「何を?」「どのように?」「どこで?」「いつ?」プレーするのかが戦術だ【10月・11月特集】
2018年11月02日
未分類サッカーは頭に始まり、足で終わる
倉本「フェルナンド・トーレス選手のリフティングを見たことがありますか?お世辞にもうまいとは言えませんが、それでもすごいスピードでパスが来ても足下にピタッと止められます。だから、サッカーをプレーする上では何の問題もありません。『プレーをする上で何が大事なのか?』って、判断の質とそのスピードと判断から実行までのスピードです。この3つは人種、性別、年代は関係なく重要なことですよね。つまり、サッカーにおける普遍的な共通点です」
木之下「私も現場では『技術は教えられない』とはっきり伝えています。それは一人ひとりの選手がボールに触れて自分に向き合わないとその質は上がっていかないからです。ただ、技術の使い方やプレーに対する考え方は教えると選手にも保護者にも言っています」
倉本「技術を極めていくのはいいことだと思います。でも、それだけを重要視しているクラブから毎年のように海外で通用する選手や日本代表の選手を輩出できていますか?安定的にそれができているならいいですが、これまではどんなクラブでも一人二人を輩出しているに過ぎません。ということは、それを重要視するだけの指導ではダメだということではないでしょうか。
私がアスレティック・ビルバオでお世話になったランデルというコーチは『サッカーは頭に始まり、足で終わる』と言っていました。サッカーとは、そういうスポーツです。日本とスペインをはじめとするヨーロッパでは、サッカーに対する解釈が根本から違うのです。これはメディアの責任でもあると、私は思います」
木之下「おっしゃる通りです。メディアも『サッカーとは何か』という根本的な解釈から変えていくことが必要です」
倉本「そこが変われば、急激にいい方向に変化する可能性もあります」
木之下「確かに。『サッカーとは?』という概念的なものが変わると、日本サッカーもいい方向に進化する可能性はあります。結局、サッカーのベーシックな部分はどの国においても大切にされ、共通の部分として変わらないものですから」
倉本「ピッチのサイズが、いきなり2倍になることはありません。もしかしたら今後試合時間が倍の90分ハーフになったら日本に勝つ可能性はありますが、そこは変わらないでしょう。
例えばサッカーは3分で相手を仕留めることが求められているのに、日本は3時間殴られることを耐えるためのトレーニングをしているから勝てるわけがありません。そもそも捉えているスポーツが違います。ジュニアではトレーニングの量が多い、試合が多いけど、それでOK!でも、ジュニアユースに上がるとダメになってしまう選手も大勢います。指導者も保護者もどうしてそういう部分を見ないのでしょうか?
ジュニアの指導者はそこまで目を向けていません。ジュニアユースに上がった選手も活躍は見ているけど、ダメになった選手に対して『なぜそうなったのか』は見ていません。それだと変えられないですよね。8人制サッカーを勝つための戦術を叩き込まれ、11人制サッカーになると活躍できないなんて本末転倒です。あれはサッカーではなく、特殊な戦術のもと試合が行われています」
木之下「実際に、体が大きくなる、どのタイミングで11人制に移行するというのがヨーロッパ各国で自然にできてきた流れがあったのでしょうか?」
倉本「歴史の中で失敗を繰り返しながら改善されてきたんです。私がバルセロナにいた頃は、8・9歳でも7人制と11人制が両方行われていました。エウロパというチームでは9歳の監督を務めて11人制を戦いましたが、翌年は7人制になりました。翌々年は10・11歳でも7人制だったと思います。そのように育成年代もどんどん進化します。当時は3ピリオド制だったし、前半と後半を入れ替えて3本目はフリーでした。最近までビルバオは11歳まで7人制で、12歳から11人制だけど、ピッチサイズが小さめだと聞いています」
木之下「地域ごとに違いはあるけど、何がいいのかを常に模索し続けているわけですね」
中澤「シーズンごとに変わるのですか?」
倉本「シーズンごとではありません。ただ、シーズンが始まる前に何がいいのかを議論されるんです。子どもの成長が関わっているから、そこには行政も絡んでいます。ビルバオは行政が関わっているからリーグも公式戦扱いではなく、親善試合扱いです。要するに、勝ちばかりを意識しすぎると子どものためによくないから、と。もちろん、競争力を失うデメリットも生まれるので、競争力のあるチームが弱くなります。
日本の一番大きな問題は『どうして8人制サッカーなのか?』という点です。団体スポーツは大体が奇数で人数設定がなされ、ピッチ内は偶数になり、センターを中心に人数が多く配置されているのに、8人制はピッチ内が奇数になって変なバランスになります」
木之下「『8人制なのはどうして?』という議論ですね」
倉本「ピッチのサイズの設定も同様です。フルピッチは一人当たりのプレーエリアが10m×6mなのに、8人制だと8.5m×6.25mとなり、縦が短い。つまり、選手たちは狭いコートの中で常にプレッシャーがかかった状態でプレーしなければいけません。そういう状態でどうやってプレーしたらいいのでしょうか。特に小学6年生になると試合時間も短いので判断してプレーできる状態ではないと思います。周囲を見る時間もないですし…だから、相手をブロックできる選手、スピードが速い選手が重宝されるわけです。U-12の選手たちには狭すぎます。これだったら相手とバトルできる選手が圧倒的に勝つ仕組みになっています」
木之下「下手すると、6年生なのにマンツーマン・ディフェンスを1試合続けてきますよね。フルピッチだったらありえない状況です」
<関連リンク>
・【10月・11月特集】「トレーニングをデザインする」
<プロフィール>
倉本和昌(くらもと かずよし)
高校卒業後、プロサッカーコーチになるためにバルセロナに単身留学。5年間、幅広い育成年代のカテゴリーを指導した後、スペイン北部のビルバオへ移住。アスレティック・ビルバオの育成方法を研究しながら町クラブを指導し、2009年にスペイン上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後、大宮アルディージャと湘南ベルマーレのアカデミーコーチを計8年務めた。現在はスペインと日本での経験を活かし「指導者の指導者」として優秀なコーチを育成するサポートをしている。
<お知らせ>
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