“次世代選手”育成のキーワード。サッカーにおける「インテリジェンス」の意味/倉本和昌×坪井健太郎 対談①【12月特集】
2018年12月14日
育成/環境12月の特集のテーマは「サッカー選手に必要なインテリジェンス」である。今回はスペイン上級ライセンスを日本人最年少で取得し、Jリーグの育成組織で指導経験を持つ倉本和昌氏と、長年、スペインの地で育成年代のカテゴリーを指導し、指導力アップのためのオンラインコミュニティ「サッカーの新しい研究所」を開設した坪井健太郎氏による対談を実施。スペインサッカーに精通し、「指導者の指導者」としても活動する二人の識者に育成に関係する話を多岐にわたり語って頂いた。第1回のテーマは「インテリジェンスがある選手とは?」である。
【12月特集】サッカー選手に必要な「インテリジェンス」とは 倉本和昌×坪井健太郎/対談
取材・文●木之下潤 写真●佐藤博之、ジュニサカ編集部
スペインで指導を経験する二人の識者が語る「インテリジェンス」
――まず、お二人の解釈で「インテリジェンスのある選手とは?」、また日本で言われる「うまい選手」を教えて下さい。
坪井「サッカー自体がものすごく変化が激しいスポーツに進化しています。5年前くらいであれば事前にプランニングされたチームのプレーモデル、そしてチームが与えた個人のタスクがあって、それをどこまで遂行できるかが重要でした。最近のトップレベルのゲームや私がいるスペインの現場では、試合中にシステム変更したり、戦術変更したりするスピード感がものすごく速いです。
今後、この傾向はもっと強くなっていくと思うので、選手に何が求められるかと言うと『状況に応じてピッチで何をしなければならないかを、きちんと解釈してプレーを選択できること』が求められます。インテリジェンスと関連付けて考えると、それができるためには『状況認知して、何をするかを決めて、それをテクニックアクションとフィジカルコンディションレベルを高いレベルに保ちながらプレー仕切れる選手』が必要とされる流れになってくと思います」
――坪井さんの目から見て、日本で言われる「うまい選手」をどう見られていますか?
坪井「ボール扱いに目が向かっているのかなと想像しています。そこが第一で、その次に判断だったり、プレーの理解がどの程度達したりしているのか、と。そこは逆に日本の現状を聞きたい!」
倉本「ツボケン(※倉本氏が呼ぶ坪井健太郎氏の愛称)も傾向として言っていましたが、僕が思うインテリジェンスのある選手は、求められている要素として3つしかないと思っています。『判断の質』と『判断のスピード』、『それに対する実行のスピードがどれだけ早いか』。このことは人種や年齢に関係なく、ずっと求められている要素です。今の時代は戦術的な変化もありますが、身体的なレベルアップはすでにトップレベルにおいて極端な差がなくなってきています。そして、技術レベルも、戦術レベルも差がありません。
ホルスト・ウェインという人が30年ぐらい前から言っていることは、勝負の決め手はインテリジェンスで、賢い準備だと。それ以外はほぼ同じレベルだと発言していました。『世界のトップレベルはそこに関すること以外変わらないから、それでも勝ちか負けかが決まるのはインテリジェンスが決める』と。『小さい頃から遊ばせないと身につかない』ということは、ずっとホルスト・ウェインが言っていました。そういう意味で言うと、日本人の『ボール扱いがうまいかどうか』という評価基準は『その子がやりたいことをその状況でやっているかどうか』です。つまり、『やれてるからいい選手』となっています。その状況で本当にやるべきだったかどうかというところに目に向いていません」
――「自分以外が含まれていない」ということですね。
倉本「ある意味、『俺これやりたい→やりました→できました→すごいね』。本当にそうなの? それやる必要あったの?『立ち位置はこの方が良かったのか』という話になっていかないのは、そこを見る目を持った人が少ないからだと思っています。本当に、そこに立っていた方が良かったの? そのタイミングで動き出した方が良かったの? そういうのが見えないわけです。
目に見えないものを操る力と言ってしまうと変ですが、イニエスタを見てるとわかるんです。彼は、相手の矢印が見えているんです。プレッシャーがかかりそうか、かかりそうじゃないか。遠くであっても狙っているのかどうか。近くでも狙っていない場合があると思うんです。その矢印の逆を取ったりとか、相手が出てきてもそれを外したりとか、相手を出ないようにさせたりとか。そこをコントロールしているかどうかです」
【スペインサッカーに精通し、優秀な指導者を育てる活動をしている倉本和昌氏(写真左)と坪井健太郎氏(写真右奥)。特集の企画を担当しているライターの木之下潤(写真右手前)】
