いま注目のセレッソ大阪・柿谷曜一朗選手特集!! 1対1を制する超実戦的フェイントと少年時代の思い出
2013年08月22日
サッカーエンタメ最前線自信だけは絶対に失わない姿勢
恩師にそこまで言わせるセンスの持ち主が、小学3年生からレベルの高い選手育成コースに抜擢されるのは、当然のなりゆきだった。学校が終わると近くで待っている母親の車で神崎へ直行し、年上の少年たちと密度の濃い練習をこなす。練習後、お母さんが買ってくれるアメリカンドックを食べるのが楽しみだったという。4~5年になると自宅から遠い尼崎での練習が増えたが、宇佐美宏和(現湘南ベルマール)ら同じ方向から通っている先輩と一緒にグラウンドまで行き来するなど、自主性も養われていった。
5年生の柿谷を教えたのは、小菊昭雄コーチ(現トップコーチ)である。
「クロスも左右両足で完璧に合わせられるし、シュートの時もGKをギリギリまで引き出してから軽いタッチで決めたりと驚きの連続。まるでキャプテン翼の翼くんみたいでした」と当時の衝撃を振り返る。
スクールに加入以来、飛び級で上の年代の選手とプレーしてきた天才少年は順調に成長を遂げ、6年生の時には上のカテゴリーでプレーをした。当時、同チームを指導していた風巻和生監督(現興国高監督)も「同学年の中でやっていても厳しさを与えられない。カテゴリーを上げてやらせた方が本人の刺激になると判断しました」
そう当時を振り返った。
6年生になった2001年から練習場所も南津守に変わり、日本代表で活躍していた森島晃寛氏(現セレッソ大阪アンバサダー)や西澤明訓氏ら看板選手の間近でボールを蹴れるのは、柿谷にとって大きな喜びだった。同年入団のスーパー新人・大久保嘉人(現川崎フロンターレ)にも瞬く間に心を奪われた。「嘉人さんはプレーも身なりも服装も何から何までカッコよかった。憧れました」と彼は嬉しそうに話す。
早生まれゆえにひとつ上の先輩との体格差は大きかったが、スキルの部分では見劣りしないどころか、むしろ上を行っていた。「このレベルでできんかったらプロではムリ」と本人の意識も高かった。
その反面、足りない部分もあった。ジュニアユース年代になれば、チームのために献身的に守備をしたり、走ってボールを追うといった黒子の仕事も求められる。しかしまだ子どもから大人へ脱皮しきれていなかった当時の彼は「ボールを持った時に目立ちたい。人にカッコいいと思われるプレーをしたい」という美意識が強く、スタンスをなかなか変えられなかったのだ。
「小学校高学年くらいから、監督やコーチに『走れ』『守備しろ』とよく言われましたよ。でも僕は聞き流していたんでしょうね。自分はあまり体力がないし、ムダ走りしすぎて息が上がっているときにボールが来て決定的な仕事ができないんじゃ意味がない。万全な状態に整えて一気に行こうという考えも強かった。僕は怒られれば怒られるほどやらんようになるし、コーチもそれを知ってたんで、あまりしつこくは注意されなかった気がしますね」
本人は複雑な表情を浮かべる。
柿谷の意識をどう変えるか……。それは風巻監督ら指導者にとって難易度の高いテーマだった。飛び級による弊害もあったようだ。「曜一朗のうまさは誰もが認めていました。
でも年齢が一番下ですよね。そうなるとコーチや先輩たちから『かわいい弟』と扱われる。兄弟でも末っ子というのは『ちっちゃいからいいや』と許されて、甘えん坊に育つ傾向が強い。僕らは曜一朗のスキルとメンタルの両方を大きく伸ばしたかったのに、結果的にアンバランスさが生まれてしまった。才能があるからこそ、高い要求をするんですけど、うまく気づかせてあげられない。彼にもっと責任感を植えつけられればよかったんでしょうね。自分にも正直、ジレンマはありました」
風巻監督は当時の葛藤を打ち明けた。
こうした考え方の相違によって、試合に出られない状況も少なからず起きる。柿谷はBチームで練習しながら「なんで俺はここにおるんやろ」と違和感を覚え、中学2年~3年生の頃には移籍も真剣に考えた。名古屋グランパスから誘いを受け、実際にグラウンドや寮も見に行ったというが、最終的には「見知らぬ土地でゼロからやるより、慣れたセレッソにいた方がいい」と考え、思いとどまった。
どんな名選手も挫折に直面する。サッカーとはそういうものだ。柿谷も紆余曲折を味わったが、「納得いくプレーをしたい」と原点に立ち返り、欠点を克服するよりいい部分を伸ばすことに徹した。セレッソ大阪でも年代別代表でも得意なドリブルを磨き、シュートの精度を高めることに力を注いだ。どこまでも自分らしさを追求しつづけた結果、彼は16歳でクラブ史上最年少のトップ昇格を勝ち取った。
「たとえ自分よりうまい選手がいても、強がりでも過信でもいいから自分が一番だと思ってやってきた。その自信だけは絶対に失っちゃいけない。僕は今もそう思っています」
ホロ苦かった日々を思い浮かべながら、柿谷は語気を強めた。
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