指導者の「色」がはっきりしないチームはポジショニングも決まらない/倉本和昌×坪井健太郎 対談③【12月特集】
2019年01月11日
育成/環境12月の特集のテーマは「サッカーに必要なインテリジェンス」。それに伴い、スペインサッカーを熟知している倉本和昌氏と坪井健太郎氏による対談企画を実施した。世界に通用する指導者育成コーチとして活動している二人の言葉から選手を育てるヒントを掴み取ってほしい。インタビュー第2弾(「インテリジェンス」をどう育てるか? その答えは「環境」にある)の続きからお届けしていく。
【12月特集】サッカー選手に必要な「インテリジェンス」とは 倉本和昌×坪井健太郎/対談
取材・文●木之下潤 写真●Getty Imagesジュニサカ編集部
倉本氏新著『勝利と育成を両立させる新時代のサッカーコーチングマニュアル』発売中!
スペインではメディアもサッカーを言語化できている!
――まさに最高の教科書です。イニエスタについては読者の皆さんも興味があるので、もう少し触れて欲しいです。
倉本「イニエスタのプレーを見ること。ボールを持っていない時の彼の動きを見るのは最高の教科書です。みんな声を大にして言った方がいい! ボールを持っていない時の動き、周囲との関係性を観察してみて下さい。
何が他の人と違うのか?
どうしてプレッシャーがかからず、ボールを受けられるのか?
サッカーに関わる人たちは、そういうところに目線がいかないと。テレビ放送でもいいから『ボールがない時に何をしているか』に注目してほしいです。本当なら『イニエスタ・カメラ』を作って欲しいくらい!
それくらい圧倒的な差を作っているけど、そういうことを理解していません。相手の矢印を操作しているとか、そういう部分の見えないものがわからないわけです。味方からすると最高のタイミングでスペースに来てくれているし、メディアはそういう部分を発信した方がいいと思います」
坪井「それを解説する人も大事だよね。ビジュアルですごいとわかるけど、なんでそれがすごいのかを理由付けしてくれる人も必要です。日本とスペインの実況者の言葉を比べると、全然違います。スペインの解説者は戦術的な視点を加えてくる。『ここで相手を食いつかせて右サイドに振った。サイドバックが上がってきて道を作って、クロスを上げた』と」
倉本「ラジオが顕著です。ガッツリとプレーを実況しています」
――日本では、サッカーをラジオで実況する文化があまりありません。ブラジルにもありますよね。
倉本「プレーを言語化できているわけです」
坪井「言葉だけで伝えるのって難しいよね」
倉本「でも、言葉だけでイメージが湧くよね」
――そこは大きな違いです。
坪井「サッカーを見ている子どもたちもやっぱりチームプレーが当たり前にできているし、目でも耳でも戦術的なものとしてサッカーがそういうものだと入っていくから、子どもたちも自然にインテリジェンスが養われる環境下にあります。そういうことってメディアの部分も関わってきますから」
――私はサッカーをテレビで見るときは消音にして見ています。スペインの実況者はサッカーに詳しいですよね?
坪井「大分詳しいです。サッカーメディア出身ですしね。ジャーナリストが大学で学問として学んでいます。日本は専門学校ですよね?」
――日本では解説からサッカーを学ぶと言っても、かなり限られると思います。
倉本「でも、自分から発信する人は増えてきています。それを活用するとか」
坪井「画面はテレビ、耳はYouTubeとか。それはスペインではないよね」
――ちなみに、スペインではサッカーの「YouTuber」って成立するんですか?
