“重心移動”をマスターすればボール扱いが上手くなる!? ポイントは「無意識になるまで継続すること」
2017年10月16日
フィジカル/メディカル「自分の体を思うように動かせなかったら、ボールを自由に扱えない」と語るのはフットボールスタイリストの鬼木祐輔さん。そんな鬼木さんが自分の体を思い通りに動かすためにこだわって指導しているのは「スムーズな移動」だそうです。では、「スムーズな移動」をマスターするためには普段の練習から何を意識すれば良いのでしょうか。
文●山本浩之 写真●佐藤博之、Getty Images
※この記事は2015年9月28日に掲載した記事を再編集したものです。
自分の体を自由に動かせないとボールを自由に扱えない
僕がフットボールスタイリストとして取り組んでいることのひとつとして、選手たちが、サッカーがうまくなるための体の動かし方を考えるきっかけを作り、普段所属しているチームでの練習や試合の質を高めてもらうという役割があります。
ジュニア年代のトレーニングでは、フィジカルを鍛えるよりもボールを扱うためのテクニカルな要素が中心になりがちですが、自分の体を思うように動かせなかったら、ボールを自由に扱えるわけがありません。
だから、小学生のうちから、ボールをコントロールする技術や足が速くなったりするために必要な体の動かし方も知っておいたほうがいいと思ったのです。
僕が「自分の体を思い通りに扱えるようにするにはどうすればいいのか?」というテーマのなかで、特にこだわって指導しているのは『スムーズな移動』です。移動とは、重心が自分の動きたいところに移ることです。人間の重心は、おへその下に全身の重心があり、胸のところに上半身の重心があります。
例えば図1のように、座っている人が、おでこを押さえられると立ち上がるのが難しくなります。なぜなら、立つという動作には重心を前に傾ける(移動する)必要があるからです。だから、おでこを押さえられると、重心が動くことができず立ち上がれなくなってしまいます
歩くときにも、重心を前に傾けることで、足が自然に前に出ます。これは、体を斜めに倒していくと、転ばないように無意識に足が出てくるのと同じシステムです。つまり、人間の体は重心が動くことで移動し、足には、重心を運ぶ(移動する)ときに体を支える役割があるのです。したがって片足立ちのときには、まだ立ち足に重心が残っており、進むために上げた足に重心を移して、足が地面に着くまで体は移動しません。
このことを理解していれば、走るときにモモを高く上げてしまえば、重心の移動に時間がかかるので速く走れないことにも納得ができますし、相手ボールを奪うときに足だけをだすと、かわされてしまったときに、重心が立ち足に残ったままなので、自分の居場所が決まってしまうためスムーズに次の動作に移れず、置き去りにされてしまうということも分かると思います。
【図のように、座っている人が、おでこを押さえられると立ち上がるのが難しくなります。なぜなら、立つという動作には重心を前に傾ける(移動する)必要があるからです。だから、おでこを押さえられると、重心が動くことができず立ち上がれなくなってしまいます】
足が勝手にでてくる範囲で動くことができればスムーズな足の運びができる
それでは、「どうしたらスムーズな動作ができるのか?」というと、先にも書きましたが、人間は歩くときに重心を行きたいところに持っていくと自然に足が前に出て進むことができるのですから、足が勝手にでてくる範囲で動くことができれば、意識することのない、スムーズな足の運びができるようになるわけです。
歩くときに小股だと足を意識して前に出さないと進むことができません。少しずつ歩幅を広げていくと、あるところから、すっと足が前にでてくるところがあります。さらに歩幅を広げて大股になると、ふたたび足を出さないと歩けなくなります。これを前後左右とあらゆる方向で試してみると、図2のようなドーナツができると思います。この自分のドーナツを知っておくことで、どの範囲にボールを置いておけば、足がスムーズに出て、ボールコントロールやパスを自然に行うことができるか分かるようになります。
自分のドーナツを知ることができたら、今度はボールに触れるときのポイントです。ボールに触れるときには、足(英語でフット:足首から下の部分)を動かすのではなく、全身で伸びるようにボールと足が出会うところにお腹を運ぶイメージを持つことが大切です。
