日本ラグビー界の“育将”が提唱するノート活用術「フレーミング」とは

2019年11月11日

メンタル/教育

練習や試合が終わったあとに、起きたこと全てを振り返ってしまい、結局何がダメだったのかわからなくなっては、次の練習や試合に生かせません。自分自身のプレーの良かったこと、良くなかったことを理解する。成長スピードをあげるためにも、次の練習や試合に向けて取り組みたいことを明確させることが大切である。日本ラグビー協会コーチングディレクターを務める中竹竜二氏が提唱するラグビー日本代表の選手たちも実践してきた“世界と戦うためのノートの作り方”とは何か。

著●島沢優子 写真●Getty Images

『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』より一部転載


Japan v Scotland - Rugby World Cup 2019: Group A

「頭の中で整理しやすい」振り返り方とは

 日本ラグビー協会コーチングディレクターを務め、『新版リーダーシップからフォロワーシップへ』などの著書もある中竹竜二( 45 )は、コーチ育成の第一人者だ。
 
「選手を成長させたいなら、まずコーチが成長しよう。コーチが変われば、選手が変わる」〝 学び 〞 の価値を伝えるために2010年から全国各地でコーチ研修を開いたり、U16 から始まるユース年代からトップにいたる日本代表のアスリート教育を担ってきた。
 
 特徴的なのは、練習や試合の「ふり返り」に「good」「bad」「next」(以下GBN)の3つの観点を使うところだ。

「good」は良かったこと、「bad」は悪かったこと。それらを踏まえ、次にどうするかを見定めていくのが「next」になる。

 例えばバックスの選手であれば、ポジショニングが良かったのでチャンスを多くつくれた。だが、肝心なところでハンドリングエラーがあった。次の練習では、そこを意識して、トップスピードになった状態でのハンドリング練習に取り組む――そのような思考を喚起する。
 
 このような手法を「フレーミング」と言う。フレームは「くくり」を指す。たくさんの課題をやみくもに考えるのではなく、ひとつのくくりごとに思考していくことで整理しやすくなる。良かった点を生かしながら、悪かった点を絞る。そうすることで、自分自身やチームそのものを俯瞰して客観的に見る習慣もつく。

「選手に試合や練習を振り返ってみてくださいと話すと、ただ起きたことを並べてしまいがちだった。でも、GBNがあれば頭の中を整理しやすい。攻撃は?守備は?自分は?チームは?とさらに分けても同じ手法で整理できる。最後に分けたものをつなげばいいわけです。次にどうすべきかが明確になるので、成長スピードは断然あがってきます」

 そう説明する中竹は、留学した英国の大学院で学んだ「形態型社会学」でフレーミングを探り当てた。形態型社会学は、社会の仕組みなどさまざまな事象を構造的にとらえる学問だ。主観を排除し、物事を俯瞰的にとらえなおすことが求められる。「『good・bad・next』のフレームワークは、言ってみれば非常に単純なものです。私が説明する以前から自然に自分で取り入れた選手や指導者もいます。ただ、それを価値あるものだと認識し継続していくことが重要です。私がこのフレーミングを使い始めて8年経った今、ラグビー界ではほとんどのチームで使われています」

 この手法で進化しているのは、ラグビーだけではない。中竹はプロ野球の横浜DeNAベイスターズ、Jリーグ、日本バスケットボール協会で選手や指導者講習の依頼を受けてきた。競技のフレームを超えて、この手法を伝えている。

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【U17 日本代表選手が書いたオンザフィールドの自己評価シート。GBN以外に「アタックで自分の役割以外の動きを理解している」といった具体的な評価項目もある。】

ノートに書くことで身に付く“能力”

 では、どのように使うのか。

 例えば、ラグビーでは、合宿や遠征の際、練習や試合の後にレポートを選手に書かせる。高校日本代表からトップチームまで、ほぼ同じフォーマットのプリントを使用する。パソコンがない選手もいるため、今のところは紙に手書きだ。プリントは、技術戦術といった競技に関する「オン・ザ・フィールド」(グラウンド上)と、チームの規範や生活態度、食事についての「オフ・ザ・フィールド」(グラウンド外)に分かれる。

