ミスを避けるための反復練習ではなく、失敗するためのトレーニング。牡蠣を真珠にする指導理論とは
2023年06月10日
育成/環境前回の記事では、子どもたちの才能を開花させるためには様々な困難が必要であることを説いた。今回はバイエルン・ミュンヘンのトーマス・トゥヘルの指導法をもとに指導者に求められる練習への考え方について、『フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[導入編]』より一部抜粋して紹介する。
著●ヘルマン・カスターニョス、監修●進藤正幸、翻訳●結城康平
牡蠣なのか? それとも真珠なのか?
「間違いを恐れないでほしい。間違いは、存在しない」マイルス・デイヴィス(アメリカのジャズトランペット奏者)
ボルシア・ドルトムントなどでプレーした元セルビア代表の ネヴェン・スボティッチは新しい指導者と最初に出会ったとき、懐疑的だった。「これがどのようにサッカーと関連しているのか?」と彼は困惑していたのだ。トーマス・トゥヘルの手法は、選手に彼が「新しい思考パターン」と呼んでいるものを与えるものだった。
ミスを避けるために何度も何度も繰り返しトレーニングすることを重要視する人々に対して、トゥヘルはディファレンシャルラーニングと失敗にすべてを託す。彼は失敗を愛しており、選手たちに何度もミスをさせることを好む。それによって選手たちはピッチにおける意思決定のスキルを学んでいくのだ。マインツのドレッシングルームにトゥヘルは、マイケル・ジョーダンの有名なフレーズを掲示していた。
「私はこれまでに、9000本以上のシュートを外してきた。私はこれまでに、約300試合敗北してきた。26回、私は決めれば勝利となるシュートを任され、それを外してきた。人生で何度も何度も失敗してきたから、私は成功した」
指導者はサッカー選手を牡蠣にも真珠にも変えることができる
ギジェルモ・バルベルデらがトゥヘルのメソッドを解説した2015年の記事において、スティーブン・ナフマノヴィチのコメントが引用されている。
「真珠は、どのようにつくられるのだろうか? 少しの砂岩が誤って牡蠣の貝殻の間に到達すると、牡蠣はそれを包み込み、滑らかな粘液を分泌する。これは、美しく、完全に滑らかで、丸く、光り輝くようになるまで、異物の刺激をきっかけに微細な層を重ねていくのだ。異物の刺激の上、微視的な層の上に層を強化していく。このようにして、牡蠣は砂岩とそれ自体を新しいものに変え、失敗や異物の侵入をその機能の一部になるまで変換し、牡蠣としての自然に応じたゲシュタルト(豊かな全体性)を完成させる。真珠は、牡蠣が長時間イライラさせられる刺激とともに生きることを余儀なくされているために生まれるのだ 」
誰が牡蠣だろう? サッカー選手だ。
誰が真珠だろう? サッカー選手だ。
誰が砂岩だろう? ヴィセラルトレーニングだ。
牡蠣を真珠にするのは誰だろう? 指導者とコーチングスタッフだ。
矛盾しているようだが、指導者はサッカー選手を牡蠣に変えることもできるし、真珠に変えることもできる。
世界中のさまざまな専門家が、失敗の重要性を信じている。行動神経科学者のゲルシ・トーレス=オビエドは「失敗の増加は、運動学習において重要な役割を果たす」と主張している。
全文は『フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[導入編]』からご覧ください。
【商品名】フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[導入編]
【発行】株式会社カンゼン
【発売日】2023/06/06
【書籍紹介】
アルゼンチン発 科学×本能の融合
教育・芸術の創造性にも通ずる「無意識」をトレーニングする新たなパラダイム
神経科学の実用→瞬間的な認知の獲得→プレー実行スピードの加速
アーセン・ヴェンゲルは「サッカーの試合を変革する次のカギは、神経科学だ。次に学ぶべきステップは、脳のスピードなのだ」と言った。なぜなら、現代サッカーは肉体的、戦術的ともにもはや極限のレベルに到達し、リオネル・メッシが1秒でプレーを解決するように、今や無意識下でのプレーを覚醒させるフェーズを迎えているからだ。2022年のカタール・ワールドカップを制したアルゼンチン生まれの「ヴィセラルトレーニング」は、神経科学を実用的に用い、無意識をトレーニングすることで、瞬間的な認知を可能にし、プレー実行スピードを加速させる。ドリルトレーニング、アナリティックトレーニングといった伝統のトレーニングを覆し、エコロジカルアプローチ、ディファレンシャルラーニングのさらに上を行く、「本能、直感を刺激する」先鋭のトレーニング理論がいよいよベールを脱ぐ。
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