坪井「どうなんですかね。やれば成立すると思いますよ」
倉本「試合は実況を立てて、解説する人が2、3人でめちゃくちゃ言い合いしています」
坪井「ホルヘ・バルダーノとかしているよ。レアル・マドリードの試合の時だけ、一人称複数になるの。『オレたちはプレッシングをしているぞ』って。でも、的確に分析もしているからね(笑)」
【スペイン代表は「ユーロ2008」の決勝でドイツを破り同大会44年ぶりの優勝を飾った。】
スペイン代表の色が決まったのは2008年の欧州選手権
倉本「2008年のユーロ(欧州選手権)に優勝した時の解説者が新鮮だった。新しいスポーツメディアチャンネルの解説者です。『オレたちはできる』ってスペイン代表を応援し続けていて、その人が『ティキタカ』と言い出した。感情でしゃべるタイプの解説者ですが、みんな楽しんでいて、盛り上がっていた。『お前らはできるぞ、プジョル!』。代表の試合はそういう感じ! でも、それは過去に代表戦が盛り上がらず、注目もされなかったから。国民の代表戦に関心ないし、興味もないから。きっと、それで盛り上げようとしたのだと思います」
坪井「徐々に盛り上がっていって、ベスト4以降はすごかったって」
倉本「すごかったよ。決勝トーナメント一発目にイタリアに勝ったから、みんなが『行ける!』と。過去は大体ここで負けていました」
坪井「相手のGKはブッフォンだったよね?」
倉本「当時、『これは完全にやられる、終わったわ』と思った。ロシアとは予選リーグで当たっていたから、次は大丈夫だって」
――スペイン代表の試合が国内で盛り上がっているイメージはないですけどね。
坪井「最近は変わってきています。やっぱり一回チャンピオンになってから」
倉本「僕がスペインに住んでいた時は全然ですよ。プレーオフの試合を『2枚セットで売るから買ってくれ』的なキャンペーンを行っていました」
坪井「へー、試合はどこ?」
倉本「バレンシアのメスタージャ・スタジアム。相手はノルウェーだった。バルセロナから見に行ったけど、会場はスッカスカだった。2004年のユーロのプレーオフだったかな。2008年にユーロに直前の試合がサンタンデールでアメリカ代表とやった時もそうだった。僕は見に行ったのですが、友達から電話があって話していると『お前、どこに行くんだ?』と聞かれて『サンタンデール』と答えたら代表戦すら知らなかったんです」
坪井「代表の試合があることを知らないんだ?」
倉本「なんで知らないのかがわからない。友人と電話していて『なんでサタンデールまで行くんだ?』と聞かれたから、『スペイン代表の試合を見に行く』と答えたら『オレはスペイン人じゃない』と電話を切られました。彼はバスク人だから。そんな空気のままユーロ(欧州選手権)に優勝しましたから」
――その頃、スペイン代表ってチームプレーとしての意識が高かったのかがわかりません。もともと今のようなサッカーをしていたんですか?
倉本「『クラトロ・フゴーネス』と言われたシウバ、イニエスタ、シャビ、セスクがそろっていました。2008年のユーロで初めてそろったんじゃないかな。この4人がそろったらボールをとられない」
坪井「ジーコジャパンの黄金の中盤と似た感じ?」
――以前は、ホアキンなどサイドにはドリブラーがいたようなイメージです。
倉本「以前のシステムは『4-4-2』または『4-2-3-1』で両サイドがガンガン攻める。それこそホアキンとビセンテが活躍していた時代でした。監督がルイス・アラゴネスに変わって『4-1-4-1』にパッと変えた。『4-4-2』を採用する時はビジャとトーレスの2トップでしたが、基本は中盤の4人が並んで後ろにマルコス・セナが潰し役をしていた。そこからめちゃ強くなった。
『オレたちのスタイルはこれだ』と。
決定的だったのはラウル・ゴンサレスを外したことです。当時は、大もめしていました。彼は絶対的な存在でしたから。監督はあまりにラウルの質問が多すぎて『二度と記者会見をやらない』とその場で会見を終わらせちゃった。その後もしばらく公式の会見を一切やらなかった。そこまでやって切ったんです」
坪井「当時は日本にいたから、オレは知らない。あの時さ、予選の頃はマルコス・セナってレギュラーじゃなかったよね? トーナメントに入ってから輝き始めたよね」
倉本「みんなの立ち位置がはっきりしたんだよね。セルヒオ・ラモスが高い位置を取る。カプデビラもグッと上がっていて、チーム全員のポジション的な収まりとしてちょうどいいバランスが見つかった。それで対戦相手が捕まえられなくなった」
坪井「でも、ルイス・アラゴネスって戦術的には決め事を明確にするタイプではないよね? 人の掌握系だよね?」
倉本「そう、モチベータータイプ!」
坪井「ピッチ上で選手たちが与えられたラインナップの条件下で答えを見つけ出した感じだね」
倉本「どちらかといえば、デルボスケに近い感じ。彼はもっと温和なタイプだけど。アラゴネスは本当にすごかったから」
【スペインサッカーに熟知し、指導者育成コーチとしても活動している倉本和昌氏(写真左)と坪井健太郎氏(写真右奥)。特集の企画を担当しているライターの木之下潤(写真右手前)】
監督がチームの方向性を示すから選手の立ち位置が決まる!
