフトバレーボールの教科書』(日本文芸社)などの実用書のほか、セパタクロープレーヤー寺島武志の生き様を描いたフォトブック『夢を跳ぶ。』(日本写真企画)では執筆を担当する。
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