指導者は完璧でなくてもよい。選手たちと“再現できるプレー原則”を生み出していく

2019年11月20日

戦術/スキル

ジュニアサッカーを支えているのは、兼業コーチや初心者コーチ、お父さんコーチの人たちである。ただ、その多くのコーチが時間的、知識的な余裕がなく、自らが作成した「ゲームモデル」「プレー原則」をもってサッカー指導をしているわけではない。とはいえ、「サッカーをしてみたい」「もっとうまくなりたい」という選手は目の前にいて、「指導は待ったなし」で進んでいくものだ。

そんな現実があるなか、7月に「プレー経験ゼロでもできる実践的ゲームモデルの作り方」(ソル・メディア)という本が発売された。注目すべきは、著者が「プレー経験がゼロだった」という点である。そこで、11月の特集は和歌山県立粉河高校で世界史の教師をされ、サッカー部監督としてゲームモデルを基に指導をされている脇真一郎先生を取材した。第三弾は、「プレー原則」に関する内容に触れていく。

【11月特集】経験ゼロのコーチが作るサッカー指導

取材・文●木之下潤 


1120 特集② ロゴ

「構造的優位」という表現は失敗した!

——脇さんがゲームモデルのバージョン1で付け加えられた「構造的優位」ですが、かなりのハイレベルな領域です。Jリーグでは川崎フロンターレがチームとしてそれに近いプレーを、また選手では中村憲剛選手とかが実行できているのかなと思います。例えば、敵の意識を味方から外すための仕掛けとか、敵がボールに目を移した瞬間に背後をとるとか、そういうところではないかなと個人的には解釈します。

脇真一郎氏(以下、脇) 確かに中村選手も意識誘導がうまい選手かなと思います。あとは、遠藤保仁選手とか。遠藤選手がテレビの取材か何かで、「何気ないパスで相手の圧力をはかる」と言っていたんです。味方にボールを預けてポンと返ってくるパス交換を、「相手の出方をはかる」という意図の説明していました。それって観戦者として見ると、「なんでパスしたの?」と疑問を抱きます。

 でも、彼が答えていたのは、「その一本のパスで相手の意識がどういう風に向かい、移っていくのかをはかっている」というわけです。そのパス交換によって生まれる相手の意識の空白地帯を狙う、と。そういう内容を読み解いていったときに、「これは意識的にできるよな」と感じました。結局、選手には伝え切れませんでしたけど(苦笑)。

——そういう選手が2、3人いると、かなり構造的優位な状況が作り出せるかなと思います。最近はプレー原則という話題が多く登場します。ゲームモデルは「こういうことをやろうね」と言葉に起こしやすいものだったりするので、どのカテゴリーの指導者もイメージがしやすい部分です。でも、それをプレー原則に落とし込むときに「どうしたらいいんだろう?」と悩む指導者が多いのかなと思います。バージョン1のプレー原則を考えるときに、まず何から手をつけられたのですか?

 まず、チームの中で起きている現象を見ることから始めました。プレー原則を言語化するときは、結果として現象から原則に向かって行きました。現象レベルで起きていること、起こしてはいけないこと、起こそうとしていることを自分たちの試合を見て整理していきました。その現象を引き起こすには、どんな原則が必要なのか、なぜそれを起こせたのか? 選手たちにも「これをできたのはなんで?」という理由を聞いて、原則に向かっていくように問いかけ続けました。

 このときに自分だけではわからないことが出てくるので、知り合いの指導者に「なんでこういうことが起こるの?」とアドバイスをもらいながら、まず現象から原則をたどりました。

 次は、その原則を練習の中で現象にたどり着かせるためには、どうトレーニングに落とし込んだらいいのかと考えました。正直この部分は、いまも100%の答えを自分の中では持てていません。一番悩んでいるところです。でも、現象と原則を行き来すること、その接続部分を注意深く見ることは大事だという確信はあります。なぜなら現象に対する原則が間違っていたら、いくら原則を落とし込んでも現象は再現できませんから。

