岡崎慎司の成長物語。「どこにでもいるサッカー少年」が本気でプロを目指すまで
2018年06月28日
育成/環境母が言い聞かせた「2つ」の言葉
少しずつ頭角を現していく息子の姿を、富美代さんも喜んで見守っていた。しかし、アスリートというのはちょっとしたことをきっかけに、いつ下降線をたどるかわからない。目に見えない落とし穴が待っている可能性もある。思春期の頃は特にメンタル面が不安定になりがちだ。
元アスリートの母はその怖さと難しさをよく知っていたからこそ、息子たちにできる限りのアドバイスを送ろうと考えた。岡崎兄弟が中学生から高校生になる頃、富美代さんが言い聞かせたふたつの言葉がある。
「大丈夫。すべてはうまくいっている」
「積みたてと引きだし」
これを口癖のように言っていた。
「前者の方は、ポジティブシンキングになってほしいという願いをこめて話しました。スポーツは何が起きるかわからない。ケガもあれば、メンバーから外されることもある。そういうマイナスなことがあっても、トータルで考えればいい方向に進んでいる。そう考えれば気が楽になりますよね。そういう気持ちを伝えたくて話しました。
もうひとつの方は、人生はいいことと悪いことがあることをまず知ってほしかった。うまくいっていないときは、その後のために積み立てている時期。うまくいっているときは、それまでの貯金を引き出している時期なんです。だから困難にぶつかった方が、よりたくさんのことを積み立てられる。逆に頑張らなくて結果が出てしまったときは、もっと積み立てないと後から大変なことになるかもしれない。そういう前向きな精神をもって、サッカーにまい進してほしいと思いました」
富美代さんは「七つの習慣」というスティーブン・R・コヴィーの著書から、この言葉を知って「その通りだ」と実感。子どもたちの啓発に役立てようと考えたのだ。母のそんなアプローチが非常に役立ったと兄・嵩弘さんは感謝する。
「うちの母親はマイナスなことは絶対に言わない人でした。『やればできる』といつも背中を押してくれた。自分や弟が『ムリだ』とか泣き言を言っても、『マイナスのことを活かせばいいんだから』と励ましてくれた。そういう母の考え方に勇気づけられたのは確か。影響はかなり大きかったと思います」
兄・嵩弘さんは2000年に強豪・滝川第二に進んでいるが、この進路に関しても、母譲りの「プラス思考」で、貪欲にアプローチした。
「実のところ、僕は滝二のセレクションに落ちているんです。宝塚ではGKとフィールドを両方やっていたので、テスト時にGKをやらされたのが悪かったのか、最初はダメだしを食らいました。でも自分は本来GKだけやっているわけじゃないし、本当の力をわかってもらっていないと思った。だから、黒田先生がインターハイに行っている先まで電話して『何で落ちたんですか?』と聞いたくらい。それでもう1回セレクションを受けさせてもらえることになり、何とか合格したんです」
「嵩弘っていうのは、弟に輪をかけた努力家で、根っからの頑張り屋。落とされた理由を聞いてくる中学生なんか、私はそれまで見たことがなかったですからね。二回は断りましたが、あいつの熱意に根負けして、三度目のテストで入部を許可しました」(黒田前監督)
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