改めて考えたい「8人制サッカー」の意味。少人数制で“判断力”が養われる理由【8月特集】

2018年08月08日

育成/環境

なぜ11人制から8人制に切り替えたのか。それと7月・8月に特集した「認知」(サッカーにおける「視る」とは何か)は深く関わっている。なぜならジュニアの間は観る情報量が多いと混乱が生じ、判断の部分で質の高いトライ&エラーを繰り返すことができないからだ。つまり、判断の伴ったサッカーを学ぶにはプレー人数をコントロールすることは欠かせない。だとすると、まずは「少人数」から始めて「認知の難易度をコントロールする」ことが判断を鍛えるには重要なポイントだ。そこで、8月の特集テーマは「少人数から段階的にサッカーを学ぶ」としたい。

文●木之下潤 写真●佐藤博之、村井詩都


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8人制サッカーに切り替わった主旨とメリットを整理する

 2011年以降、11人制から8人制サッカーに切り替わった。その当時JFAが発行した「8人制趣旨開催ハンドブック」(発行=2011年2月)には、次のような理由が記載されている。

「サッカー選手としての技術向上のためには、ボールタッチの回数を増やすことは不可欠です。8人制のゲームでは、ボールに関わる回数が増えることで判断の回数も増えます。

 また11人制よりも観るものが減ることで、判断が明確になります。

 ピッチサイズもこの年代の体力に適しており、無理なく蹴れる距離を見渡して、よりボールを大事にプレーすることができます。そして数多くの成功と失敗を繰り返すことでサッカー理解を深めていくことができるのです。8人制では守備のポジションの選手が攻撃参加してシュートチャンスに自らが関わることもできます。攻撃のポジションの選手もゴール前まで戻って守備をする状況もあります。

 サッカーの全体像を理解していく上で、どのポジションでも常に攻守に関わり続けることができるゲーム環境となります。日本の課題である得点力向上、守備力向上のためにも、ゴール前の場面を多く創出できる8人制のゲームは適していると言えます。シュートチャンスが増えることで、同時にペナルティエリア付近での守備力向上にもつながっていきます」

 さらに、8人制のメリットとして「選手へアプローチできること」を以下のようにうたっている。

1.ボールタッチ回数が多い
  →技術向上
2.プレー回数が増える
  →判断の回数が増える
3.11人制よりも「観る」ものが減る
  →判断が明確になる
4.どのポジションでも攻守に関わり続けられる
  →サッカーの全体像の理解、関わることの習慣づけ
5.ゴール前の攻防が増える
  →日本の課題である得点力向上・守備力向上

 そして、今特集テーマとも兼ね合うが、ゴールキーパーに対しても次のように述べられている。

「現代サッカーにおいてはゴールキーパーの役割がますます重要になってきており、フィールドプレーヤーと同様のサッカーの技術も兼ね備え、プレー全体に積極的に関わることのできる選手の育成が必要になってきています。そのため、ぜひ多くの選手にポジティブにトライして欲しいと考えています。また、その一環で、必ずしも専門ということでなくとも、フィールドプレーヤー、ゴールキーパーそれぞれが両方の経験をしておくことは、発掘の意味でも、サッカー理解を深める意味でも有用であると考えています。ゴールを決める選手が喜びを体験するように、シュートを止める喜び、ゴールキーパーとしてプレーする喜びを体験させましょう。そのため、試合に際してフィールドプレーヤーとゴールキーパーが頻繁に交代できるようにユニホームに関しては、ビブス等を活用して柔軟な対応をお願いします」

C級の講習は8人制のメリットを指導に落とし込む術を学ぶ場であるべき

 8人制サッカーに切り替わって7年ほどが経過したが、「JFA TECHNICAL NEWS 2017年12月号」に書かれてあるデータの一部に目を向けると、当初の目的は達成されているとは言い難い。個人的に、その原因は大きく3つあると考えている。

 一つ目は、JFAが具体的な指導への落とし込み方を明確にメソッド化せず、各指導者に任せ過ぎていること。

 二つ目は、メディアが具体的な指導への落とし込み方をJFAにぶつけず、あるいは世界で行われている指導への落とし込みを取材せずに情報発信できていないこと。これは明らかにメディアに携わる者の勉強不足ということに尽きる。サッカーがどんどん進化している以上、私たちはITを活用して様々な情報を収集し自分のサッカー観をアップデートし続け、様々な側面から日本サッカーがいい方向に進めるように言葉や写真、映像の力を使って尽力しなければならないが、そこができていない。

 そして、誤解を恐れずに言うが、三つ目は育成指導者が自分のサッカー観やスポーツ経験に頼りすぎたトレーニング内容で選手を指導し、そこに何の疑問も持っていないことだ。もちろん、すべての育成指導者を指しているわけではないし、向上心を持って学び続けている指導者も一部いる。しかし、例えば毎回のトレーニングを事前に紙に書いて用意しているだろうか。毎回同じトレーニングメニューを繰り返していないだろうか。サッカーの価値観を広げるためにクラブ内の、またクラブ外の指導者とコミュニケーションをとっているだろうか。

