守備時のスペースと時間に対する感覚。そこにジュニア年代のさらなる成長の大きなヒントが隠れている【4月特集】
2018年04月25日
戦術/スキル4月の特集「ジュニア年代の課題」の第1〜3回までは、チーム全体でサッカーをオーガナイズする観点で主に攻撃の部分にフォーカスを当てることが多かった。
・ボールをUの字型に動かすだけでなく中盤を活用し、もっと子どもの育成に役立てたらいいのではないか
・ボールを持っていない選手=主役という視点を持てたら練習メニューの作り方も変わるのではないか …etc.
そこで、4月特集の最終回は「守備」について触れたい。
■第1回
「U-15」と「U-12」年代のサッカーで起こっている「課題が同じ」なのはなぜか?
■第2回
「練習したことは試合に出る」。湘南ベルマーレの監督と主将がレアル戦で感じた課題とは?
■第3回
ボールを持つ選手=主役ではなく、保持者外=主役の価値観がジュニア年代の指導に必要不可欠である
取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之
ファーストディフェンダーの奪う意識は高まったのだが…
なぜ「守備」をテーマに取り上げたのかは、すでに第2回の記事で湘南ベルマーレU-15のキャプテン・竹田舜選手がヒントを出してくれている。「U-15 キリンレモンCUP」表彰式後の合同取材で、彼が語ったコメントを一部抜粋したい。
――個人として、次の練習からすぐに改善したいこと、改善できることがあれば教えてください。
竹田選手「練習は試合に出ると思うので、今回レアルのような強い相手と戦って、もっと練習から激しくチーム内でやっていかないといけないと感じたので、そこは次の練習から改善していきたいです 」
――そこは守備の部分ですか?
竹田選手「守備も攻撃も両方です。守備が上がれば攻撃が上がるし、攻撃が上がれば守備も上がるので、どちらも意識を高くやっていきたいと思います」
攻撃と守備は表裏一体のものである。だから、攻撃力を向上させたければ守備の強化は欠かせない。そんなことは当たり前だと思っている指導者が多いと思う。確かに1対1、2対2の部分を見れば、日本チームの守備はしっかりした部分もある。
解任されたが、ハリルホジッチが「デュエル」と発信し始めたことも大きなキッカケだったことは間違いない。「チャレンジ&カバー」のチャレンジの部分の激しさは彼の就任以降は確実に強度が高まったし、ジュニア年代の試合でも実践されてきた。
ただ、ポジションを意識した守備、チームとしての守備についてはどうだろうか?
「U-12ダノンネーションズカップ2018」を取材した限りではチャレンジの部分、つまりファーストディフェンダーが抜かれてしまうとチーム全体としての守備が一気に崩れるシーンが多く見受けられた。
「チャレンジ&カバー」のカバーがファーストディフェンダーに切り替わり、ボール保持者にプレスに行くと途端にチーム全体のバランスが悪くなる。具体的にいえば、ポジションのスライドが行われず、カバー役がいなくなる。たまに守備時のスペースと時間に対する認知力の高い選手がそのカバーに入るのだが、今度はそこに穴ができてしまうのだ。
西宮サッカースクールのチームとしての組織的な守備は見事
今大会に出場するチームの中で、非常に質の高い守備をしていたのが「西宮サッカースクール」だった。昨年12月の全日本少年サッカー大会でも同クラブの守備についてはコラム(西宮サッカースクールがJクラブを封じた「守備の妙」)を書いたが、代替わりをしてもその組織的な守備は大会随一だった。
惜しくも「U-12ダノンネーションズカップ2018」は予選リーグで敗退したが、育成に定評のあるJクラブや関東屈指の強豪町クラブとも互角以上の戦いをしていた。
※「U-12ダノンネーションズカップ2018」予選リーグ結果
【グループH】
1位 バディーSC(神奈川県) 7/13/3/10
2位 東京ヴェルディジュニア(東京都) 5/11/4/7
3位 西宮サッカースクール(兵庫県) 4/8/4/4
4位 SANTOS FC SOCCER ACADEMY JAPAN(静岡県) 0/0/21/-21
<第1戦>
東京ヴェルディジュニア 2-2 西宮サッカースクール
バディーSC 9-0 SANTOS FC SOCCER ACADEMY JAPAN
<第2戦>
東京ヴェルディジュニア 2-2 バディーSC
西宮サッカースクール 5-0 SANTOS FC SOCCER ACADEMY JAPAN
<第3戦>
東京ヴェルディジュニア 7-0 SANTOS FC SOCCER ACADEMY JAPAN
西宮サッカースクール 1-2 バディーSC
西宮サッカースクールの守備の特徴は、まずボールを取られた瞬間の切り替えの早さとポジションの帰陣の早さにある。ボールを取られた選手は素早くプレスバックし、一番近くの選手がファーストディフェンダーとして間髪入れずにプレスを発動させる。その様子を残りの選手がしっかりと見ながら自らのポジションに帰陣し、チーム全体のポジションバランスを整える。その徹底は昨年度同様に今年のチームも見事だった。
