鹿島アントラーズ10番・柴崎岳のルーツ。「プラチナ世代」の天才はどのような環境で、どのように成長したのか?
2016年12月19日
コラム誰もが崇拝するリーダー
――チームではキャプテンを務めていたそうですが、どのようなリーダーとして行動していたのでしょう。
黒田 タイプ的にチームを鼓舞しながら引っ張って、まとめ上げるタイプのキャプテンではありませんでした。それよりも自らの行動や頑張りを示すことで、まわりにも「俺に付いて来い」という意志を示していたキャプテンだったと思います。当然、全てにおいてサボらずに一生懸命やるところや、負けず嫌い精神を持ってゲームに取り組んでいるところを見て、彼に対して不信感を持つ選手はいなかったです。「誰もが崇拝する」ような、まわりを動かしてしまうようなキャプテンでした。
――青森山田は当然全国大会に何度も出場していますが、柴崎選手の年代で印象に残っている試合や大会についてはいかがでしょうか。
黒田 一番は、2009年の全国高校サッカー選手権大会での準優勝ですね。この時は3年生キャプテンの椎名伸志と2年生の柴崎がWボランチを組んでいました。椎名は守備力が高く読みの鋭い選手で、柴崎は攻撃的でゲームを組み立てながらゴールを狙いにいける選手でした。技術、バランス、中盤の構成力はとても高かったと思います。この大会では個人として合計2得点(3回戦、準々決勝)を得点をあげました。そして準優勝に大きく貢献してくれたとともに、彼自身全国的に脚光を浴びました。
中学生の時にも全国で2位と3位に輝きましたけれど、中学3年の時にも高校の全日本ユースでレギュラーを掴んでいましたから、高校3年までに4年間、東北大会で優勝し、全日本ユースにレギュラーで出場し続けていたことになります。
――それまでも地元やジュニアの年代では名の知られた選手でしたが、高校サッカー選手権という注目の大会に出場したことで脚光をあびましたし、高校2年で鹿島アントラーズにも内定していましたが、当時を振り返っていただけますか。
黒田 在学中、2年生の10月か11月頃に、オファーを頂いたチームのなかから鹿島アントラーズに決めたいという話が本人からありました。それでまず2月に行われた鹿島アントラーズのフィジカルキャンプに参加していました。彼の持ち味を発揮してアピールできるとすれば、やはりボールを使ったキャンプのほうが間違いないんですが、そこであえて苦手なフィジカルキャンプに参加していました。そこにも本人なりの意図があって、自分が今まで鍛えてきたフィジカルでプロ選手相手にどこまで通用するか確かめたいということでした。宮崎で行われたこのキャンプでは、かなり高いフィジカルの数字を示しましたから。高校2年生でありながらがプロと肩を並べていました。「ボールを扱う技術は高いけれども……」と言われるのが大嫌いで、あえてフィジカルキャンプに挑んでいった。持ち前の負けん気が、とてもよく出ていたキャンプだったと思います。
東北の雄の「教育」という指導のベース
――日本代表選手となった柴崎選手ですが、彼に対する日本代表での期待について黒田監督はどのようにみていますか。
黒田 彼はまだ23歳ですが、将来の日本代表を背負って立つボランチとして期待を掛けられていますし、それだけの責任をハリルホジッチ監督は彼に求めているように思います。彼が中学2年の時に、私は「お前はJリーガーに必ずなれる。ただ自己発見能力、自己改善能力を持って取り組まなければならない。監督やコーチから何もかも細かい事まで指導されながらやっているようでは日の丸をつける事は難しい」と言ったことがありました。そして「自分で足りないものは自分で探して、自分で補っていく努力をする事が日本代表に定着できるし、ワールドカップにも出場できる選手だ」とも言いました。
彼はその言葉の意味をしっかりと胸に秘めて理解もしてくれる選手ですし、日々それを妥協せずに実行できていたことが日本代表に選ばれる選手となった大きな要因であると思います。
――青森山田校サッカー部に在籍する選手たちにとって、彼の存在とはどのようなものでしょうか。
黒田 卒業した神谷(優太=湘南ベルマーレ)は、彼を慕って転校して来た選手でした。それだけ2009年の彼の活躍は、高校サッカー界にとってもすごく衝撃的でした。彼の様なサッカーセンスを青森山田で磨きたいと思って、入部してきた子も多いです。今の山田中学、山田高校にも彼に憧れて入ってきた選手は多いですから。そういう意味での影響はとても大きかったと思います。高校生にとっては憧れの存在、目標の存在です。二言目には「柴崎岳選手を超えたいです、目指したいです」という選手がいる事を考えると、選手の身近な目標と捉えられているのかなと思います。
――最後に、そんな柴崎岳選手にも伝えられていた「青森山田高校」の教えとはどのようなものでしょうか。
黒田 まずは、スポーツで一般的に言われる心技体の心、メンタルを鍛え上げます。そして技術、体力の順番でサッカー選手として、一人の人間として必要なスキルをしっかりと植え付けるために時間を使ってコツコツと指導しています。「教育」がベースにあり、「サッカー」は後から付いてきます。教育を通じたサッカー指導をモットーとしてやっています。就任当初、サッカー部は18名でした。グラウンドは現在のような人工芝ではなく、ボコボコの土のグラウンドで、ラグビー部と共用している状態でした。右も左も分からないまま、全国の強豪校と試合をするために、選手をバスに乗せて全国を走り回っていました。
2015年の全国高校サッカー選手権大会の目標は初優勝でしたが、3位という成績は最低限の結果だったかなと思います。2点差をひっくり返した奇跡的な試合が2回もあった中で、(準決勝で)ロスタイムにまた点を取って勝つようなことがあれば、奇跡が起こり過ぎです。でも、昨年度のインターハイ3位に続き、2年連続のメダルというのは、決して悪い結果ではありません。「おめでとう」と言ってくれる人と、「残念だったな」と言ってくれる人は半々ですが、みる人にとっては面白いゲームができたのかなと思います。メダルを手に入れることは簡単ではないので、そういう意味では埼玉スタジアムで試合ができたということは、良しとしておかなければならない結果です。運、不運もありましたが、それは今さら言っても仕方がないことです。尾を引きずれば、その分チーム作りが遅れるので、振り返らずにまた一からチームを作るつもりでやっていきます。
青森山田高校サッカー部総監督を務める黒田剛氏。
写真:Masakatsu Matsuzaka/Aomori Goal
⇒柴崎岳選手のこれまでの歩みは本人の資質によるところはあれども、柴崎のポテンシャルはどのような環境で育まれ、才能はどのように成長を果たしてきたのでしょうか。鹿島アントラーズの10番を背負い、『鹿島の心臓』という重責を担う存在は『日本の心臓』として、これからどのように飛躍を果たすのでしょうか。新時代の旗手となりうる柴崎岳について、様々な角度から考察していきます。
【商品名】『フットボールサミット 第34回 ~柴崎岳 『鹿島の心臓』は『日本の心臓』になる。~』
A5変型/232ページ
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