――ピッチ上で立ち位置が明確になれば、それぞれの選手がリンクしやすいですよね。それを監督が主導的に行うのか、選手任せなのかで随分違う気がします。
倉本「監督が示さないと形にすらならない気がします。自由すぎるのも難しい」
坪井「選手のレベル、カテゴリーにもよるかなと思っていて、高いレベルに行くほど選手が自立しているから、ある程度のアイディアを与えたら選手間で解決するけど、ユース年代であっても下のカテゴリー(下部リーグ)だときちんと形と決め事を作ってあげないと、自由にやっているんだけど機能しているかどうかで言えば絶対に差が出ますよね。『味方と連携するかどうか』、『相手を見ながらプレーできているかどうか』という部分には差が出ます」
――そういう部分は指導者のさじ加減になってしまいます。でも、示さないといけないものは明確に伝える必要はあると思います。
倉本「そうですよね」
――どうやって指し示すものを考えていくのか。その部分の知識は大切です。それこそ坪井さんが言った「どのモーメントを切り出して、この選手がいて、彼はこんな特徴を持っているからそれを活用してボールを運び出そう」とか、そういうものがイメージできているかどうかでかなり違ってくるのかなと思います。そういうベーシックなものをどうすれば伝えられるのかな、と。お二人はセミナーを開催する側にいます。そういった部分をどう伝えていくのかはどのように決めているんですか?
坪井「僕が意識しているのは『全体から入る』こと。日本人は、個人的な部分から入りがちです。ヨーロッパだと全体のオーガナイズから入るのが当たり前です。僕もそれを前提とするのが大切だと思うから、全体のオーガナイズから入ります。全体から入り、日本人にとってわかりやすい個の部分が融合できるように意図して話しています。
どういうふうにサッカーの全体構造があるか。それをなんとなくでも理解した中で、各指導者のアイディアがどこにハマっていくのかを考える。ここがないと持っている情報が点で終わってしまいます。現状の日本の指導者は点と点を結んだ線くらいにとどまっているので、最終的にはそれを樹形図のようにして全体像として捉えて欲しいと考えています。
パソコンで言えば、フォルダをクリックしていくような感じ。一つのフォルダを開くと、いろんな要素を体系化したフォルダがあって、そこからまたクリックしていくと、そこにまつわる要素のフォルダがある。そのような感じで、それぞれが項目として体系化されて、なおかつ階層が分かれているイメージです。だから、体系化されたフォルダを作らないと話を聞いている選手も、指導者が考えていることがどこに向かっているのかが一致しません。『一致しない=機能していない』という感じになります」
――倉本さんはどうですか?
倉本「ツボケンと一緒で、いつも同じです。例えば、セミナーを開いても『今日は何について話します』と、全体像を最初に言わなければわかりません。僕は体感してもらいます。講座でもやることです。二人組みを作り、一人が積み木を持っていて、もう一人が積み木で作った完成図を持っています。そして、二人の共同作業として、口だけの説明で与えられた図の通りに積み木を作らせるんです。それは、お互いに見えない状態でチャレンジさせます。
そうすると、ほとんどの人が『三角形の端っこに、まず積み木を置いて』など細部を説明し出すんです。ある程度、みんなが形づくったところで、僕はみんなに問いかけます。
『これ、そもそも最初に何を作るかを伝えましたか?』と。
これは何なのかを先にイメージさせた方が絶対に早いわけです。例えば、『家を作ります』と言われたら『土台と屋根があるんだな。土台はこれとこれ、屋根はこれとこれが使える』とわかりやすくイメージできます。それなのに、『三角形のものを上に置いて』といきなり説明されても、積む側は『ハア?』となります。これを一度体感すると、普段の自分の話がそうなっていることに気づきます。
でも、積み木を使わず、私が『全体像から話しましょう』と言って口だけで伝えていっても流されてしまい、それが本当に大切なことだと気づきません。だから、実践してもらいます。『これとこれとこれが、全体を構成しています』と、まず全体を具体的に伝えてから『これとこれがこういう役目で、これとこれがああいう役目』と細かく説明していきます。
すると、『ようするに、こういうことね』とイメージが共通しやすいんです。何を取り組んでいくのがわかりやすい。それはサッカーも同じです。ジュニサカさんで前回受けたインタビュー内容(「目指すサッカー」がない指導者が明確な言葉を子どもに伝えられると思いますか?)とも重なりますが、指導者の中で理想のサッカーがはっきりしていないんです。
日本の指導は『どうしたい!』と伝える側がはっきりせずにモヤッとしているから、聞く側も『どこをどう直していいか、どこをどう良くしていいかもよくわからない』という状態なんです。良さそうなセミナーに行く。これはすごくおもしろそう。でも、どうやって『自分が教えるサッカー』につなげていったらいいかがわからない。そう、なってしまいっています」
