『小澤一郎の育成指導をさぐる旅』 第1回 新座片山FC少年団 川原嘉雄代表
2012年12月03日
コラム怒鳴る・叩く指導――。
かつて部活動をはじめ、スポーツ競技経験者のなかには、こういった指導を受けたことのある方は多いのではないでしょうか?
しかし、今、こういった指導はタブーとされています。ましてや子どもに手を出せば、体罰問題にもなりかねません。
それを前提にさらに付け加えるならば、サッカーの場合、刻一刻と状況が変化します。
これが絶対に正解というプレーはないですし、動き方のマニュアルも存在しません。
選手個人の判断力が重要視されるサッカーでは、怒鳴る、叩くといった指導者の行為は、子どもを萎縮させ、結果的に指導者の言われた通りにしか、プレーできない選手になりやすいとも言われています。
ジュニアサッカーを応援しよう!Vol.27(12月6日発売)の新連載で、スペインでも指導経験があるサッカージャーナリスト・小澤一郎さんの企画『育成指導を探る旅』は、記事内にもあるように、時には敢えて世間的に「評判の悪い」クラブに乗り込み、自分自身の目で現場を見て、クラブの指導者の話を聞いて、自分なりの解釈、意見を皆さんに提示していくこと、さらに「ありえない」と感じたときには、そこに所属する子どもたちを救う目的で厳しく批判を行うし、「誤解がある」と感じたときにはうまく”通訳”の役割を果たして、その誤解を解くような手(記事)を差し伸べたいと思っています。
とりわけ冒頭の”怒鳴る・叩く”などの指導を行っているようなチームであれば、だからこそ周囲の伝聞や情報に惑わされず、直接取材をして、指導者に話を聞くことが重要だと考えています。
もう一度書きますが、そういった指導を決して推奨しているわけではありません。
また、ただ根拠もなく、断罪することもありません。
例えば怒鳴る行為、すべてが果たしていけないことなのか。何を基準にOKかNOかを線引きすることは思っている以上に容易ではありません。
その指導の意図を明確にすることによって、本当にこういった指導が、子どもたちの未来につながっていくのかどうかを、ぜひ議論するきっかけにしてもらいたいと願っています。
(ジュニアサッカーを応援しよう!編集長 滝川昂)
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「雑草サッカー」を実践するためのメンタル強化
「その辺の雑草、高速道路のコンクリートに生えるペンペン草のように踏まれても、踏まれても生えてくるような泥臭いサッカーです」
取材に応じてくれた川原代表は、新座片山のサッカースタイルを「雑草サッカー」と表現する。
しかし、勝利のためにひたむきに泥臭くサッカーをするのは小学5,6年生で、幼稚園から小学4年生までの学年は「本当に自由に楽しく、サッカー遊びをしながらいろいろなことを教え、考えさせていく」指導を徹底している。実際、入会案内には「サッカーを通して遊び、遊びながらサッカーを学ぶ」「試合をしてもポジションは決めない」「勝ち負けには、こだわらないで試合することの楽しさを教える」と明記されており、「4年生以上になると、試合をする楽しさと同時に勝負の厳しさも徐々に伝えていきます」という指導方針も掲載されている。
技術的な指導に関しては、ジュニア年代において外せない「止める、蹴る」のボールコントロールを重視しているが、他クラブと全く異なるのが心理的アプローチだ。
「うちが違うのは、メンタル。『絶対負けるな』と言っていますし、『怖がるな、諦めるな』、あとは『いじけるな、くじけるな、めげるな』もよく言っています」(川原代表)
実際、勝ちにこだわる高学年で「楽なサッカー」は一切教えない。そこでルール化しているのが、「倒れない」こと。極端なのかもしれないが、新座片山ではたとえ相手に足を引っかけられても倒れることなく、態勢を立て直して次のプレーにつなげることが求められる。審判が相手のファールをとって笛を吹いたとしても、川原代表が「勝手に倒れたうちの選手が悪い」と言うことがあるほど。
そもそも相手が速すぎて思わず足を引っかけてしまったファール以外、基本的にはファールを犯すこと自体を禁止している。当然、相手のユニフォームを引っ張って止めるような悪質なファールは絶対に許されず、練習試合であれば自主退場となる。「日本人はファールをしてはいけない」と語る川原代表の頭には「マリーシア」なる単語は存在しない。相手や審判を騙すような行為、他人を欺くプレーはサッカーへの冒涜であり、日本人の持つ価値観、美徳からして受け入れがたいこと。川原代表はあるとき、テレビ解説者が「サッカーではうまく手を使わないといけない」という趣旨の発言をしているのを聞いて、「ふざけるな」と憤ったそうだ。
「小学生の時期にファールを教えることは楽なんです。ファールで相手を止める、ファールで自分たちのボールにする。こんなことを小学生から教えたらダメですし、(中学以降)上になれば自然と覚えていきます」
だからこそ、川原代表は欧州や南米のサッカー大国に『右に倣え』で追従する姿勢にも苦言を呈する。
「何でもかんでもサッカー先進国を見習うのは良くない。日本には日本の文化があるわけで、嘘をつかない、約束を守る、など美徳でもある日本の文化を大切にすべきです」
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