指導者と子どもの気持ちがズレるとき その「想い」一方通行になっていませんか?【前編】

2013年12月17日

コラム

ルールや規律が良い子を作るのか?

 スポーツ活動を通して、子どもは何を身につけるのでしょうか。技能が上達することや、勝ったり負けたりといった経験をすることは間違いのない事実ですが、多くの指導者は、礼儀や規律、そして集団のルールを通して、人間力を磨くことも期待しているはずです。

 これが指導者の願いです。人間力と言うと曖昧でわかりにくい言葉ですが、人格、パーソナリティという言葉で表現可能な、自らが社会や仲間と関わっていくことのできる力量を指しています。

 それでは、このような人間力はスポーツ活動を通して身につくのでしょうか。スポーツ科学の領域でこの問題と最も近いものには、「スポーツ経験によるパーソナリティへの影響」というテーマがあります。このテーマの研究動向を大雑把に言うと、次のようになります。

 まず、スポーツをしている者とそうでない者のパーソナリティ特性を比較すると、スポーツ経験者の方が、社交的、主張的、攻撃的といった特徴が見られます。この特徴を「スポーツマン的性格」と呼んでいます。

 ここで、スポーツマン的性格が見出されるということは、スポーツ経験がパーソナリティ形成に影響することを間接的に支持したことになりますが、完全ではありません。というのは、もともとスポーツマン的性格を有する者がスポーツ参加をしただけではないか、あるいは、スポーツマン的性格を有する者がスポーツを長く継続することに適しているだけではないか、といった問題点があるからです。

 そこで、単にスポーツをしているかどうかよりも、スポーツ経験の内容の方がパーソナリティ形成に影響するのではないかと考えます。つまり、ずっとレギュラーとして活躍し、勝つ喜びを十分に味わってきたという者もいれば、努力に努力を重ねながらも、試合に出場する機会が少なく、しかも監督やコーチに指摘ばかりされてきたという者もいるので、ひとくちにスポーツをしてきたと言っても、そこで経験してきたことはそれぞれ違うはずだということです。

 そして、こうしたスポーツ経験の内容とパーソナリティ形成との関連について検討してみると、スポーツ活動に積極的に関わり、いろいろな模索を続けてきた者は、成熟した人格を有するようになるのではないかと示唆できるようです。

 こうした結果を踏まえると、例えば、指導者が集団の規律やルールを厳格に適用したとしても、必ずしもそれに見合ったパーソナリティ特性が形成されるとは限らないことになります。そう思うのは指導者の思い込みと言っても言い過ぎではありません。集団の規律やルールが厳格に適用された中で、一人ひとりの子どもがどう感じ、どう考え、どう対応したかが、その子どものパーソナリティ形成に影響するのです。

 極端なケースかもしれませんが、一生懸命努力し勝利するという素晴らしい経験を味わった直後に、スポーツを離脱することもあります。これは実際に私が指導した選手の例で、その選手はもう限界までプレーすることに疲れたと言って、部活動を止めていきました。家庭の事情も少し影響していたことを後日知りましたが、彼は燃え尽きたのです。

 このように、勝つという同じ経験をしたとしても、子ども一人ひとりの感じ方が違うわけで、指導者は勝利という素晴らしい経験をすることができたとだけ単純に思い込んではいけないのです。

(後編へ続く。次回は12月18日更新予定)


プロフィール
奥田援史
滋賀大学教育学部准教授。運動心理学が専門で、双生児研究や早期教育について調査をしている。サッカーは、小学1年から始め、関西高校ユース代表になったことがある。スポーツ少年団のコーチもしたことがある。現在、滋賀大学教育学部サッカー部部長。

 


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