生と死を強く考えさせられた石川直宏選手の「2011」

2014年03月11日

インタビュー

◆娘の未来

 生活が子ども中心になって久しい。
 娘はいろんなものに興味を示しながら、すくすくと育っている。
 体を動かすことが好きなのは、父親譲りであろう。
 小さな木琴を鳴らして遊ぶ。なんとも愛らしい。
 これは母親譲りだ。
 一緒に試合の録画を見ることがある。
 父がゴールを入れると、両手を広げ、くるくる回って見せる。
 父を真似しているのだという。
〝ゴールはうれしいこと〟というのがわかるらしい。

「娘が記憶できる年齢に達するまでは、なんとか選手としてがんばりたいと思ってます。
 どうしても、生でゴールするところを見せたいです」
 それは2歳だろうか? 3歳だろうか? 
 その時、娘は両手を広げ、家族席の通路でくるくる回るのだろう。
 その時、父も芝の上でくるくる回っているはずである。

 30歳を超えてから、セカンドキャリアについて話をする機会が増えている。先にプロを引退した弟とも、先日話したばかりだという。
 かといって、引退後の準備というのはしていない。現役にこだわることがいちばんだと考えている。
「妻のマリンバは実家に置いてあるんですよ」
 今住んでいるのはマンションなので、音には気を使うらしい。
 マリンバはもちろんのこと、大きなピアノも置くことができない。電子ピアノで、しかも音を小さくして使っているという。
「いずれ、防音の部屋が、妻としては欲しいというか……。
 思い切り弾いたり叩いたりできるような部屋を持ちたいんです。
 それに向けても、僕はもう一息がんばらないといけません(笑)」
 お父さんは、休んでなどいられない。

 お嬢さんに対する夢みたいなものはありますか?と聞いてみた。
「夢……、健康で好きなことにチャレンジして……。
 細かく言うことはないと思うんです。娘の事を、年齢を重ねれば信頼したいと思っているし、自分が選んだことに対して責任を持って、何にでも挑戦してほしいなと。それだけですね。
 僕も両親から、そういうスタンスで育てられましたから。この先、いろいろ言いたいことは出てくると思うんですけれど、そこをぐっと我慢して」
 ――やがてお嬢さんもお年頃になります。
「みんな言うんですよ。自分の前に男なんか連れてきたらぶっ飛ばすとか(笑)。
 僕はそんなのないんですよ。娘が選んで連れて来た男なら、それはもう娘を全面的に信頼して。たとえ、とんでもないのが来ても――」
 そう言いかけて、父は大笑いした。
「『きっとこいつには、どこかしらにいいところがあるんじゃないか?』
 と必死に探しますよ、たぶんですが(笑)」
 ――そう遠くない未来かもしれません。
「まだそういう話を妻とはしていないんですけれど」

 カノンは、音楽用語で「追走曲(ついそうきょく)」を意味する。
 ひとつのパートが奏でた同じメロディを、別のパートが追いかけるように奏でる。
 その幾重にもなる音の追いかけっこが、美しいハーモニーを生み出しつづける。
 カノン(樺音)は、夫婦に幸せを運んでくる。
 いくつもの幸せの追いかけっこが、
 石川家を彩っていく。


プロフィール
石川直宏
(いしかわ・なおひろ)

1981年5月12日神奈川県生まれ。MF。横浜F・マリノスユースを経て、2000年にトッブチームに加入。同年にはU-19日本代表に選出され、アジアユース選手権で準優勝を飾っている。2002年、FC東京へ期限付き移籍後、2003年8月に完全移籍。2004年は、U-23日本代表としてアテネ五輪に出場を果たす。スピードに乗ったドリブルからチームの決定機を演出するサイドアタッカー。チームを躍動させる中心人物としてFC東京に欠かせない存在である。

 


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