「挫折するまでは放っておく」。湘南ベルマーレ・曺貴裁監督の行動哲学

2018年11月04日

育成を考える

横浜F・マリノスを1-0で下し、JリーグYBCルヴァンカップ初制覇を飾った湘南ベルマーレ。値千金の決勝ゴールをあげたのは、加入2年目、弱冠20歳のDF杉岡大暉だった。そんな杉岡に対し、チームを率いる曺貴裁監督は「挫折するまでは放っておく」アプローチを取っていた。若手選手の育成に定評がある曺監督の行動哲学とは。

『育成主義 選手を育てて結果を出すプロサッカー監督の行動哲学』より一部転載

著●曺貴裁 再構成●ジュニサカ編集部 写真●松岡健三郎


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目では追いかけ、心では放っておく

 ザスパクサツ群馬に3対1で勝利した昨年3月4日のホーム開幕戦でも杉岡を先発させると、開始10分に先制ゴールを決めた。自分で力強くペナルティーエリアのなかへもち出して、利き足である左足を思い切り振り抜いた。

 主にセンターバックを務めていた高校時代は、セットプレー以外ではあそこまで攻め上がったことはほとんどないと思う。ただ、京都橘戦を見たときに、最初から細かいことをいろいろ教えるよりも、杉岡が思う通りに、好きにやらせたほうがいいんじゃないかという感覚を抱いた。

 その後のスペイン合宿で組まれた実戦で起用してみると、実際にもっているものが非常にいい形で発揮されていた。そういう状況もあって、杉岡に関してはある方針を固めた。挫折するまでは放っておこう、と。放っておくと言っても、何も「どうでもいい」と思うこととは明確に一線を画す。目では追いかけているけれども、心のなかでは放任しておく。要はあえて好きにやらせるというアプローチが、特に若い選手に対して非常に大事なことだと僕は思っている。

 たとえになるかどうかはわからないけれども、赤ちゃんを遊ばせる母親が常に近くでは見ているものの、あれをしなさい、これをしなさいと言ってももちろん意味が通じないし、聞くこともない。だから放っておく。この状態に近いと言えばいいだろうか。

 おもちゃを与えてもハイハイすることに夢中になって、壁伝いに歩き始めるかもしれない。自分ででんぐり返しを始めるかもしれない。それでも危ないから目では追っている母親と、ボールと大きなスペースとを杉岡に与えた僕の心境は似ていると言えば、もしかすると笑われるかもしれない。ただ、どの年代の選手に対する指導でもそうだけれども、特に子どもたちを教える指導者には「目では追いかけているけれども、心のなかでは放任しておく」という気持ちを忘れてはいけないと思う。

 思うようにプレーさせておけばいいところを、不必要な資料や情報を与えてしまうことで、進むべき道とは異なる方向にねじ曲がってしまう。そうしたケースは意外と少なくないが、もちろん放ったままでもダメだ。

 再び赤ちゃんをたとえに出すと、たとえば石油ストーブは熱い、絶対に触ったらダメだということは、火傷を負う前に何度も言って聞かせなければいけない。サッカーに置き換えれば、やられて学ぶよりも、先に言うことで失敗しないほうがいいと僕は考えている。

 何も知らない赤ちゃんがストーブ触って、皮膚に残る火傷の痕とともにしてはいけないと教えるのは指導ではないと思う。ほとんど意味をなさない痛みであり、意味のないミスでもある。それよりも事前に言うことでミスを減らし、成功体験を増やしてあげるほうがはるかにいい。

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