競技人口が少ない。チームの消滅。女子サッカー界の現実から見えた課題【1月特集】
2019年01月30日
育成/環境育成に土地の気質は欠かせない。長野県は?
――ここは育成においても非常に重要なところですが、「人としての気質」の部分です。何事も地域に根付く活動・育成を行うには、そこは欠かせない要素かと思います。小林さんの口から言いにくいこともあるでしょうが、長野県民の気質はどんなものなのでしょうか?
小林氏「うーん、なかなか厳しい質問ですね。県内に敵を増やすかもしれません(苦笑)。男女関係なく、なんとなく横並びになりたがる部分はあるかもしれません。自己顕示欲が強くないので、多数派が横並びになりながら自己主張の強い人に依存してしまう傾向もあるように思います。それはジュニアの現場でもあって、プレーでもうまい子に任せてしまったり、うまい子も仲間からボールを引き出し過ぎたりする傾向はあります。あと、ブランド志向への憧れは強いかもしれません」
――答えにくい質問にありがとうございます。例えば、ブランド志向が高いのだとすると、昨今育成年代でうたわれているような技術や戦術などが含まれる包括的なトレーニングが行われているのですか?
小林氏「例えば、ナショナルトレセンなどの学びを伝達する講習会はきちんと開かれています。だから、そういうことを現場に落とし込んで実践する傾向はあると思います。ただ、各指導者が細かく実践できているかはわかりません。全国どこも同じことをやっているわけで、サッカーに限らず、長野県がスポーツ、特に屋外球技で成績を残しているのかと聞かれると難しいところです。
長野県民は真面目だし、愚直に物事を進められるところがいい部分です。
だから、そのいい部分をサッカーのどういうところで表現するかは大事なところでもあります。しかし一方で、サッカーというスポーツは駆け引き、騙し合いも必要です。ポゼッションと言っても、ボールを動かしているだけは崩せないし、どこかで相手との駆け引きが不可欠です。
私は遊び心を育んだり引き出したりしてあげることも大切だと思っていますが、実際にサッカーの試合を見ていると『信州人の真面目さ』が出過ぎてしまっている様に感じます。次のステップに進むためには、それに気づかないといけないのではないかと感じています。
長野はいい意味でも悪い意味でも昔から言われている様に『教育県』なんですよね」
――教育県なんですね。
小林氏「そうなんです。だから、先生や指導者、保護者といった大人のいうことの影響力が子どもの価値観を養う上でも強いと思います。でも、そこが仇になっている部分もあります」
――どういうことですか?
小林氏「例えば、指導者が『止める蹴る』がまだできていないと判断すると、そればかりに執着する傾向があります。そもそもサッカーは競り合い、また動きの中での『止める蹴る』が大事なはずなのに、対面パスなどのクローズド・トレーニングばかりをしてしまいます。
サッカーの流行りもそうです。
川崎フロンターレが二連覇して『パスサッカーがいい』というふうになると『パス、パス、パス』になってしまいます。でも、目をつけるところはそういう表面的なキレイさ、鮮やかさのところだけでなく、ボールを奪われた直後に始まるチェイシングだったり激しいまでのボールへの執着心だったりするのに、その部分の前提条件というか、サッカーの表と裏の繰り返しの部分が抜けてしまっているんです。
だから、選手たちは出会う指導者でかなり価値観が変わりますし、差があると思います」
――でも、教育県だという背景があるのなら指導者も真面目に学ぶわけですよね。だったら、知らないだけです。カギを握るのは大人の学び。
小林氏「確かに教育県なので、上の者が下の者に言って聞かせる風土があります。『これはな、これこれこういうことだからこういうものなんだぞ』みたいなことから物事の理解がスタートするような傾向にあります。私もそういうところはありますし、多くの指導者たちにもそういうところは見られます。それは家庭環境も同じです。だから、子どもたちも指示待ちしていることが多々見られます。サッカー選手としては、自分で判断せずに指示待ちなのはかなり大きな欠点なんですけどね。
でも生真面目だから、みんな日本サッカー協会の指導要綱はきっちり学んでいますし、その内容を提供していると思います。そこに信州の気質を踏まえた自分なりの考えを肉付けしていけばいい指導はやっていけるはずです。子どもにも、大人にも少しだけ欠けている自己顕示欲や競争心といった外への意識をもっと持つべきかなと感じています。もちろん、それは私自身にも言えることです」
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