目に見える結果だけを求めても「本当に勝ちたいとき」に勝てる選手は育たない【サッカー外から学ぶ】
2018年12月27日
コラム
【幼児園「First Classroom」の橋井健司園長】
本当に勝利が必要なときに勝てる人材を育てるためには?
世界中の教育論を徹底的に調べ、その理論に盲従することなく子どもたちを観察し続けている橋井さんの指摘はこうだ。
人間は本来他者より優れた結果を得たいという気持ちを本能的に持っている。6歳までの幼児教育、12歳までの段階でその本能だけに訴えかけるようなやり方はむしろ逆効果。あえて勝利を目的にしない方が12歳以降、本当に勝利が必要になった段階で「勝てる人間」が育つ。
「説明会や講演でよくお話していることですが、『いつ勝ちたいのか?』ですよね。サッカーでも社会でも同じですが、12歳までの結果ではなく、18歳、20歳、もっと大人になったときどんなふうになって欲しいのか? そのときの姿をイメージして12歳までに何をしたらいいか? どう伸ばしてあげるか? にもっと力を注ぐべきだと思います」
海外でもサッカーの育成プログラムが確立されている国では、12歳と18歳のカテゴリでは明らかに目指すものが違う。自我の芽生えや発達など、成長段階に合わせて、個々の成長とチームの勝利がうまく合わさり、18歳以降に結実するようなシステムが構築されている。
では、勝てなくてもいいのか? 指導者の立場からすれば、「育成」を言い訳にして勝てないチームをつくるわけにはいかない。個々の成長を追求した先に勝利がないならその成長度合いをどう測れば良いのかという不安もある。
コンペティティブな大会で優勝するチームは「あそこは勝利至上主義だから」と他チームから揶揄され、優勝したチームは「1回戦負けのチームに個の成長とか言われてもね」と歯牙にもかけない。ジュニアサッカーの現場では、こうした“断絶”がずっと続いている。
「勝利や競争を否定しているわけではありません。私の園では一般的な“運動会”ではなくフェット・デュ・スポール(フランス語でスポーツの祝祭、親子スポーツ・ピクニック会)というのを開催しています。『集団行動、協調性を身につけるために運動会は必要では?』とか『競争心が育たないのでは?』という心配の声もあるかもしれませんが、私が調べた限り、日本のような形態の運動会という行事は世界中どこにもありません。もし、運動会が競争心を育むとしたら、日本は今頃世界一の競争心の強い国になっているはずです」
Aを控えろというとAを悪と決めつけ、Bだけが正義だと思い込むのは一方に流されやすい日本人の悪いクセかもしれないが、勝利を追求すること自体や、競争が悪なわけではない。サッカーというゲームの目的はあくまでゴールであり、勝利。それを目指さなければ成長も育成もない。問題なのは“歪んだ”勝利至上主義であり、短期的な結果至上主義だ。子どもたちが本能として持ち合わせているものにこの段階であえてフォーカスしなくてもいい。勝利よりもチャレンジすることを学ぶチャンスを優先させようという至極真っ当な話が、なぜか二元論にすり替わってしまっている。
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