ジュニア指導者の理想像は“お母さん”? 選手を取りこぼさないために必要な「発育発達への配慮」
2019年08月16日
育成/環境8月の特集は「育成全体のオーガナイズ」がテーマだ。第1回(子どもたちが、サッカーを“楽しみ”ながら成長できる環境は整っているか?)は、Y.S.S.C.横浜・シュタルフ悠紀監督に育成指導の環境のあり方について話を伺った。第2回は、年代に応じたトレーニングの話から、普遍的な「人間の発育発達」に関して話が進んでいく。
取材・文●木之下潤 写真●Getty Images、ジュニサカ編集部
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年代別の考え方には発育発達が必ず必要になる
——「年代に応じたトレーニング」の話に入りたいんですけど、そこはカテゴリーのつながりがわからないと意識しにくい部分です。例えば、その次の年代でここまではやらせたいんだけど、今はすごく遅れているから「じゃあ何をやらなきゃいけないか」というように逆算できる発想がないと、つながりは見えてこないところがあります。
悠紀「確かに、理想は逆算できることですよね。トップチームがあり、こういうサッカーのために、と。育成という言葉を日本では使うけど、私は養成だと思っています。何かを養成するわけだから、そのためには様々な計画があって『この年代までにはこれをチェックしていないとダメだから、この年代ではこれやろう。その前ではこれをやろう』と、自ずとどのような過程で何をやらないといけないかというのが見えてくるはずなんです。それが種目を問わず、本来あるべきのアカデミーの姿だと感じます。
でも、仮にそういうのが何もなかったとしても、変わらずになければいけないものは『発達発育への配慮』の部分です。
成長は個々によって違いがあっても、アベレージは存在すると思うんです。もちろん、発達発育が早い子もいれば、遅い子もいて、もしかしたら3年分くらいの誤差があるのかもしれないけれど、とはいってもだいたいはプラスマイナス1年くらいの間で進んでいっているはずです。だから、自分が教えている年代の対象者がどこなのかをしっかりわきまえて指導しないと大きな間違いを起こしてしまうし、才能を潰してしまうことにもなるし、その選手をそのスポーツから失ってしまうことになるかもしれません。
この部分は、『ダブルパス』のスタッフとしてJクラブのアカデミーを回っていた時にも何度も伝えていました。なぜなら、日本のほとんどのコーチたちはトップのコーチを目指してるからです。ほとんどの指導者が自分の思うチームを作って、チームを強化して、それで指導者として現場に立っているけど、ドイツなどは違った部分があります。
例えば、子どもが好きだから、子どもの育成をしたいから、僕はジュニア年代で教えたいから、僕は高校生が好きだから、思春期の中学生とサッカーをやるのがおもしろいからなど、いろんな入り口からサッカー指導者になったりします。そこは日本では少ない部分です。もちろん、増えてきてる部分もあるかもしれないですが。
ここが一つのポイントなのですが、指導者としての修行みたいになってるんですよね。自分が将来やりたいサッカーを高校生でやってみる、中学生でやってみる、小学生でやってみると…。だから、指導時の子どもたちへの接し方が『大人のサッカー』の対応になっているんです。まずシーズンがある。そこに向けて準備しよう、と。
少年団が『夏の大会前に強化合宿に行こう』、そして『二日間走り込んで、そこで体力上げて』みたいな。トップチームのプレシーズンでのキャンプならそれもわかりますが、子どもにはその考えが必要ありません。だから、そういったところで、残念ながら『そもそも対象者が誰なのか』をわきまえていない指導者がものすごく多いです。
対象者が誰かをきちんと認識できればある程度見えてくると思うんです。やらないとダメなことも、子どもたちに対する接し方も。私が運営している『レコスユナイテッド』のコーチたちにいつも言ってるのは、『ジュニア年代ではお母さんみたいにならないとダメだよ』と。ざっくり大きく分けての話だけれども、温かさがあってヨシヨシもできて、怒るところはちょっと怒るけど、基本的には『よくできたね』と褒めてあげて、そういう包み込む指導が必要です。
ジュニアユース年代になると、よき兄貴的な、友だち的な接し方も必要です。体にも環境にも大きな変化があって、自分の体が思うように動かせなくてストレスも抱えます。だから、ジュニア年代のようなお母さん的な存在ではうざったいだけですし、お父さんみたいにガミガミ言われるのもその年代の選手にとっては嫌ですし、そうじゃなくて『俺もよくわかるよ、それ』みたいな、『大変だけど、そんなのあと数年したら過ぎるし、楽しく行こうよ』みたいな兄貴的な指導が必要です。
高校生になったら、お父さん的な。リスペクトされるとか、目標にされるとか、ちゃんとリーダーシップが発揮できるとか、やはり愛情の裏腹に厳しさを見せられるような接し方も必要になってきて、そして進む方向性だけを提示してあげて引っ張っていくような存在が必要です。
うちも一人、二人のコーチがそれぞれ全年代を見ているので、そういうことを常に言っています。『今日、小学生を指導するなら君はお母さんにならないとダメなんだよ』と。もしかしたら2時間後には高校生を教えてるかもしれないけど、そこはスイッチを切り替えないと良い指導はできないし、そこは指導者である自分たちが対象の年齢に合わせていかないといけないと思うんです。
私は、そういう点では、育成部門の指導者の方々よりも普及部門に携わっている方々のほうが対象年齢に合った接し方ができていると思います。見方を変えると、結果を求められないからとも言えますが、試合もないないからプレッシャーもなくコーチたちも伸び伸びと子どもたちに合った指導ができてています。このシステムは良いと思うんですよね。
それが育成になると一変して、勝たないとダメになります。例えば、Jクラブの指導者であっても、『私はジュニアがいい』という人がいてもおかしくないですし、またその分野のエキスパートがいるべきです。ジュニア年代のコーチのほうがジュニアユースより年俸が少なくて、ジュニアユースのほうがユースより年俸が少なくて、という評価の在り方も本来はおかしな話なんです。
そういう社会環境もフラットになるような時代になってくればとも思います。
年齢特性といった部分では、マッチング・プログラムができるような、仮に全指導者がそういうことを知ってたら組織上のつながりがなくても、『この子は中学生で、きっと小学生の頃はたくさん技術的なことも学んできてるし、コーディネーション能力もあるから』という風に指導者同士で分かり合えるようになっていくはずです。
ドイツで移籍してもそれほど問題が起こらないのは、日本の育成現場と比べて『発達発育』の部分がより意識されているからです。あと、ドイツの指導者はボランティア的な人たちが多いですね。結局、勝っても負けても結果だけに左右されないんです。
給料が上がるわけでもないし、移籍する子はそれを受け入れているし、だから目の前の選手たちに対して余裕を持ってコーチングできるというのもあるかもしれないです。もちろんエリートレベルでは、U-15くらいからは徐々に育成のコーチもプレッシャーあるようです。特にアカデミーは負けたらすぐに外されるなども。ドイツでも、そういう結果主義的なところはあるけれども、3種と4種が結果主義になるのは良くないと思います。『4種がこんなに厳しいことをやっていたら、その子たちは大変だ』と危機感を抱きます」
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