イニエスタが見せる相手の意思さえもコントロールするプレー
――確かに、イニエスタは相手の意思もコントロールしている感じがします。
倉本「相手の選手を見ながら『この立ち位置で、今この瞬間動いたらどうする?』をボールの状況に合わせてやっているからすごい! それが11人シンクロしていたのが一番良かった時代のバルサだったりします。『この人に入って来てほしいから、先に自分がアクションを起こしていて相手を引っ張って行ったり』とか。すごく細かいところですが、その瞬間にチームにとっていい状況が作られているわけです。そして『その時に選択肢がいっぱいあるけど、どうするの?』と味方同士でそういう状況をずっと作り続けています。だから、指導者を含めて、日本の人たちは見ているところがちょっと違うんじゃないかと思います」
――お二人の話を聞いて思うのは、「自分の意思だけでプレーをする」頭を働かせたかどうかが日本のいいプレー基準になっているように思います。でも、スペインをはじめとする世界のトップレベルは、他人の影響を受けた上で、自分がどう成功に持っていくのか。そこが日本のインテリジェンスに抜けているところなのかな、と。
坪井「そもそもサッカーというスポーツに対する概念がヨーロッパと日本では違う気がします。スペインをはじめとしたヨーロッパのサッカーは、チームスポーツという解釈。『相手がいて、ボールが一個あって、決められたピッチがあって、その中で自分がどうプレーするのか』がサッカーというスポーツなんです。たぶん日本の中だと、見方が逆に向かっている気がします。
自分がいて、徐々に周りの要素を巻き込んでいきます。
『まずチームがあって、個人を巻き込んでやるスポーツだ』という概念を、日本の指導者たちが押さえていないのかなと感じます。スペインではそれが当たり前なので、親との会話もチーム的な方向に向かいます。『チームがこうしたい中で、自分のパフォーマンスはどうだった?』と。もしそれが押さえられているのであれば、ジュニア年代であろうと、監督の話も『チームがこういうふうにプレーをしたいから、その中で君の仕事はこれとこれとこれだよ』というふうに流れていくと思うんです。
一例ですが、日本とスペインの選手たちで少し違いがあります。それは監督が来る前にやっている遊びです。それを比較すると、現象が異なります。日本の子たちはでは対面パスや対面キックが多いのに対し、スペインの子たちはパス回しをやります。ここも一つサッカーの解釈の違いが出ている一面だなと感じています」
――全国大会レベルのチームを取材すると気づくのですが、レベルの高いチームだとパス回しをすることが多い傾向にあります。その一方で、地域の町クラブをのぞくと対面パスとか対面キックとかをしていることが多いように思います。
倉本「日本人の方が空気を読めるんだから、チームプレーはうまいはずなんです。だから、サッカーの解釈に問題があるんです。技術がしっかりしないと次に進めないことを、一人ひとりが指導者に刷り込まれています。
日本はサッカーを家だと捉えていて、土台がしっかりしないと立たないと思っているんです。でも、彫刻に例えると掘っていけばいいわけです。漢字の書き取りが全部できないと、長文読解に進んではいけませんと言われているようなものです。でも、どっちも必要ですから。『技術がちゃんとしないと、この子が次のステージに行った時に困る』と言ってばかりいて、技術ばかりをやっていて、でも本当は戦術の部分で困っています。
リフティングは上手い、ボール扱いは上手い、でもキックは下手。サッカーって最後にボールが足から離れてプレーが終わりますよね? その最後のプレーがいつも良くないんです。試合もそこを見なくて途中のドリブルには「おお」というけど、最後のラストパス、最後のシュートの部分はほとんど反応しないんです。だから、『いい選手っぽく見えるけど』で終わってしまうんです」
※選手及びチームは記事の内容と関係ありません。
キック一つで解釈が変わるから選手の獲得するものが欧州とは違う
坪井「キックの種類が少ないよね。サイドチェンジとか、ライナー性のキックとか…先日イニエスタが見せたループパスとか、キックの使い分けとその種類の豊富さに目を向けると、日本人の選手はちょっと数が少ないと思います」
倉本「持ち運びながらそのままポンと浮かぶボールを出したりとかできないよね。ドリブルで運びながら、相手のモーションを見てキックを変えるとかって得意じゃない。僕はとにかくキックが強いボールを蹴れないという印象です」
坪井「それって何で?」