 まず、丁寧に現象と原則をつなぐ作業はしたいと考えています。でも、現象は絶対に目の前で起こっていることなので、パッと見た瞬間に原則までたどり着けなかったとしても記録映像を残せば、わからなくても他の指導者などに相談すればいいことです。サッカーの原則そのものはシンプルなもので、難しいものではありませんからいろんな人にたずねて「こういう原則だね」というものを抽出すればいい。

 あとは「じゃあ、この原則を練習の中で要素として落とし込めるか」と模索するだけです。今はネット上に練習メニューが溢れているから「どういう原則を大事にしているのか」と分析しながら自チームに合いそうなメニューをピックアップし、それをアレンジして原則を再現できるかをトレーニングで試せばいい。もし難しかったとしても、もう少し小さく局面を切り出して練習メニューを考えて試したり。そういった意図は選手にも話し、感想をもらいながら作っています。そうすると、いろんな感想が出てくるので練習メニューも選手とすり合わせて作成しています。

 おそらくサッカー経験のある指導者の一部には「すべてを完璧にできないといけない」という考えがあって、練習はすべてを選手に与える場と錯覚しているところがあると思います。「知らない」「わからない」と言えないみたいな。それが私にはありません。目的と意図を選手に伝え、実際にやってみます。そこで「これはうまいこと現象が出ているな」「これは全然現象が出ないな」と選手からもフィードバックをもらいながら積極的に話をして、選手と一緒に作っていこうという感覚を持っています。

 私は監督として、君たちは選手としての立場だけど、一緒のチームメイトとして練習をより良い形にしていこう、と。現象と原則の接続は丁寧にやっていかないと、ここを外してしまうとゲームモデルがあらぬ方向に進んでいきますから。

——でも、ゲームモデルとプレー原則を、現象を通じて選手と一緒に作っているのは、一見遠回りのようで近道であったりするのかなと個人的には思います。

 と、思うんですけどね。もちろん思いたいところもあるのかもしれません(笑)。

1120特集① ロゴ

原則から現象が起きるのかは調べる必要がある

——やはり日本の指導現場では、サッカー理解やサッカー解釈が思うようにできない現状があります。ゲームモデルが起きるような現象にプレー原則をどう向かわせるかは、ある程度トライ&エラーしながら試行錯誤しないと言語化していくことは難しいのかなとも思います。

 でも、現在のサッカー指導のあり方で間違った解釈のされ方の一つに「用意した練習メニューで実現したい現象が起きなかったら、設定をコロコロと変えられる指導がいいですよ。それは知識がある証拠です」というような風潮がありますが、海外の指導を見ていると、どんな指導者も選手と会話をしながら「練習意図が伝わっているのか?」、途中で「意図が伝わるように対話を重ねようか」という部分は大事にしています。

 とにかく原則で現象を起こし、その現象で原則があっているのかは行ったり来たりして試してみないと、プレーする選手に合っているかは未知数です。だから、脇さんがやっていることはすごく適切なやり方だなと思って聞いていました。
 
 
【バージョン1】
▼プレー原則
攻撃→01「第一の選択肢である中央突破を実行するための条件を整える」

 その具体的な方法として、次のように書いてあります。このあたりはご自身が現象を見ながら「こう書いたら選手たちがこうプレーするかな」と言語化したものですか?

・プレスユニットを観察するために、圧力をはかるパスを行う
・どの高さと幅が設定されているのか、プレス開始のスイッチが何なのかを観察する

 
 
 半々ですね。このゲームモデルの基となる世代がやっていたサッカーを言語化したのが半分、そして実際にプレーする世代のためにもう少し基準化して表現したのが半分です。プレスユニットが一枚なら、二枚なら…と基準化したのは、いまの選手たちのためです。

 相手がボールに対して何かしらのリアクションをしてくる。
→その逆手をとって、相手が動き出した後に生まれたスペースを順番に突きながら前進する。
→それをセンターレーンの真ん中で直進していけたら理想的。

 そもそもの軸がこういう考え方です。能力が高かった世代は、これをゴールエリアの幅で勝負できるレベルでした。中盤エリアを2人、3人でどんどん突き進んでいました。いまは「どうしたらその現象が起きるのか?」をペナルティエリア幅でできればいいなと言葉にしていきました。でも、バージョン1はいま目を通すと文字が多いし、くどいですね。それは原則の中にゲームコンセプトを含めて言語化してしまっているから、読むと内容が盛りだくさんな印象です。こうやって見ると、反省ばかりですね。