選手には全体のイメージから大枠の戦い方を伝えていく
――まず、車を作ります。では、どんな車なのか。バスなのか、消防車なのか。
倉本「僕はこういうサッカーがやりたいんです。なぜならば……と説明しないと選手はわかりません。ピッチを縦に3つのゾーンに分けるのであれば、ゾーン1では『ビルドアップはこうしたい』、ゾーン2では『中盤でこうしたい』、ゾーン3では『アタッキングサードはこうしたい』と大雑把でいいからイメージを伝える。『だって、僕はこういうサッカーがしたいから』と全体のイメージがつかめたら、選手はプレーの方向性が見えてきます。そのサッカーがはっきりしなかったらプレーの基準も出てこないんです。だから、日本のチームはポジショニングも決まらないんです」
坪井「そのサッカーを作るためのフレームもなくない? みなさんはどう思っているんだろう? 『この中のフレームから選んで下さい』というものが日本にはないけど、スペインにはあるんです。それを知るから話が早い! 選ぶだけだから」
――確かに、日本には具体的に落とし込まれたフレームが存在しません。
倉本「スペインでは、そういうことをコーチングスクールで教わるわけです。『これだったら、こうやってこれを組み立てたら作ることができるよね』って。そこは監督に対して『色を出せ』と言うこととリンクします。色をはっきりしないと選手が迷うんです。正しいか正しくないかは対戦相手が教えてくれます。
ようするに、結果として出るわけです。いくら自分のやりたいサッカーはこうだと主張しても負け続けていたら『おかしいな』と思うわけです。そうすると、そこで初めて『これでいいのか?』と考えるんです。でも、色さえも出さなかったらそれにさえ気づけない。私はスペインに行ったばかりの頃、その意味が理解できませんでした」
坪井「色というか、『二つあるうちのどっちにする?』という感じです。例えば、サイドバックが上がってくる。2対2で相手がポジションを崩して来た時に『マンツーでついていくの? 受け渡すの?』という選択を10歳くらいの選手が監督に聞いてくるわけです。『どうしたらいいの?』と。スペインでは、そういうことを当たり前に求められます」
倉本「こっちが『4-2-3-1』で、相手が『4-4-2』のダブルボランチの場合、トップ下の選手が一人でダブルボランチを見なければいけない状況が出てきます。そういうときに選手は『カズ、これどうするの?』と聞いてきます。そういうときに『とりあえず、がんばれ』と答えたら『ふざけるな』となります。そこで一気に信用されなくなります。その場合、『ボールサイドにいる選手に寄せたらいいから』という指示もあるし、『別に真ん中に立っておけばいいから』でも何でもいいんです。監督としては選手にはっきりと戦術的な方向性を言ってあげなければならないし、プレーの指針を明確に伝えることが大事なんです」
――そのときに答えではなく、監督としての意見を求められているわけですね。
倉本「その通りです。チームとしての戦い方、選手のプレーの方向性を突きつけられているんです」
――そういうことを具体性を持って示すから、対戦相手がその答えがあっているかどうかをプレーとして教えてくれるわけですね?
倉本「ええ、正解かどうかは対戦相手しか教えてくれません」
――日本のジュニアにはチームに対して、選手に対して具体性を持って示す監督が少ないですからね。
坪井「フレームがあるとないとでは、指導者にとって大きいですよね」
<プロフィール>
倉本 和昌(くらもと かずよし)
高校卒業後、プロサッカーコーチになるためにバルセロナに単身留学。5年間、幅広い育成年代のカテゴリーを指導した後、スペイン北部のビルバオへ移住。アスレティック・ビルバオの育成方法を研究しながら町クラブを指導し、2009年にスペイン上級ライセンスを日本人最年少で取得。帰国後、大宮アルディージャと湘南ベルマーレのアカデミーコーチを計8年間務めた。現在はスペインと日本での経験を活かし「指導者の指導者」として優秀なコーチを育成するサポートをしている。
坪井 健太郎(つぼい けんたろう) CEエウロパユース(スペインユース1部)第二監督
1982年、静岡県生まれ。静岡学園卒業後、指導者の道へ進む。安芸FCや清水エスパルスの普及部で指導経験を積み、2008年にスペインへ渡る。バルセロナのCEエウロパやUEコルネジャで育成年代のカテゴリーでコーチを務め、2012年には『PreSoccerTeam』を創設し、マネージャーとしてグローバルなサッカー指導者の育成を目的にバルセロナへのサッカー指導者留学プログラムを展開。2018年10月には指導力アップのためのオンラインコミュニティ「サッカーの新しい研究所」を開設した。著書には『サッカー 新しい攻撃の教科書』、『サッカー 新しい守備の教科書』(小社刊)がある。
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