U-11年代の大会で見えた“不必要な緊張感”から解放されたプレー。子どもたちにとって適切な成長とは何か?
2019年09月11日
育成/環境今夏も6〜9月にかけて様々なカテゴリーで、いろんな形式の大会が行われた。そこで、今月の特集は「ジュニアサッカー取材備忘録」と題し、それぞれの大会で気づいたことを書き綴りたい。テーマを一つに絞り込むと、他に存在するジュニア年代で大切なことを伝えられない場合もあるので、今月はコラム形式で多様な記事を配信させていただきたいと思う。
【取材大会】
6月 2019コパ・ベルマーレU-11
8月 JFAバーモントカップ
(第29回全日本U-12フットサル選手権大会)
8〜9月 U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2019
コラム第二弾は、6月に神奈川県平塚市で開催された「2019コパ・ベルマーレU-11」に出場していたポルトガルの名門スポルティングCPについて書きたい。彼らが育成で大事にしている「アイディアを出すこと」の重要性について触れていく。
取材・文●木之下潤 写真●ジュニサカ編集部
子どもにとっての適切な成長に目を向けてほしい
U-12年代への移行期だからか、「2019コパ・ベルマーレU-11」に出場した選手たちはのびのびとプレーしていた。
必要以上に勝利にとらわれない彼らのプレーは、見ているほうも清々しい。U-12年代の全国大会や国際大会を中心に取材している身としては、正直うらやましくもある。なぜならジュニア年代で不必要に緊張感にさらされる大会は、選手が勝ちにこだわりすぎるあまり失敗を恐れた判断に終始し、覇気も意図も感じられないプレーが多々見受けられるからだ。時に動きが硬く、時に決断に迷いがある。そして、時にプレー後、ベンチを気にする姿も垣間見られる。
失敗からの学びは思い切ったプレーに挑戦したり、いつも通りのプレーを選択したりした時にこそ得られるもの。初めから失敗しないように安牌ばかり選ぶサッカーをしていたら成長なんて期待できない。この大会は優勝してもそれきりだからプレーすること自体を楽しそうに、感情を表に出している選手たちが多い。それは監督やコーチも勝ちだけにこだわらず、「失敗しても仕方ないか」と余裕を持って選手たちを見守っているからではないだろうか。
そういう意味で、湘南ベルマーレが地域クラブのために主催するこの国際大会は非常に価値が大きい。この大会については、以前、同クラブのアカデミーダイレクターを務める浮嶋敏氏にインタビューをしたので参考にしてもらえたらと思う。
U-12年代の大会では全国大会の切符がかかっていたりしていて、結果として主催者側が大人目線の価値を作り上げている。例えば、目の前の試合に不必要な勝ち負けの価値を上乗せしていることだ。その彩り豊かで華やかなトッピングには、子どもにとって害があることを認識しなければならない。
その弊害の一つに、子どもにとっての適切な成長が挙げられる。
ジュニア年代の選手にとって大切なのは、目の前の試合を通じて「チームとしてどう戦うか」「自分はどんなプレーをしたらいいか」を子どもたちなりに主体的に体感していくことだ。あくまで主役は子どもたちで、彼ら彼女らが生き生きとプレーするために監督やコーチは知恵をしぼらなければならない。忘れてはいけないのは、選手たちは成長過程にあるということ。特に日本の子どもたちはまだサッカーの大まかなプレーメカニズム(構造)すらも理解していない。だから、指導者が試合で指摘する修正点やアドバイスに対して即座に表現できるわけもない。
何年も全国大会を取材し続けているが、こういう光景をいまだに目にする。
全国大会とはいえ、いろんなチームが集まる。これはグループリーグでよく見かけるシーンだが、全国大会でも実力差は存在する。だから、5点差が生まれる試合も少なくない。そういう試合で負けたチームのハーフタイムや試合後の様子を観察していると、子どもたちがただうつむいているだけのシーンが散見される。もはや監督やコーチの言葉は耳に届いていない。試合内容を見た上での想像だが、指導者からの言葉に子どもたちは「初耳だけど…」、あるいは「数回くらいしか聞いたことがない」というような反応を示している。
きっと自分たちより実力が上のチームに対して、監督やコーチが「何とかしたい」と手をほどこそうした結果発した言葉なのだろうが、その内容は選手にとって「今すぐはプレーできない」ことを要求されているにすぎない。また、いまだに根性論や精神論で解決しようとする指導者も数多くいる。子どもたちにとっては「どうすることもできない」し、「何をしてもいいかがわからない」から、ただうつむくしかない。もちろん指導者だけの責任ではないが、でも目の前の選手たちにとって適切な手のほどこし方でなかったことは確かだ。
そういう点でも、湘南ベルマーレが主催する「コパ・ベルマーレ」は、指導者と選手の両方がU-12年代への準備を共に歩む大会として大きな意義がある。さらに海外の名門クラブも参加するこの大会は、日本では絶対に見られないサッカー先進国の指導者と選手が一緒になってチームを作っていく育成の一端をのぞき見るができる。
今年の大会では、特にポルトガルの「スポルティングCP」がすばらしかった。そこで、監督と通訳の取材をもとに、彼らが「何を大切に育成しているのか」を取材した範疇の中で紹介したい。
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