GK育成は「ボールは怖くない」と思わせる環境作りからスタートする【5月特集】
2019年05月22日
育成/環境5月は「GKの育成に向き合う」を特集テーマに、二人のGKコーチに話をうかがっている。まず一人目は日本とタイでプロとして活躍したノグチピント・エリキソンさん。第二弾では『GKとしてのメンタルの根本的な捉え方』『GK視点でゴールを守ること』『自分の守備範囲と失点の原因の関係性』などを語ってもらった。第三弾では自身がGKコーチを務めるグランデFCのスペイン遠征での得がたい体験から、ジュニア年代における早期のGK固定がはらむリスクまでをじっくりと聞いた。
【5月特集】GKの育成に向き合う
文●木之下潤 写真●ジュニサカ編集部 取材協力●株式会社ビィズデザイン
スペインのGKは全体を動かす指示がなかった
――前回ご説明いただいた「自分の守備範囲と失点の原因との関係性」といった観点でジュニアユースの選手たちに話したりはしますか?
ピント「試合中の立ち位置、またミスしたときに『ひとつ前の段階に目を向けること』などの話はしています。立場として、GKがゴールを入れられるかどうか、そしてDFが相手に抜かれるかどうかは同じです。結果が違うだけで、GKはゴールを守ることが仕事だから味方には言わないといけないんです。
例えば、DFがこの場面で抜かれたらシュートを打たれてしまうところで、むやみに交わされてシュートを許していることが失点の原因だとしたら、そのせいで失点の責任をGKのせいにされているんです。誰かの責任ではなく、誰かの責任にしないためにもひとつ前の段階、もうひとつ前の段階に遡ってみたら守備そのものはチーム全員が関わっているものです。ジュニア年代からそういう見方があることを知れば、チーム内でもう少しコミュニケーションをとることにつながってくると思います。
あと、3・4月のスペインで新しい体験をしました。それは日本のGKは声を出すんです。『ラインを止めろ』とか、『ラインを上げろ』とか。でも、スペインのGKはそういうことを言っていなかったんです。いくつかのチームとトレーニングマッチをしたのですが、意外にもGKが指示を出してなかったんですよね。もちろん、戦術的な理解度に差があったりするとは思うのですが、分かり合っているというか。
私はこれまでラインの上げ下げは、GKからも積極的に声をかけなきゃいけないと思っていたんです。理由は、最後尾から見ているから。ラインを上げることによって『GKが前に出るスペース(プレースペース)を確保する』意味合いもあります。結局、ラインを上げたら相手からするとスルーパスが選択肢として大きな割合を占めますから。
でも、今回のスペイン遠征で感じたのは、どうやら考え方が逆のようです。DFラインの上げ下げに応じて、GKがポジションを変える。動かすというよりも動かされている感覚です。日本のGKはやたら言いますよね。もしかすると、そういうところにも世界とのレベルの違いが出ているのかもしれません」
――声をかけないということは「GKとDFライン、もしくはフィールドの選手との間に高い相互理解」が必要になると思います。
ピント「そのとおりなんです。統率がとれ、戦術的に高い相互理解がないとできないことです。バルセロナやバレンシアの下部組織の試合を見たのですが、GK中心の指示はほとんどしていませんでした。せいぜいコーナーキックやセットプレーで個人的な指示を出すくらいで、チーム全体を動かすような指示をしていることがなかったんです。そういう部分を含め、さらに深く勉強しなければいけないところです。埼玉にエスパニョールのスクールがあるので聞いてみようと思っています。
観察していると、スペインは出だしが緩くスタートをしているんですよ。GKコーチを務めるグランデFCも先制点を決めることができたし、『えっ、先制点が取れたの』ってなりました。でも、後半に入って3点、4点とゴールを奪われました。スロースターターだなと感じても、最後には目の色を変えてギアを上げてきます。同年代でも考えていることが違うし、その速さもかなりの差があります。日本がそれだけサッカーの進歩が遅れているんだろうなと感じました」
――時間も残り少しなので、他の質問もさせていただきます。「GKになりたくない」要因はいくつかに分けられると思うんです。そのひとつが環境的なもの。それこそ第一弾で話したように「お手本となるようなGKのシュートストップのシーンを見ていない」というか、イメージ的なものです。ただ、そこはもしかすると人工芝のグラウンドか土のグラウンドかという点でも変わるのかもしれません。
ピント「人工芝か土かという環境に関して言えば、随分違います。あと個人的には、性格の部分もあると思います。だいたい性格に目を向けると、『この人はこのポジションだな』というのが感覚的に分かるんですよ。どちらかというとDFは几帳面。自分が関わるプレーエリアをバラバラにしたくないから。ストライカーは大胆だし、少しネガティブにいうと大雑把な面を持っていると思います。ただ、そうじゃないとストライカーはやれないとも思います。きっと几帳面なストライカーってシュートも打てないんじゃないでしょうか(笑)。中盤の選手は気配りができる人が多いですよね。ボランチとか、まさにそうです」
――そういう意味でいうとGKはどういった性格でしょうか?
ピント「ボランチに似ている感じがします。気の利く部分です。よく子どもたちにいうのは『気づかないよりも気づけたほうが何かあったときに役に立つよ』ということです。それは日常生活においても同じです。練習からでも、日ごろからでも気づいて行動に移すことは、試合に生かすかどうかに関わってきます。だから、例えば“今”目の前のことには気づいていたけど、『ただ行動していないだけです』というのは『気づいてないことと一緒だよ』と口酸っぱく伝えています。あと、ズル賢さもGKにとっては必要な部分だと思います。例えば、何かを買ってもらいたいときに『お母さん、お手伝いするから買っていい?』と、買う方向に物事を持っていくのは結構大事なことだと感じています。
どれだけ気づけるか。どれだけ行動に起こすか。ただ、疲れます。試合ではたくさんのお客さんに自分のことを見られるのがいいと思っていますが、試合が終わったら人が多いところはできるだけ避けています。理由は単純で、疲れるからです。いろんなことを気づこうと意識しなくても、自分の性格的にいろんなことに目が向いてしまうので。例えば、飲みに行くときも飲み潰れることはありません。なぜなら、その後のことを考えてしまうからです。だって、みんな潰れたら大変でしょう? そういうところも自然に気を張ってしまいます」
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