「クラブに登録する」か「スクールに通う」か。多様化する“サッカーをどこでするか”の選択
2020年02月19日
育成/環境2月の特集は「街クラブのコーチに選手育成を聞く」と題し、センアーノ神戸を取材した。このクラブは兵庫でも安定してベスト4に位置し、12月に鹿児島で開催された「全日本U-12サッカー選手権大会」でもベスト4に進出。2016年にはバーモントカップと全日本の二冠を達成し、その育成手腕を証明している。そこでU-12の監督を務める大木宏之氏に話をうかがった。今週のインタビュー第二弾では「選手登録、審判、コーチの減少など」について、大木氏の考えを聞いた。
【2月特集】街クラブのコーチに選手育成を聞く 〜センアーノ神戸〜
取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之
JFAのデータは登録外活動の選手が含まれない!
――クラブ以外にも、少し兵庫のことも聞きたいです。JFAのデータを見ると、4種の選手人口は微減の状態です。全体的にも微減しています。
大木 私もジュニサカさんの記事を見たのですが、あれは登録チーム数の話ですか?
――登録チームまでは記憶にないですが、選手数は微減しています。
大木 その点については一つ疑問を持っています。その原因はもちろん少子化が一つあると思います。ですが、私の感覚だと「登録しない選手が増えているんじゃないかな」と。
――なるほど。
大木 地域でスクールだけを運営しているところがいっぱいあります。私たちも経営しているのでわかるのですが、クラブはチームを持つほど赤字になります。正直、スクールだけのほうが収支の効率はいいです。関西でも週1・2開催のスクールで月7000~8000円が相場になっています。平日指導している時間は2時間ほど。私たちのクラブは週4で月11500円なのですが、土日はどちらか拘束が半日以上はあります。
そう考えるとスクールのほうが費用対効果がいい。だから、協会にクラブ登録せずにスクール活動しているところが、今は結構あって、そこに通う選手もクラブに所属していない子はたくさんいます。保護者も満足しているようです。実際にサッカーをしている子はわかりませんが、登録せずに活動している子は増えている印象です。
――神戸一帯を見渡すと、数の面でクラブとかスクールとかどういう状態ですか?
大木 私も30年くらい4種にたずさわっていますが、少子化で少年団の数は明らかに減っています。私も来年から協会の活動に参加する予定なので、入るとはっきりしたことがわかるかなと思っています。
――JFA登録チーム数は減っているけど、活動選手数はわからないですよね。
大木 関東はどうなんですかね?
――東京で言えば、スクールとまでは言わなくても、地域の強豪が週1くらいで子どもを集めてサッカーを教えるクラブは増えているように感じます。
大木 そうですね。そういう子が結構増えてきていると思います。JFAには登録しませんから、登録数には上がってきませんよね。
――確かに。
大木 JFAもそういう子をフォローするような仕組みを作ったらいいと思いますけどね。
――登録しないと公式戦には出場できませんからね。
大木 神戸では協会登録せず、地域のクラブが主催するカップ戦には出場するようなチームがいくつかあります。
――多様化しています。
大木 ヴィッセル神戸のスクールが県内に多くありますが、登録していない選手は結構いると思いますよ。
――Jクラブのスクールはどこも数が多いですよね。スクールに入っていればそこのチームとして1DAYマッチには出場できますし。
大木 そういうものだと思っている保護者もすでにいますよね。あと、手間をかけてまでクラブに行く必要はないと思う保護者もいます。ひと昔前に比べると、サッカーをすることがいろいろ多様化しています。
――でも、公式戦の審判不足を招かないですかね? あと、協会や連盟を運営するスタッフの高齢化も心配な気がします。
大木 運営スタッフの高齢化は確かにあると思います。暑い日も、寒い日も、子どものために長年ご尽力いただき、本当に感謝しています。
――審判は確実に不足しています。ジュニアユースの審判とか見ていると、たまに審判の高齢化も心配だな、と。
大木 基本的に神戸、兵庫の組織運営、クラブ運営はボランティアでまかなわれているのが現状多いです。だから、審判も志がある方がボランティアでされています。海外のように「もう少しお支払いしてもいい」し、そのために参加チームから費用負担してもいいと、私は思います。ただ、最近は公式戦もユース審判や20歳前後と思われる方が審判される方は増えてきました。県内のリーグ戦はクラブスタッフが審判対応していて、私も審判をします。いいダイエットですよ(笑)。
センアーノ神戸の大木宏之監督
運営には人材育成と人材確保の悩みがつきまとう
――関東で開催したコーチ対談で意見が一致したのですが、みんな「コーチ不足だ」ということを言っていました。
大木 それは永遠の課題です。いやー、足りないですね。
――それは数の話ですか?
