あなたのチームに「クラブの哲学」はありますか?【10月・11月特集】
2018年11月09日
コラム上を目指すなら「認知-判断」の部分まで視野を広げないといけない
木之下「そういうことですよね。今回の取材は、本当に点や線や面がいろんなことにつながりました。その色をポゼッションかドリブルかみたいな議論をしているから生産性がない話を永遠に続けるんですよね」
倉本「ラーメン屋なのに、うちは麺にこだわりがあるから麺しか作らない。ラーメンは出せませんと言っているようなものです。それに熱狂している指導者がたくさんいる限りは変わりません。それを貫いてもいいけど、子どもたちには『うちはサッカークラブではないよ』と伝えましょうということです。私はそういう誤認している指導者を変えるのはなかなか難しい作業だと感じているので、サッカーに真摯に向き合う指導者を増やし、『麺しか出さないクラブがおかしいよね』という状況を作った方が早いかなと思っています」
木之下「その通りですよね」
倉本「でも、ドリブルとかポゼッションとかは見た目にわかりやすいから、現状そういうクラブに選手が流れてしまいます。うまくなったかどうかってドリブルやパスはわかりやすいですから。でも、ポジショニングのことはわかりません」
中澤「スペインは町クラブの色がはっきりしているんですか?」
倉本「そうではないと生き残れません」
木之下「自然に時間と共にそうなっていったというのはあると思います」
倉本「その色が強くて明確なのが上位のクラブであり、自然にそうなっていった歴史的背景があります。そして、上位クラブに常に安定的に選手を輩出するクラブ、ライバルがその下にあり、そのクラブに選手を送り込むクラブがまた下に存在します。
だから、スペインではルーキーズみたいな成功の美談は起こりえません。例えば、5部のチームで圧倒的に強くても、翌シーズンにはほとんどの選手が強いチームに引き抜かれるからその強かったチームは存在できないようになっています。クラブの規模として、すでに立ち位置が決まっていますから。
そういうクラブの指導者は才能ある選手は抱えきれないからと、上のクラブを勧めます。それは選手も同じです。自分の立ち位置を理解しているから『オレは3部で楽しむし、がんばるわ』と、いろんなことを把握、理解した上でサッカーと関わっています。
日本だと、全国高校サッカー選手権大会の一回戦で負けるチームの選手でもプロを目指すと言いますが、スペインではありえません。2部の強豪チームの選手ですら、そんなことは口にしません。なぜなら『隣のクラブはあの選手、マジすごいから』と自分よりも上のレベルのプレーを死ぬほど目の前で見ていますから。そもそも同じ年齢ですごい選手はどんどん上に引き抜かれていく現実を目の当たりにしています。
日本のユースでいうプレミアリーグが、スペインには州によって7つあります。各リーグの1位だけが出場できる大会があって、私も見に行ったことがあります。当時はエスパニョールが強くて、スタッフや選手を知っていたから話をしていると、ある選手がこう言っていました。
『優勝してもプロになれるかどうかわからない。そもそもこの場にいない〇〇選手はすでにトップで練習していて、今日の大会も来ていない。〇〇選手は本当にすごい』。そういう選手に勝たないと、プロになれないことを彼らは知っています。『がんばってプロになれたらいいけど、でも大学にいくわ』と語っていました。
こういうことを聞いていると、日本で主に行われているトーナメントの弊害が見えてきます。リーグ戦を開けば、そこでのチャンピオンはどうあがいてもチャンピオンだし、変えられない事実としてヒエラルキーが存在するんです。ラッキーでチャンピオンになれません」
木之下「日本ではトーナメントがすでに仕組みとして成り立っていますし、各全国大会をメディアが大きく取り上げていますから」
倉本「トーナメントを利用し、スポーツを美談として取り上げるのは構いません。でも、どの視点で話をするかだと思います。目指すべきところが『Jリーガーで、そこそこの選手であればいいんですか?』、それとも『チャンピオンズリーグで活躍する選手で考えますか?』ということです。プロと言っても、J3で給料が3万でもいいならがんばればなれるだろうし、東南アジアでだってそういうプロになれるかもしれません。
私の夢は『チャンピオンズリーグに出場する選手を常時50名出すこと』です。そうなったら『日本はサッカー大国だ』と言われるようになります。そうしたらワールドカップで常にベスト4、8に進めるはずです。でも、それが一人ではできないから、その思いに賛同する指導者を1000人育成しないといけないなと感じました。一年に100人の指導者を育成しても10年はかかります。だから、今からやらないといけないなと、指導者の指導者を始めました。
チャンピオンズリーグに出場した選手が、もしみんなで何かしらの形で関わった近所の知っているあの子だったらその話で楽しくお酒を飲めるし、みんながハッピーになります。その選手を見た子どもが『オレもああなりたい。がんばろう』となれば、いいサイクルが生まれます。
日本は世界のトップ10に入りたいわけですよね?だったら、指導者がその視点にそろえて取り組みましょう、と。世界ランキング50位くらいで、何でもいいからプロになることが目的なら現状でもいいと思います」
木之下「現状はそういう目線の高さで育成しているからランキングもチャンピオンズリーグに出場している選手数も、世界からの見方もここにとどまっているわけですね。そこと、技術止まりの指導は完全にリンクしています。上を目指すなら、目に見えない『認知-判断』をあげるトレーニングを当たり前に行うことは絶対条件です」
倉本「最近の子どもたちの目標って何ですか?ヨーロッパでプレーしたいとか、チャンピオンズリーグでプレーしたいとか発言している選手が圧倒的に増えました。それなのに、多くの指導者たちはJリーガーを目指せとか、プロを目指せとか言っています。だから、技術の方にしか目が向かないし、『認知-判断』というところにまで視野を広げられず、ポジショニングの重要性を伝えられない。
サッカーの指導がそこまでにとどまっているのだと思います。子どもたちは、その先の未来を見ているのに、指導者はそこに目線を合わせられていません。遠い世界の話なんです。目線を合わせるだけで伝える言葉や内容は変わってくるはずです。
簡単にはそうなれないのはわかっていますが、少なくとも私たち指導者の役割は子どもたちの夢や目標をサポートすることだからその世界を知っておかなければならないと思います。今一度『認知-判断』の部分、トレーニングデザインと向き合う機会を作って欲しいと願っています」
<関連リンク>
・【10月・11月特集】「トレーニングをデザインする」
<プロフィール>
倉本和昌(くらもと かずよし)
高校卒業後、プロサッカーコーチになるためにバルセロナに単身留学。5年間、幅広い育成年代のカテゴリーを指導した後、スペイン北部のビルバオへ移住。アスレティック・ビルバオの育成方法を研究しながら町クラブを指導し、2009年にスペイン上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後、大宮アルディージャと湘南ベルマーレのアカデミーコーチを計8年務めた。現在はスペインと日本での経験を活かし「指導者の指導者」として優秀なコーチを育成するサポートをしている。
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