「見る力」を養う。まず“見えて”いなければ努力をしても意味がない【サッカー外から学ぶ】
2019年06月27日
育成/環境
【線を描くという行為は「手や腕だけでなく腰や足、全身を使った運動」だと成冨さんは話す】
実は体育会系? 「絵を描く運動能力」を鍛えるトレーニング
「もう一つ、デッサンが重要なのは、絵をうまく描くための身体能力を上げるのにも役立つんですよ。美術は“文化系”だと思われるかもしれませんが、線を描くという行為は手や腕だけでなく腰や足、全身を使った運動なんです。ものをよく見て、目から入ってきた情報を脳で正確に把握、分析して、そこから先はもう本当に運動になっていく」
ここからはみなさんにも馴染みのある話だと思うが、運動、身体動作はトレーニングで鍛えられる。
「デッサンは椅子に座っておとなしく描いているイメージがあるかもしれませんが、全身を使わなければいけない。手元だけで描いてきた人は、デッサンの動き方から教わらないといけません。『こんなに動くと思わなかった』という感想はよく聞きますね。うちの講師も、フルマラソンを走っている人やボウリングでプロはだしの人、何らかスポーツをやっている人の割合が高く、身体能力も高いです」
繰り返しになるが、絵の才能、うまく描けるかどうかは意外にも身体操作がスタートになる。
「10人中9人、大抵の人は芸術性うんぬんではなくここからスタート。『見る力』は、ブランクによって衰えるということはあまりありませんが、『テクニック』は衰える。これって、スポーツのブランクで動けなくなったりするのと同じなんです。多分サッカーでも、動けなくなっても、試合の流れとか選手の動きを見る力はそれほど衰えないと思いますけど、自分でやるとなるとまた別ですよね。だから『見る力が大切だ』とも言えるし、絵をうまく描くためには一生トレーニングして『描くための運動能力』をキープしなければいけないとも言えるんです」
絵をうまく描くことのインプットである「見る力」とアウトプットである身体操作。そのどちらも、トレーニングによって鍛えられるという話は、門外漢、特に絵がうまく描けない人によっては朗報だろう。
「絵は“みなさんのおっしゃるような才能”ではなく練習ですよ。トレーニング」
成冨さんの言外には、同時に、やり方を間違っていたらどんなに枚数を重ねても身につくトレーニングにならないというメッセージが込められている。これはサッカーに当てはめて耳が痛い人も多いかもしれない。
「結局、上手くなるコツは練習することなんですよ。できるだけ無駄を省いて、適切な訓練が出来るようお手伝いしています。練習を避けられないのであれば、せめて楽に、楽しく続けられるようにと考えています」
通常こうした連載では、速効性の高い「何かの答え」を提示すべきなのだろうが、かなり参考になるノウハウを提供してもらったあとで絵の世界でも「近道なし」と断言されるとなんだか清々しい気さえする。
次回は、「才能」と「センス」、「トレーニングで才能は鍛えられるか?」の総集編として、絵とサッカー、芸術とスポーツのより個別具体的な話から共通点と相違点を探っていく。
成冨ミヲリ(なりとみ・みをり)
デザイナー・アニメーター・シンガー。東京藝術大学美術学部工芸科卒。ゲーム会社などを経て2002年に有限会社トライトーンを設立。商業施設の企画デザイン、TVCMのCG制作、アニメDVDの監督など活動は多岐にわたる。プロ向けのデッサンスクール「トライトーン・アートラボ」で講師を務め、主な著書に『絵はすぐに上手くならない デッサン・トレーニングの思考法』などがある。twitter
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