 今月の特集テーマは「少人数から段階的にサッカーを学ぶ」であるため、これ以上、特に後者2つの問題点について触れることはしないが、責任はサッカーに関わるすべての者にあるし、問題の解決はすべての者が当事者意識を持って自分たちの関わっている分野でできることをやるしかない。だから、私自身への自戒の念を込めて、あえて書き記させていただいた。

 話を特集テーマに戻すと、8人制のメリットとして記されている「選手へアプローチできること」はいい内容だ。

 しかし実際には、それらを実現するためにどう指導すべきかが重要だ。では、何が問題なのかと掘り下げてみると、一つの問題点が浮かび上がってくる。それは指導者養成におけるライセンス取得講習会の中身だ。これは予測だが、おそらくジュニア指導者が取得しているライセンスはD級やC級が多くを占めるだろう。

 先日、JFAユース育成ダイレクターの池内豊氏を取材した際、「今、各都道府県協会の方でライセンスレベルごとの資格保有者数を調査している」と耳にしたので、近いうちに結果が発表されることになるだろう。ただお父さんコーチに頼っているジュニアの現場では、取得に時間がかかるB級以上のライセンスを取得するのは現実的に難しく、それはメインとなっている指導者も変わらない。

 だとすれば、D級が初心者向けだから、少なくともC級ライセンスの講習内容については8人制のメリットとして記されている「選手へアプローチできること」を実践できる、もしくはその理由が理解できる内容でなければならない。池内氏はワールドカップごとにライセンスの内容は変えていると言っていたが、ジュニアはサッカーの全体像を理解した上で選手へアプローチできる内容であることが道理だ。それを基本としてB級、A級、S級へと段階を追うようにライセンス内容が構成され、作り上げていなければリンクしていかない。

 この問題については、また別の機会に取材の場を設けてJFAにぶつけたい。

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「認知→判断」を伴うトレーニングは少人数制のゲームから始めよう

 さて本題だが、そもそも8人制サッカーに切り替えた理由の一つに判断を明確にするために選手を減らしたという事実は間違いない。

3.11人制よりも「観る」ものが減る
  →判断が明確になる

 6・7月の「認知」特集(サッカーにおける「視る」とは何か)を実施して明らかになったことの一つは、そもそも認知が知られていないことだ。そして、「認知→判断→実行」を知っている指導者も多く存在しているが、サッカーをプレーさせながら「認知→判断」を養うトレーニングを構築できないのではないかとの疑問を私自身は感じている。

 前回のコラム(「個人戦術」と「グループ戦術」を学ぶ意義。認知力向上のために指導者ができること)で、スペインで活躍する指導者・坪井健太郎氏が認知を「ボールを受ける前→持っている最中→パスをした後」と時系列で整理し、日本の指導者はもっと「ボールを受ける前」に目を向けるべきだと指摘したが、それを身につけていくのも認知する情報量が少ないものから多いものへと難易度を上げていくのが道理だ。最初から8人制サッカーだからと8人は認知できない。

 ただジュニアの育成現場では、小学校低学年なのに8人制サッカーの大会が行われているのを見かける。6年生の8人と小学校低学年の8人とは違う。スペインやドイツでは認知する情報量、つまり判断の難易度を年齢に合わせて細分化し、小学校中学年では7人制、小学校低学年では5人制が行なわれている。それはサッカーというトレーニングの側面からも、子どもの発育という学術的な側面からも非常に理に適ったことだ。

 そもそも年齢が低い小さい子、もしくはサッカーを始めたばかりの子は足下の技術がおぼつかないからまわりの情報をたくさん「観る」ことは難しい。だから、最初は「2対1」「2対2」という少人数制のゲームからスタートすべきだ。攻撃はドリブルとパスという2つの選択肢を持ちながらその状況でどうプレーすべきかを決断する。守備は1人だからどう1対1の状況に持ち込み、ボールを奪うかを覚え、次に2人でどう2対1の状況を作ってボールを奪うかを身につける。

 私個人の“今”の考えでは、攻撃側の1対1は個人技術だ。それはドリブル突破しか選択肢ながないからだ。攻撃時の個人戦術はドリブルとパスという2つの最小選択肢がある中でどうプレーするかという状況があるから学べるものだ。だから、攻撃時の個人戦術を習得する人数設定は2人というユニットが最低限必要だと感じている。守備は相手2人の選択肢を1つ減らして1対1の状況を作って守るため、1人でも十分に戦術と呼べるものだと考えている。

 だから、上記で判断を伴うトレーニングの最小単位「2対1」に設定した。

 いずれにしろ重要なのは「認知→判断」を伴ったトレーニングを行う中で技術を磨くことが大事なので、少人数制のゲーム形式がサッカーに出会い学ぶ上で子どもたちに対していいアプローチだろう。

 そこで、次回はフットサルクラブながらジュニアではサッカーも行っている「フウガドールすみだ」の強化部長兼トップ監督の須賀雄大氏のインタビューをお届けしたい。

【特集】考える力はまず少人数制で鍛える


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