大木 数もそうですし、質も上げたいところです。企業もですが、人手不足の時代ですから。本当にサッカーが好きで、子どもが好きでというコーチは少ないです。私たちもそこは大きな課題の一つです。どこの街クラブも経営を見直したり勉強したりしないとこれからはダメだと感じています。
――個人的な意見ですが、最近私のTwitterやnoteといったSNSでは学生のフォロワーが増えました。あくまで感覚値ですが、サッカーの指導情報はありふれているけど、例えばトレーニング論など表面的な意見が飛び交っている印象です。そのあたりはどう感じていますか?
大木 正直に言うと、一度社会に出てからサッカー界に戻ってきたほうが、子どもに向き合った街クラブの指導ができると思います。厳しいことを言うようですが、自分たちより年上の保護者から「コーチ」と呼ばれ、勘違いを起こす子も実際にはいます。最近の大学生、あるいは卒業したばかりの人はものすごくサッカーについて、コーチングについて勉強しています。知識は豊富ですが、その前に育成年代の指導は保護者とも接するため、親御さんとのコミュニケーションであったり、子どもへの教育であったり、そういう部分が物足りないと感じています。
――貴重な意見だと思います。ありがとうございます。ところで、センアーノ神戸さんはスポンサーがついていないですよね? 最近の全国大会出場クラブはスポンサーが付いているところが増えています。
大木 基本的に今はついていないです。スポンサーもメリットデメリットがあります。金額が大きくなれば、自分たちの意向に意見する方もいるでしょうから、うちの場合は「だったら自分たちでがんばったほうがいいよね」というスタンスです。今後はわかりませんけど、地域密着視点で経営すればスポンサーもありなのかなとは思っています。
――神戸とかって地元企業がたくさんありますからね。話がまたガラッと変わるのですが、選手が減っている少年団はどういう風に試合をしているのですか?
大木 一学年で1チームが作れない少年団は増えていますし、どんどん選手数が減っているところは消滅の道をたどっている場合もあるようです。学年をまたいでチームを作っていたり、選手が他のクラブに移籍したり。30年前からすると、クラブチームが増えています。
――もう一つ、体罰問題はありますか?
大木 過去はありましたけど、今はさすがにないですね。たまに暴言は聞くことはありますけど、少なくとも私たちのクラブ周辺の出来事ではありません。
――私は出身が福岡なのですが、地元ではまだ体罰問題があるようです。コーチ、組織といったところで高齢化問題はあるのかな、と。新陳代謝という意味でも、ある程度必要なことだと感じています。
大木 協会のことはわかりませんが、クラブ的なことを言うと、来年は若いコーチに任せようと思っています。私はサポートをしよう、と。基本、来年のチームはその担当者に任せるつもりですし、よほど大きな大会ではない限りは帯同もしないつもりです。監督をできるレベルのコーチが増えたほうがクラブの地力は上がりますし、そのためには経験が必要です。
でも、かといって力のない人間がコーチをしても選手にとっては迷惑なので、そこが難しいところです。でも、力のあるコーチはどんどん伸ばしていきたいと考えています。やはり実戦の機会を与えないと本当に身につけたものが通用するのか、改良が必要なのか、コーチ自身が本番に強いのか弱いのかみたいなことがわかりませんから。
>>2月特集の第四弾は「2月26日(水)」に配信予定
【プロフィール】
木之下潤(文筆家/編集者)
1976年生まれ。福岡県出身。様々な媒体で企画からライティングまで幅広く制作を行い、「年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)、「グアルディオラ総論」(ソルメディア)などを編集・執筆。2013年より本格的にジュニアを中心に「スポーツ×教育×心身の成長」について取材研究し、1月からnoteにてジュニアサッカーマガジン「僕の仮説を公開します」をスタート。2019年より女子U-18のクラブカップ戦「XF CUP」(日本クラブユース女子サッカー大会U-18)のメディアディレクター ▼twitter/note
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