日本の子どもたちに必要なものは「余白」であることを大人たちはわかっているようでわかっていない【サッカー外から学ぶ】
2018年12月20日
コラム
【異年齢保育の様子(写真提供●橋井健司さん)】
日本には『留年制度』も必要?
自由時間のなさと並んで、橋井さんが日本の教育システムの構造的欠陥だと指摘するのが、画一的な進級制度だ。一定の年齢になったら4月に揃って入学し、すべての子どもが学習指導要領に従い、同じカリキュラム、同じタイムラインで進んでいく。こうした良く言えば“平等”なシステムが多くの子どもを苦しめる要因になっている。
「同じ時間割、同年齢クラス、一斉進級……。幼稚園、小・中・高すべてそういう風に設計されているので、いくら『自由でのびのび』とか『個性を大事に』と言っても限界がありますよね。たとえば、小学校なら、7歳を迎える年になったら全員が一律に小学校1年生という土俵に立たされます。こうなると、成長の速度にかかわらず、戻ることも先に進むこともできなくなってしまいます」
他人と比べることの弊害はサッカー、スポーツに限らず子育てでも盛んに指摘されているが、12ヵ月の幅がある同級生と同じ舞台に強制的に挙げられてしまう現行の教育制度では、どうしても子どもたちの足りないこと、遅れていることに目が行ってしまう。
「この環境では比べたくなって当然ですよね。最大で11ヵ月の差がある子と同じスピードで進むことが求められる。もっと言えば、子どもによって成長スピードはそれぞれまったく違うのに年齢という指標だけで画一的に区切られてしまう。これでは、“突出した個”なんて生まれるはずがありません」
橋井さんは、海外で導入されている飛び級制度、年齢だけを基準にしない教育が必要だと訴える。
「それぞれの進度に合わせるという意味では、飛び級と同じくらい留年制度が必要だと思っているんです。留年というと聞こえが悪いのですが、伸びるタイミングを待つための準備期間を子どもたちに与えて上げて欲しいんです。私の園でもあと1年、小学校に上がるの遅らせてあげたら、5年生、6年生になったときにむしろ同学年の子より成長しているんじゃないかと思う子がたくさんいるんです。子ども本人も、親も『小学校はもう半年から一年あとでもいいかな』と思っている。小学校へ入学する年は、本来は子どもによって±1年ぐらい猶予があっていいわけです。それは足踏みではなく、本来のポテンシャルを生かすための“助走幅”なんです」
日本ではスポーツでも勉強でも早熟をもてはやす傾向にある。成長が早い子は上のカテゴリーで同じレベルを経験する飛び級制度は、サッカーの世界でも浸透しつつあるが、飛び級制度だけでは、成長スピードが鈍化した時に対応ができない。早熟な子は飛び級したとしてもまた戻ってこれる。成長が遅めの子はゆっくり準備するが、成長が追いついたときにはそれに相応しいカテゴリーに進級する。年齢ではなく、レベルや成長に応じた「ちょうどいいところ」で力を発揮することが成長につながるのは間違いない。
サッカーの世界の話をすると、飛び級とまではいかなくても、レベルの高いクラブに挑戦した結果、補欠として試合に出ることなく時間を無駄にするケースも少なくない。上にはいけるが戻ってこれない、成長スピードに応じた適切な成長の場が提要されないことが、チャレンジや人材の流動性を阻んでいる。日本のジュニアサッカーの自由な移籍を容認しないシステムも学年による画一的な指導法と同じ課題を抱えている。
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