「ミスを恐れる気持ちこそ一番の敵」。常に前を向く選手を育てるミシャ流コミュニケーション術とは
2021年09月03日
育成/環境2006年6月からサンフレッチェ広島、2012年に浦和レッズ、そして2018年から北海道コンサドーレ札幌の監督であるミハイロ・ペドロヴィッチ。ミシャの愛称で知られる指揮官は、攻撃的なサッカーをチームに浸透させてきた。日本人よりも日本人の特徴をよく知る彼が、選手たちを指導する際に心がけていることはどのようなことなのだろうか。今月6日に発売となる『フットボール批評 issue33』から一部抜粋して紹介する。
『フットボール批評 issue33』
文●柴村直弥 写真●Getty Images
広島の選手たちは消極的で「機械的」な印象さえあった
当初、広島の選手たちは消極的で、「何をするにも失敗を恐れている」という印象が非常に強かったことを覚えています。最初の1週間はどちらかと言えば、選手たちは「機械的」という印象さえありました。
私が当初、心がけたのは、選手との「距離」を近くすることでした。選手たちがより自分たちの意見を言いやすい環境を作ることを意識したのです。もちろん、厳しいことを言うこともありますが、終わった瞬間に選手と近い距離でフレンドリーに接する。そうすることで、選手たちが私自身を恐れ過ぎないようになれば、と思いました。「距離」を縮めることで選手たちが監督である私に対して意見を言いやすくすることが、最初に意識したことでした。
エピソードがあります。トレーニングで青山(敏弘)が非常に良いアイデアのパスを出しました。ただ、 残念ながらそのパスはミスになってしまいました。しかし、私は彼に「ブラボー!素晴らしいアイデアだ」と言い、彼を褒めました。これは一つのエピソードに過ぎませんが、他の選手たちに対しても、例えそれがミスになったとしても、トライしたことに対しては積極的に褒めるようにしました。選手たちは驚いていましたが、私はトライしたことや良いアイデアだったことに対しては「良いトライだった。素晴らしい判断だった」などと、褒めるようにしていました。
また、当初、選手たちは機械的に右、左と、横にばかりボールを動かしていました。そこで伝えたのは「ゴールは前にある」ということです。ただ、相手もゴール前をしっかり守っています。ゴールをするためには縦パスを狙っていかなければならず、相手の背後を狙っていかなければなりません。しかし、選手たちはミスを恐れるあまり、アリバイ的な選択をすることが多かったのです。それではゴールは生まれません。積極的に縦に仕掛ける、あるいは縦パスを入れる、例えそれがミスになったとしても、まずそのアイデアを褒めましょう、と。そういったことを当初は選手たちとコミュニケーションを取りながら働きかけていきました。
選手たちのアイデアや判断から「私も選手から学ぶことがある」とも伝えていました。さらに「選手たちが自分で考えて判断することが大事なんだ」と、当時、何度も言っていた気がします。加えて私がよく選手たちに言うことは、「敵は相手ではなく自分の中にある」ということ。サッカーはメンタルのスポーツでもあるので、「ミスをしたらどうしようと恐れる気持ちこそ一番の敵だ」ということです。
日本人の指導者は真面目で勉強熱心な方が多いと思います。私が一緒に仕事をした指導者に伝えていたのは、「監督として負けることを恐れるな」ということです。日本に来た当初、日本人の指導者は「負けなければ良い、負けないことが大事」という考え方をベースにチームを作って戦っているのでは?と感じていました。今は「負けることを恐れずにトライする」意識でチームを作っ ている日本人の指導者が増えてきたと思います。監督の思考に選手はやはり敏感に反応します。「監督ビビってるな」と選手が感じてしまえば、選手自身もネガティブな思考になってしまい、それはプレーにも表れます。監督の思考が選手にも伝わっていくものだと私は思っています。
全文は『フットボール批評 issue33』からご覧ください。
【商品名】フットボール批評 issue33
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2021/09/06
【書籍紹介】
秋のフォーメーション集中講座
今さら「フォーメーション」だけに特化したサッカー雑誌が、しかも東洋の島国から出るとの報せを、もし、イングランドのマンチェスター界隈、それもペップ・グアルディオラ、フアンマ・リージョが奇跡的に傍受したとしたら―。「フォーメーションは電話番号に過ぎない」と切って捨てる両巨頭に、「まだ日本ではそんなことを……」と一笑に付されるのだろう。いや、舌打ちすらしてくれない可能性が高い。
しかし、同誌はそんなことではめげない。先月無事に開催された東京オリンピック2020におけるなでしこジャパン戦のような感情論一辺倒の応援に似た解説だけでは、フットボールの深淵には永遠に辿り着くことはないと信じて疑わないからだ。「フォーメーション」と「フォーメーション以外」を対立させたいわけでは毛頭なく、フォーメーション観をアップデートし、その攻防をよりロジカルに堪能したい、ただそれだけなのである。
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