初優勝・ナイジェリア選抜のメンタリティ。観客を魅了したその姿勢/ワーチャレ取材日記④
2019年09月02日
読んで学ぶ/観て学ぶ取材・文・写真●高橋大地
当事者のように大喜びできるメンタリティ
2019年9月1日(日)、Jリーグ・ガンバ大阪の本拠地パナソニックスタジアム吹田(大阪府吹田市)にて『U-12 ジュニアサッカーワールドチャレンジ2019』の決勝戦が行われた。
今年から32チームに参加チーム数が拡大。バルセロナやバイエルン・ミュンヘンなど欧州のビッグクラブをはじめ、タイやナイジェリアの選抜チームや東南アジアや北米予選を勝ち抜いたクラブも参戦し、ジュニアサッカーの祭典は例年以上の盛り上がりを見せた。
バルセロナがベスト16、バイエルン・ミュンヘンが準々決勝で敗退するなかで、決勝の舞台に立ったのはナイジェリア選抜と中国の広州富力足球倶楽部(以下、広州富力)。
新たな“ワーチャレ“を象徴するようなカードとなった決勝戦。ナイジェリア選抜は、個々の突破力はもちろんだが、コンビネーションプレーも多彩。10番サンデー・エジケくんは長短のパスを使ってボールを散らし、8番ダヨ・アブドゥルワヒードくんは、気の利いたポジショニングでスペースへ頻繁に顔を出し、ボールを受けてゲームを支配した。
一方、広州富力は屈強なCB4番へ・ジャジュンくんと23番リ・ツェンハオくんが守る中央はまさに鉄壁。ここまで様々な形でゴールを奪ってきたナイジェリア選抜だが、大会屈指のCBコンビには苦戦を強いられた。
膠着した試合が動いたのは、終盤の45分。左サイドに流れていたサンデー・エジケくんがドリブルで仕掛けてDF一人をかわし、センタリングを送る。そこに走り込んだのは8番ダヨ・アブドゥルワヒード。シュートはゴールネットに吸い込まれ、ナイジェリア選抜が値千金のゴール。このゴールが決勝点となり、1-0でナイジェリア選抜が勝利し、初優勝を飾った。
優勝したナイジェリア選抜は、来日予定だったアデオラ・オモセビくんが来日2日前に飲酒運転が招いた事故により亡くなってしまう痛ましい事件があった。それでも、彼の姿がプリントされたレガースを全員が身につけ、ピッチで躍動した。
ゴールを決めれば全身を使って大喜びし、シュートを外せば地面に寝転んで悔しがり、判定に異議があればレフェリーに大きなジェスチャーで抗議する。ピッチの中で自身の感情を出すことを臆さず、何よりもサッカーを楽しんでプレーしている姿に多くの観客が魅了されていた。
彼らの個性溢れるプレーは、一見身体能力に頼った個人技に見えたかもしれない。しかし、グループとしてのクオリティも高く、自然とチームメイトの特徴を理解し、選手各々がそれぞれの役割をハイレベルで遂行する好チームだった。
最後にひとつだけ、記事に残しておきたいシーンがある。表彰式で大会MVPが発表されたときのこと。MVPにはナイジェリア選抜のサンデー・エジケくんが輝いたのだが、彼の名前がスタジアムにコールされた瞬間、チームメイト全員がドッと湧いて大喜びしたのだ。これまで数多くのジュニア大会を取材してきたが、MVPが発表された際にチームメイト全員が“自分がMVPをもらった“かのように大喜びする姿はこれまで見たことがなかった。
純粋な彼らにとっては、単純にうれしかっただけなのかもしれない。ただ、彼らの“他人に起きた出来事に対して当事者のように大喜びできるメンタリティ“は、ピッチでのプレーにも反映されているように感じたし、吹田スタジアムが彼らのホーム(のような雰囲気)になった一つの要因ではないだろうか。
これまで6大会のうち5回バルセロナが優勝してきた同大会 (バルセロナが優勝を逃した唯一の大会で優勝したのはエスパニョール)だが、ナイジェリア選抜が優勝したことによって、文字通り大会の歴史に新たな1ページが刻まれた。
毎年ピッチ内外で大切なことを教えてくれるワーチャレだが、来年はどんなジュニアチームが日本で躍動することになるのだろうか。アップデートされる続けるワーチャレを今から楽しみに待ちたい。
※来日することが叶わなかったアデオラくんのご冥福をお祈りいたします。また、いっしょに事故にあわれたアデオラくんのお母様にお見舞い申し上げるとともに、一日も早い回復をお祈りします。
<関連リンク>
・U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2019
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