お腹とは重心のことです。重心を移動させることを意識するために、ボールに触るときには、伸びるようにボールと足が出会うところにお腹を押し出すようなイメージをしましょう。足が先に出てしまうと、まだ重心が体の後ろ(立ち足)に残ったままになりますし、足先を前に出すと、バランスを保とうとして足の筋肉が硬直します。ボールは、硬いものにぶつかれば勢いが吸収されず大きく跳ね返りますので、コントロールミスへとつながるわけです。
このように、足を前に出して、重心が伴わない状態で移動するときには、自分の体重を立ち足で押しだしてあげないと体は移動しません。これを『体重移動』といいます。
一方、重心が先に移動してそれを足が拾うように移動するのを『重心移動』といいます。立ち足を踏み込まないでも次の足が勝手に前に出てくるので、パワーの必要な体重移動と比べると、疲れ方にも違いがでてきます。反復横とびが疲れるのは、進行方向と反対側の足で全体重を押さなければならない体重移動だからです。
重心移動ができれば、体力的にきつくなる夏場でも少しのエネルギーでプレーすることができるのです。
【人間が歩くときには、意識をしなくても、足が自然に前へと出てくるものだ。このときの歩幅が(B)のエリアとなる。この領域では足の運びが無意識になるので、ボールを扱うときにスムーズな動きとなる。対して、大股(A)と小股(C)は、どちらも意識をしないと足のでない領域になる。したがって判断の要素が入り、動きに遅れが生じるというわけだ】
無意識になるまで継続することのできる力が上達のポイント
このようなことを、子どもたちには普段の練習のときに意識して取り組んでもらっています。動作は意識をすると遅くなりますが、例えば文字を丁寧にきれいに書こうとしたときに、最初は早く書けないかもしれません。しかし、ずっと丁寧な文字を書き続けたら、それが普通になってきて、いつのまにか、すらすらと書いても丁寧な文字が書けるようになると思います。無意識になるまで継続することのできる力が上達のポイントではないでしょうか。
実際にこのようなルールを自分のプレーと向き合うキッカケにしてくれている選手たちの変化率には驚かされることが多いです。
僕は指導するにあたって、タブレット端末を持ち歩いています。練習中は小学生に話しを聞かせることよりも、お手本になりそうなプレーの映像を見せて、みんなで練習をします。すると「今日は何を見せてくれるの?」と興味をもって、「真似してみたい!」とワクワクした表情で取り組んでくれます。
小学5、6年生のゴールデンエイジは、見たものを再現する能力が高く、神経系の発達する時期ですので、映像を見ただけで、さっとできてしまうことのほうが多いものです。子どもたちに見せて、再現させて、それを継続させるようにしています。
ただ、映像は「こういう動きがあるんだよ」ということを子どもたちに伝えるのが目的です。映像を見せて説明を聞かせるのが目的ではありません。
だから、最後までじっと座って見ていなくても、理解ができた子は、どんどん取り組み始めてしまって、何の問題もありません。この説明だけは聞いてほしいというときは別として、「まだ説明中だから戻りなさい」とは言いません。逆にそういう子のほうが、好奇心が旺盛で、「あっ、そういう感じなのか!」って自分で工夫して身につけてしまうことが多いようです。
【伸びるようにボールと足が出会うところにお腹を押し出すようなイメージは、メッシのドリブルが参考になる。】
<関連リンク>
「トラップミスをなくしたい…!」人必見。力まないためのルーティン 『リセット』とは
プロフィール
鬼木 祐輔
(おにき・ゆうすけ)
1983年神奈川県横浜市出身。日本初の「フットボールスタイリスト」。頑張らない、力まない…しなやかに怪我なくサッカーに取り組めるように「ボールに対して自分の身体を扱うこと」にこだわりながら、選手たちの『ノリシロ』を拡げるためのキッカケ作りをしています。著書に『重心移動だけでサッカーは10倍うまくなる』がある。
【ノリシロヅクリ.com】
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