さらに、もう一つの特徴はファーストディフェンダーの駆け引きのうまさにある。どの選手もパスコースを意識したポジションを取りつつ外へとボール保持者を追い出しながら、少しでも体からボールを離したらすぐ奪える間合いを取ることができるのだ。そして、守備をチームとして捉え、ファーストディフェンダーだけにとどまらず、まわりの選手たちはその様子と自分のマークとを確認しながらポジションを修正し続け、スペースと時間の穴を作らないように気を配っている。全員が「ファーストディフェンダーが抜かれても奪い返しても対応できるように予測を立てられている」のだ。
チームとして考えたら、その「どう転んでも仲間がいる」という守備が安心感につながっている。だから相手からすると、とにかく粘り強い印象を受ける。その実現方法として重要な役割を果たしているのが、チーム全体のコミュニケーションだ。各選手が常に声を掛け合いながらマークの確認や敵の動きをチェックしている。しかもゴール前では体を投げ出してシュートを防ぎ、「絶対にゴールを割らせない」という気概がある。この年代のチームではそう多く見られないことだと、私は感じている。
攻撃と守備が表裏一体であることの真意を考えてほしい
特に「U-12ダノンネーションズカップ2018」の予選グループ最終戦のバディーSCとの試合は、彼らの質の高い守備を象徴するものだった。相手のサイドアタッカーでエースの白須健斗選手を複数人で守ることなく、基本は1対1で守り続けた。
バディーSCの戦い方は、この大会屈指のスピードあるテクニシャンがサイドを崩すことがベースになっている。だから、大部分のゴールシーンは白須選手から生まれるのだが、西宮戦では1対1でなかなか自由にプレーさせてもらえなかった。彼に抜かれて喫した失点以外はチャレンジ&カバーと周囲のスライドで対応できていた。チーム全体としてしっかりと守備を行うことで、逆に個人の課題とチーム課題が明確になる。そう考えると、積み重ねにもつながっている。
そういう守備の影響もあるからか、西宮サッカースクールの選手たちは1対1のボールの持ち方がとてもうまい。もちろん個人にフォーカスした指導を行っているからボール扱いが上手いこともあるだろうが、ボールの持ち方が相手との間合いや角度、周囲の状況を探る目といった試合に生きる技術として体に染み渡っている印象を受ける。それは周囲との関わりを持ってプレーしている証拠だ。
ちなみに、OBには先日オランダ1部リーグのフローニンゲンに完全移籍したことを発表した堂安律選手など、数多くのJリーガーを輩出している。
ちょっと話が脱線したが、攻撃と守備は表裏一体だ。しかもサッカーが11対11で戦うチームスポーツであるとすると、たとえジュニア年代であっても個人にフォーカスしたトレーニングだけでは学べないものがある。サッカーがボールスポーツだから、日本では攻撃面だけに目が向けられがちだが、それは守備も同じことだ。
バスケットボールやハンドボールといったボールスポーツでは、小さい頃から「チーム全体で素早く帰陣し、自分のポジションにつく」ことが当たり前のように叫ばれているのに、サッカーではどうして言われることが少ないのか? チーム全体としての陣形をベースに守備も語られないのか、あるいは語られることが少ないのか?
試合になればそれぞれの選手に基本的な持ち場=ポジションが与えられているのに、どうして多くの指導者が個人にフォーカスした物言いになってしまうのか。
それは選手に対して、状況を前提に話をしていないからだ。ミスとして起こった事実をその子に突きつけ、状況を理解させることも、その解決方法を一緒に考えることもしない。状況を前提に話をするということは攻撃側と守備側の視点があるということで、立場が違えばどちら側にも学ぶものがある。そうやって状況を前提に話をするから、子どもたちもサッカーをサッカーとして理解することを深めていくのではないだろうか。
ミスしたらその選手だけが悪いのではない。
成功したらその選手だけが良いのではない。
チーム全員に問いかけ、チーム全員を褒めるからそれぞれのポジションで一生懸命にプレーしている選手たちが「オレはチームの一員だ」、そして「チームのために今何をすべきか」を考え続けるのだ。それがボールがあろうがなかろうが、攻撃であろうが守備であろうが、チームとして全員で戦うことの意味なのだ。
守備においては「抜かれたら?」、攻撃においては「行き詰まったら?」を同時に想定して指導しなければ、子どもたちの成長に前進はない。それを別々に考えるのではなく、状況を通せば攻撃側にも守備側にも学ぶ場になることを理解し、指導者は子どもたちとサッカーを通じて数多くの言葉を交わさなければならない。
■第1回
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