 まずは、オン・ザ・フィールドについて。

「GBNをその都度やるのは面倒だけれど、そこに時間をかける選手は必ず伸びる。問題点が明確になります。言葉の本来の機能は、何かを限定することでもあります。自分の言葉でGBNを明らかにして課題解決方法を考える。それを他者に伝える訓練を積んでいくと、ハイレベルのリーダーになります」と中竹はレポート作成の価値を語る。

 これからの1時間の練習で、課題をどう解決するか。ジャパンの合宿では、練習前にそんなレポートを書いてもらったことがある。文章を書き慣れていない者がほとんどのはずで「え? また書くの?」という悲鳴もあがった。

「トップでも、高校生でも、これをきちっとできる選手はうまくなる。でも、こういった学びをぞんざいに扱ってしまう選手は、いくらポテンシャルが高くても途中で消えてしまいます」

 フレーミングで成長した選手は枚挙の暇がない。

 中竹が初めて研修をした高校日本代表にいた流大(サントリー)、布巻峻介(パナソニック)を始め、中村亮土(サントリー)、金正奎(NTTコミュニケーションズ)らはジャパンの選手へと育ってきた。

「全員、レポートがどんどん良くなった」と記憶しているこれらの選手たちの多くが、所属チームでキャプテンを任されていることは、特筆すべきことだろう。

 キャプテンは、監督が提案した戦術をチーム全員に理解してもらわなくてはいけない。自分の言葉でチームメイトに伝えることが必要だ。ラグビーの試合で、同じような反則が散見されると主審が呼んで注意するのはキャプテンであることからも、言語能力の高さが求められることは言うまでもない。

 例えば帝京大学V9チームのキャプテンを務めた堀越康介(サントリー)は、決して言葉巧みではなかった。中高と主将歴はなく、中竹が監督を務めた21歳以下日本代表で初めてリーダー役を任されたことを機に、言語能力、コミュニケーション能力が格段に伸びた。

「それに加えて、彼には意思の強さが抜きんでていた。ネガティブなことがあっても、周囲に言い訳しない。やると決めたことをやり抜く力、つまりグリッドがある」

 そう言って目を細めた中竹によると、振り返りをしてノートやプリントに書くことと、「グリッド」は関係しているという。グリッド(grid)は、格子状や碁盤目のことだが、「気概」「気骨」の意味もあり、スポーツの指導現場では「最後までやり遂げる力」を指す。

「他者にこうするんだと宣言するなどして、誰かと(決意を)シェアすれば、そこには責任が発生します。自分のノートに書くのは、自分を奮い立たせることになるでしょうから」

 オフ・ザ・フィールドは、アスリートであることをいかに意識して生活するかが重要な視点になる。

※続きは『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』をご覧ください。

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【日本ラグビー協会コーチングディレクターを務める中竹竜二氏】


<プロフィール>

中竹 竜二(なかたけ・りゅうじ)
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業後、英国へ留学。三菱総合研究所等を経て、早稲田大学蹴球部監督となり大学選手権2連覇達成。2010年、日本ラグビー協会初代コーチングディレクター就任。(株)チームボックス代表。『新版リーダーシップからフォロワーシップへ』など著書多数。


『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』では、伊藤美誠(卓球)、早田ひな(卓球)、朝比奈沙羅(柔道)ら、10代から世界を舞台に活躍する選手のノートの内容から『書く、話す、伝える』と賢さ(インテリジェンス)、パフォーマンスの相関関係に迫っています。

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【商品名】世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス
【著者】島沢優子
【発行】株式会社カンゼン
【判型】A5判/224ページ
【価格】1,600円+税
【発売日】2019年3月18日

アスリートたちが綴るノートの役割を脳科学の視点から分析しながら、何人ものトップコーチ、選手とともに「アスリートのインテリジェンス」を追求。世界の頂点を目指す人たちがノートとともに成長する物語を味わいつつ、主体性の処方箋を得られる一冊。


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