——確かに攻撃も01からポイントが複数あるので、選手からするとプレー中にたくさんのことを考えなければいけないのかなと。でも、話を聞いていると、強かった世代の3年生のサッカースタイルをもとにポイントを抽出して言語化をはかり、そこから代替わりをする1、2年生がそれを再現する際にわかりやすいように脇先生が言葉に落とし込まれている過程がすごく伝わってきます。

「プレー原則に基づいたゲームモデルの現象を起こすときに、この言語化なら選手たちがそれを再現できるだろう」と。だから、ちょっと条件が多くなったのかなと、私なりに読み取っています。

 実際に選手と一緒に現象と原則の行き来を繰り返されているので、割と選手のために落とし込む作業も指導現場の中で解決されている部分が多いと思います。だから、「何をどう伝えていけばいいのか?」というジュニアの指導で起こる課題は、脇さんの指導では、あまりないのかなと。それは、きっと選手との共同作業をするなかで現場の会話の積み重ねで解消、解決されているから。

 むしろ脇さんのなかでは、実際の指導で考えがより鮮明に簡潔にまとまっているように思います。実際はどうなんでしょうか? 例えば、2週間に一度は選手と一緒にミーティングの時間を設けて話し合ったりしているのかなど。

 ゲームモデルのバージョンを頻繁にアップデートしていた時期があります。具体的には、今年の年明けから総体予選が終わる6月くらいまでです。2週間に一度は「SPLYZA」などのアプリを駆使し、試合の振り返りをしたりしていました。「落とし込みたい現象と原則がこういう場面で起こっている」と。自分たちのサッカーをもとに話すときもあれば、マンチェスターCやリバプールなど海外の試合を見て自分たちで解説してみたり。

 例えば、「なぜこの局面でビルドアップが成功しているのか?」をテーマに「このチームの守備の原則は何だろう?」と原則を読み取る頭のトレーニングは頻繁に行っていました。

 書籍にも書いたのですが、ミニゲームをするときに選手たちにプレー原則に基づいたミニゲームモデルを作ってもらいました。「これを徹底してやっていこう」と実際の練習で取り組み、終わった後に話し合いをして「あのチームならアイツがポイントになるからこうしよう」と相手を見ながら自分たちのプランを立てて実行の部分も実践してみました。選手の頭の中を「ゲームモデルがあって、その原則をどう読み取ってプレーするのか。そして、相手の原則を読み取ってどうプレーに反映していくのか」という感じに整えていったようなイメージです。そこは時間をかけてきました。

 だから、いまは練習をしていても選手の中で「このプレーしているけど、原則って何? 基準って何?」という会話が増えました。ただゲームモデルやプレー原則を文字として提示されても頭の中にスーッとは入っていきません。きっと頭の部分の改革も、とても大事な要素なのかなと思います。

「こうするから、こういう現象になるよね」。

 そういうことをどんどんつないでいって、現象と原則を行き来すればより選手の理解も深まっていくような気がしています。選手からも指導者からも当たり前にそういったことを提示したり疑問をぶつけたりするような環境を作っているので、現在のバージョン5まで言語化をアップデートできたのかなと実感しています。


>>11月特集のインタビュー第四弾は「11月27日(水)」に配信予定


【プロフィール】
脇 真一郎(わき しんいちろう)
1974年、和歌山県生まれ。同志社大学文学部卒。和歌山県立海南高校でサッカーと出会い、和歌山県立伊都高校で初めてサッカー部顧問として指導にたずさわる。和歌山県立粉河高等学校に異動後、1年目は副顧問、2年目以降は主顧問として7シーズン現場での指導を続けている。2018年に1期生として「フットボリスタ・ラボ」でのサッカーコミュニティ活動を開始。以降、ゲームモデル作成推進隊長としてfootballistaでの記事執筆や、SNSを通じた様々な発信を行っている。2019年7月に「プレー経験ゼロでもできる実践的ゲームモデルの作り方」(ソル・メディア)を上梓

▼Twitter=@kumaWacky


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