海を渡った日本人指導者たち。豪州から見る“日本サッカーの輪郭”

2017年04月18日

コラム

日本とオーストラリアの違い

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――オーストラリアでは、ジュニア年代の選手育成はどのように行っているのですか。

 オーストラリアにはプロサッカーリーグ「Aリーグ(A-League)」がありますが、Aリーグのクラブは育成組織としてU-18未満のカテゴリーチームを所有していません。選手の育成について、特にグラスルーツを指導する役割はローカルクラブが担っています。つまり、それが2部リーグ以下の地域クラブになります。大体のクラブはU-6のカテゴリーから持っています。U-8までは練習も週に1回がほとんどです。オーストラリアに古くから根付くボランティア精神とローカルクラブを支えようという気概のあるお父さんコーチが毎週土曜日の朝に彼らのリーグ戦をサポートしてくれます。それは、オーストラリアのどこのサッカークラブでもよく見られる光景だと思います。

 それからオーストラリアでは補欠制度がありません。サムフォードのU-12は、4つのチームで構成されていますが、各チームの登録選手は14人前後です。そうすると試合の時にサブのメンバーは3人程度になりますから、全員を出場させることができます。つまり一人ひとりが主役になれるチャンスがあります。競争を避けて通れない日本のスポーツ環境で育った私にとって最初は衝撃的でしたが、このやり方はある意味で理にかなっている部分もあると思っています。

――三上さんが、オーストラリアでジュニア年代の子どもたちにサッカーを教えることで意識していることはありますか?

 日本では8歳から12歳のゴールデンエイジを大切にしていますが、オーストラリア全体を見渡すとゴールデンエイジはそこまで重要視されていません。大体U-15になってから選手育成に力を入れ始めます。各クラブを見ても、選手の年齢が上がるごとに、そこそこ経験のあるコーチの配置が増える傾向にあり疑問と懸念を感じます。

 ただ、2013年からNPL(ナショナル・プレミアリーグ)という州リーグ(豪2部相当)がFFA(オーストラリアサッカー協会)によって全州で開始され、徐々に選手育成のフォーカスも若年層に向いて来ました。これは非常に良い傾向だと思います。とはいえ、育成年代における指導環境の充実度や協会からのサポートというのは、一部のクラブを除いて、まだまだ十分とは言えないでしょう。

 私がテクニカルディレクターを務めるサムフォード・レンジャーズFCでは、ジュニア年代の育成に力を入れていて、この年代の子どもたちに時間をかけて大事に育てていきたいと考えています。サムフォードでは、「止める・蹴る」からしっかりと教えていますが、コーディネーション能力は、日本の同世代の子どもと比べると、だいぶ劣ると感じます。これはオーストラリアの体育の授業に起因する部分もあります。オーストラリアでは「スポーツはクラブチームで教わるもの」とされているので、学校スポーツや部活動はカジュアルに捉われています。ですから、普段のトレーニングでストレッチやランニングのいろはから教えてあげる事もしばしばあります。

――子どもたちの教育についても日本とは違った文化がありそうですね。

 オーストラリアでは子どもたちを叱責してはいけないという文化があるので、子どもたちの気持ちのバランスを取りながら指導しています。オーストラリアの人たちは会話の中からポジティブな部分を大切に受け止める傾向が強いので、たとえ叱っても叱りっぱなしではなく、叱った後は褒めるようにしています。どうして、今そのような話をしたのか説明する事も多いですね。

 日本では、指導者や教師に言われた事は、理由に関係なく受け入れるところがありますが、オーストラリアは逆で、みんな子どもの頃から独立したパーソナリティを持っています。「注意されるには理由があるんだよ」というニュアンスで子ども達に歩み寄ってあげる必要があります。一旦立場をフラットにしてあげる事で、子どもたちからの理解を得られる事は非常に多いです。教える内容は日本と何も変わらないにしても、国によってアプローチの仕方を変えないと伝わりません。それはどこの国に行っても同じかと私は思っています。

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――それでは最後に、今回「COPA PUMA TOREROS 2017 PRIMAVERA」に参加してみて、感じたことがあれば教えてください。

日本の選手は、ジュニア年代で既にどのポジションもこなせますよね。ディフェンスの子もシュートを打てるし、フォワードの子もディフェンスができる。それは、日本では小さい頃から平均値を上げる練習をしているからでしょうね。それゆえオールラウンドな選手が育つ土壌があります。

 一方、オーストラリアでは、ポジションごとに特化した指導をするところがあります。サッカーだけではなくてラグビーでも同じ考えです。出来ない事にあまり時間は使わず、自分たちのストロングポイントを伸ばすのがオーストラリアのスポーツ指導の特徴と言えるでしょう。例えば、選手の能力を「シュート、パス、ドリブル、トラップ、タックル」に分けて、各々を星5つで評価した場合に、日本のようにオール4を目指すのではなくて、得意なシュートやタックルは5や6、さらには10まで狙います。得意な武器でスーパーなものを目指そうとするわけです。得意なものがあれば、ほかは2でも良いという考えです。

 ひと昔前のオーストラリア代表のサッカーは分かりやすかったと思います。技術的には決して高くありませんが、フィジカルと闘争心を全面に出して戦い、最後はティム・ケーヒルやマーク・ヴィドゥカ、ジョシュア・ケネディといったハイボールに強い選手たちがロングボールに反応してゴールを決める。選手の得意分野で勝ちにくるわけです。まさにオーストラリアの国民性を反映させるスタイルでした。

 今回、この大会でも日豪両国の子どもたちを見ていて、そのような国民性・双方の文化的な背景を端々に感じることができました。

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<関連リンク>
COPA PUMA TOREROS 2017 Primavera
海外クラブが優位だったものと日本のクラブが通用したもの。欧州と南米の名門チームも参加した『COPA PUMA TOREROS 2017 PRIMAVERA U-12』を振り返る
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