観客を魅了する美しいパスサッカーが生まれた理由とは? 哲学で読み解くサッカー思想史
2015年12月22日
サッカーエンタメ最前線イングランドに勝つために生まれたスコットランドのショートパス戦法
スコットランドがショートパスによるサッカーを開発する前、先にあったのはイングランドのロングパスを主体とするサッカーだった。ルールも現在とは違っていて、例えば相手の脛を蹴って撃退するハッキングという技術(?)が認められていた。
ハッキングを禁止しようとするグループと容認派の対立が、サッカー協会とラグビー協会の分裂につながっていくのだが、容認派はハッキング禁止を「男らしくない」として拒んだ。パスもまた「男らしくない」行為とされ、ロングパスを追って突進するか、ドリブルで行けるところまで突き進むのが、どうやら19世紀当時のサッカーだったようなのだ。
猛々しいイングランド式のサッカーに対して、フィジカルの不利を自覚したスコットランドが「パス」を使って新たなサッカーを切り拓いた。ショートパス戦法が確立した後の1872〜82年の10年間に行われたイングランド戦で、スコットランドは7勝2分2敗と圧倒的な戦績を収めている。
スコットランドがショートパスを使ったのは、地理的な要因からだという説もあって、強風の吹く〝ハイランド〟ではロングパスがあまりアテにならなかったということらしい。いずれにしても、ショートパス戦法はロングパス戦法に対して優位だった。「技術」のサッカーが「体力」のサッカーを凌駕したともいえる。
プレースタイルとして両極にあったスコットランドとイングランドだが、まだこの時期の対立は勝つためのアプローチの違いであって、右翼左翼と形容されるほどの思想的な対立ではない。イングランドのサッカーは右翼というより、中世に農村で行われていたルールもあってないような荒々しいサッカーの面影を残した、近代サッカーの「原点」であり、スコットランドのショートパス戦法はその発展形といえる。
<関連リンク>
・『ジュニアサッカーを応援しよう! VOL.39』
・『欧州フットボール批評special issue03』
プロフィール
著者:
西部謙司
1962年9月27日、東京都生まれ早稲田大学教育学部を卒業し、商社に就職するも3年で退社。学研『ストライカー』の編集記者を経て、02年からフリーランスとして活動。95年から98年までパリに在住し、ヨーロッパサッカーを中心に取材。著書に『1974フットボールオデッセイ』『イビチャ・オシムのサッカー世界を読み解く』(双葉社)、『Jリーグの戦術はガラパゴスか最先端か』(東邦出版)、『戦術リストランテIII』(ソル・メディア)、『サッカー戦術クロニクル』『眼・術・戦』『サッカー3バック戦術アナライズ』『サッカーFW陣形戦術クロニクル』(小社)などがある。
【商品名】サッカー右翼 サッカー左翼 監督の哲学で読み解く右派と左派のサッカー思想史
【発行】株式会社カンゼン
【著者】西部謙司
四六判/256ページ
2015年12月17日発売
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