倉本「それを大事だと思っていないのが一つ。よく見かけるのは、体重が乗っているボールを蹴れなくて、それによってフリーなのにフリーじゃなくなっている状況。それはボールスピードが弱いからなんだよね。そのことに対して、みんな違和感を感じていません。『まぁ、しょうがないよね』って。もっと強かったらスパンとボールが通ってフリーの状態なのに。特にチェンジサイドする時とか、バックパスをする時とか、結果的にキックの質が悪くて展開を変えられていません」
坪井「筋力の問題はどうなの?」
倉本「小学生だったら、ある部分はあると思う。でも、高校生の場合は違う。というのは、自分がいたクラブが絶対だとは思いませんが、ダービースターというボールを使っていました。オランダのボールで少し重たいのですが、ジュニアユースは試合も練習も必ず使用していました。すごく重たいので中学1年生だと慣れるまではボールが飛ばなかったりしますが、使っていくとだんだんスイングするインサイドキックで蹴ったり、インステップでカットボールを蹴ったりするようになります。日本は、とにかくキックがうまいと思える子どもが少ないです」
坪井「蹴られないからピッチ全体が使えませんし、だからピッチ全体を使わないことを前提に戦い方がプランニングされています。負の相互作用が働きあっていますよね」
倉本「距離感がより近くなっていきます。トランジションが何度も起こるような状況です」
――そこは指導者によるところが大きいと思います。 そもそも日本人の子どもたちは「強いボールを蹴ることができない」という思い込みからスタートしています。「だから、距離感を詰めなければ」と。
坪井「ゴールキックをカットして1点みたいな」
倉本「でも、今度ルールが改訂されるんだよ。ゴールキックはペナルティエリアの中で受けてOKになるんだよ」
坪井「そうなると、どうなるの? 寄ってく? そうするとゴールキックカットで即1点にならない?」
倉本「あえて寄らせて落としてトンとか」
坪井「どこまでそれをチャレンジさせる指導者がいるかどうかだよね。戦い方によって選手の伸び率や選手が獲得するものが変わってきますからね」
――おっしゃる通り、指導者によります。長い距離のパス交換をすることで視野が広がるだとか、そういう観点がないのである種「最近はキックが軽視されている部分がある」と個人的には思います。指導者がサッカーの構造を認識していればバランスのいいトレーニングをしているはずですが、何かが抜けている現状があるのかなと感じるところです。
倉本「実際に、小学生が覚えていくことも増えています。でも、フットサルコートで練習しなければいけない現状があったりするので、『キックの練習ができないようね』という現実もあると思います。そうすると、ドリブルをいっぱいやった方が人もいっぱい入れ込めるから」
――そこは都市部と地方では大きな違いがあります。特に、キックについては。でも、だからと地方の町クラブが戦術的なトレーニングをしているかと問われるとそこは疑問です。
倉本「スペイン人なんて自主練はしないしね。そもそもグラウンドが使えないし。本当に1時間半トレーニングしたら帰りますから。下手したら日本人の練習量の半分くらいです」
【12月特集】サッカー選手に必要な「インテリジェンス」とは 倉本和昌×坪井健太郎/対談
<プロフィール>
倉本 和昌(くらもと かずよし)
高校卒業後、プロサッカーコーチになるためにバルセロナに単身留学。5年間、幅広い育成年代のカテゴリーを指導した後、スペイン北部のビルバオへ移住。アスレティック・ビルバオの育成方法を研究しながら町クラブを指導し、2009年にスペイン上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後、大宮アルディージャと湘南ベルマーレのアカデミーコーチを計8年間務めた。現在はスペインと日本での経験を活かし「指導者の指導者」として優秀なコーチを育成するサポートをしている。
坪井 健太郎(つぼい けんたろう) CEエウロパユース(スペインユース1部)第二監督
1982年、静岡県生まれ。静岡学園卒業後、指導者の道へ進む。安芸FCや清水エスパルスの普及部で指導経験を積み、2008年にスペインへ渡る。バルセロナのCEエウロパやUEコルネジャで育成年代のカテゴリーでコーチを務め、2012年には『PreSoccerTeam』を創設し、マネージャーとしてグローバルなサッカー指導者の育成を目的にバルセロナへのサッカー指導者留学プログラムを展開。2018年10月には指導力アップのためのオンラインコミュニティ「サッカーの新しい研究所」を開設した。著書には『サッカー 新しい攻撃の教科書』、『サッカー 新しい守備の教科書』(小社刊)がある。
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